「恋の都」

三島由紀夫先生の、9作目の平易に書かれた長編小説。

終戦から10年以上経って、復興から経済成長、冷戦時代に入る時の小説で、主婦向けの月刊誌に掲載された大衆小説とはいえ、戦中、戦後と時代に翻弄された男女の恋愛模様を、三島らしい材料を交えながら描いたもので、気負わずに読めた。多分、2回目。

主人公は、美しいジャズ・バンドの女性マネージャー(26歳)。
彼女には、過去に、敗戦と共に切腹したとされる、ある右翼団体に所属してた恋人がいた。
恋人とは「戦争で日本が大勝利する日に結婚しよう」と誓い合ってた。
しかし、敗戦、彼女は恋人の位牌を見せられたのだ。
8年後、死んだと思ってたその恋人が、生きて香港に潜伏してたのを知らされて、東京に来た彼と会うことになる。
彼は「僕は20歳の時に死んだのさ。それ以来、僕の年はなくなったんだ」と言い、以前の右翼思想を捨てて、アメリカ人のように堪能に英語を喋る。
彼は密かに大陸に渡って特務機関で働いており、今はアメリカの某機関のエージェントだという。
その彼からプロポーズされて、迷ったけど、「yes」と受けることにする…。

平易な恋愛小説でも、その背景には、右翼だった恋人が、敗戦と共にアメリカのスパイになってて、主人公も彼からのプロポーズを受けるというコペルニクス的転回から、日本という土壌の深い許容性を表してると思う。

ある意味、その許容性が日本の良いところであって、何でも受け入れて、時にはオリジナルを超える日本独自の文化としちゃうのだ。

基本、神話で成り立っており、コアとなるものも曖昧で、常にフワフワとゆっくり流れてる感じだけど、まず何でも受け入れることから独自の文化を創っていく…さすが三島由紀夫先生、日本のことをよくわかっている。

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脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。