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シビックテクノロジストの実践ガイドの私的要約(一部)
本稿は、サンフランシスコ市のチーフ・デジタル・サービス・オフィサー(CDSO)であるCyd Harrell(シド・ハレル)氏が2020年に公開した、公共領域で活動する技術者に向けたガイドブック『A Civic Technologist’s Practice Guide』(シビックテクノロジストの実践ガイド)より、一般公開されているChapter3「WAYS TO CONTRIBUTE(貢献の方法)」の一部を、筆者の頭の整理のために書き起こした要約記事です。
一部意訳や意味の取り違えも含まれる可能性があることをあらかじめご了承ください。
また、ガイドブック自体は2022年に日本語版が発刊されています。
ご興味を持たれた方はそちらもご覧いただく事をおすすめいたします。
要約の背景
2024年の年末に、技術の進化が民主主義に与える影響を研究し技術と政策の橋渡しを行ってるシンクタンク「NewAmerica」のブログで、「コミュニティ主導のイノベーションを通してシビックテックを再考する」(Rethinking Civic Tech Through Community-driven Innovation」)という記事が公開されました。
このブログの中で、コミュニティ主導のアプローチの重要性を説く人物としてCyd Harrell(シド・ハレル)氏と『A Civic Technologist’s Practice Guide』(シビックテクノロジストの実践ガイド)が引用されておりましたが、まだガイドブックを読んでいない事を思い出し、年末の空き時間を活用し公開されているChapter3のみを試しに読むことにしました。
発端となったブログ自体もどこかで触れてみますが、今回は『A Civic Technologist’s Practice Guide』のChapter3について筆を進めたいと思います。
要約
①シビックテックコミュニティとは
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Chapter3では、シビックテックコミュニティとはシビックテックに関与する市民グループとして紹介されており、その特徴を箇条書きで書き出します。
活動資金やリソースについて
プロボノのボランティア活動であり報酬は支払われない。
(資金が豊富なグループのリーダーシップポジションを除いて)非営利団体として法人化される場合もあり、その際は寄付や基金からの資金提供を受けることもある
多くは会員の貢献やボランティア労働に依存し運営されている
コミュニティプロジェクトの特徴
必ずしも古い慣行を再構築しようとせず、特定の市民的な善を目指している
特に地元のコミュニティに焦点を当て、拡大を目指さない場合もある
プロジェクトは、別のシビックテックコミュニティにオープン化され再利用・拡散される場合もある
コミュニティプロジェクトを始める場合、①その作業量を過小評価しないこと、②すでに誰かがその問題に取り組んでいるか確認すること、③謙虚な姿勢で人々に接し、深く耳を傾けることが重要
最大の課題は、長期的な財政的持続可能性
これらのプロジェクトは直接的な収益を生み出すことがなく時間と忍耐が必要
ここでは「ビジネスモデル」ではない、持続可能性のモデルが必要となる
インクルーシブなスペースと構成が必要
創設メンバーは多様であることが理想
多様性が低いと無意識的に排他性が強くなる
少数派にとって安全で歓迎される場となるように努力する
公に(そして本気で)、少数派であっても主要な役割を担ってくれる協力者を積極的に求めていると表明する
オンラインおよびオフラインの会議スペースをすべての人にとってアクセス可能ものを用意する
ハッカソン、オープンソースプロジェクト、ボランティアの集会などの場合、嫌がらせや差別を許容しないことを明記した行動規範を目立つ場所に掲示する
カンファレンスやイベントで話者を募集する場合、匿名の一次審査を設ける
「ここではビジネスモデルではない、持続可能性モデルが必要」
「最大の課題は長期的な財政的持続可能性」
といった、コミュニティ運営の課題感は日本国内にも通ずるところはあるかもしれません。
国内のシビックテックコミュニティについても、観測している範囲では同様な定義が当てはまるところが多いように感じます。
情報としては少し古いですが、CivicWaveの「コミュニティ」を参照としていただくと雰囲気はわかるかもしれません。
②シビックテックコミュニティの活動と自治体の関係
シビックテックコミュニティと自治体の関係に関する記述には「理想的」とも言える内容が散見されました。
大きく以下2点印象に残った点を書き出すと共に、関係性を簡単に図示してみました。(情報のソースは確認していないため、適した用法用量で御覧ください)
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②-1.オープンイノベーション型の組織「イノベーションラボ」
通常の行政業務よりもリスク許容度が高く、市民やコミュニティと協力しプロトタイプの作成やテストに取り組むイノベーションラボという、オープンイノベーション型の組織が存在するようです。
▼イノベーションラボの活動例として挙げられていた内容
プロジェクトが始まる前の段階から、行政職員が課題やデータをコミュニティに持ち込む
課題領域に関連するステークホルダーを紹介する
データの提供や実証実験のサポートを行う
プロトタイプ開発や試験運用の支援
ビジネス的エコシステムである程度解決可能な領域は、「Startup in Residence」に代表されるような、スタートアップ型のオープンイノベーションプログラムが適用される事もありますが、ビジネスとは異なるエコシステムを求められる領域においても、このような組織的オープンイノベーション活動が広がって欲しいですね。
②-2.行政サービスやソフトウェアとしての採用に取り組む「デジタルサービスチーム」
行政として優先順位が高い実用レベルのソフトウェアやサービス設計を担当範囲として活動する組織「デジタルサービスチーム」が、前工程で検証を終えたプロトタイプの導入を引き継ぐようです。
▼デジタルサービスチームの活動例として挙げられていた内容
内部技術スタック等としての採用を検討
スタートアップ化、法人化を要請し、サービスを利用・費用の支払いを検討
日本国内ではまだまだ双方未成熟な領域です。人的・金銭的リソースの投資を経て、整備される事を期待したい領域です。
最後に
私が所属する一般社団法人シビックテックジャパンでは、シビックテック的な発想で地域社会をよくしていこうとするコミュニティ、企業、行政等のハブでありたいと考え活動しています。
日本の環境や状況にあったエコシステムが成立するよう、活動の幅を広げていきたいと考えておりますので、ご興味をお持ちいただけましたら、以下ミッション・ビジョンなどを御覧ください。