【古典邦画】「わが恋せし乙女」
木下惠介監督の、1946(昭和21)年の小品「わが恋せし乙女」。
美子と名付けられた、捨て子の赤ちゃんが、美しく成長して、戦争から帰った血のつながらない兄・甚吾が想いを寄せるものの、美子には意中の人がいたという、兄のカンチガイと失恋の話だ。
戦場でも頻繁に身を心配する手紙をくれて、帰ったら、親しくボディタッチをして、「お兄さん、話があるの」と言われて、兄の甚吾は、きっと、俺と結婚したいという話だろうと舞い上がっていたところ、「実は大好きな人があるの。お兄さんに話したかった」ということで、ものすごいショックを受けるのだ。
わかるぅ〜、そういうことあるよね〜。切ないね〜。男はすぐにカンチガイしちゃうものだ。
美子の相手の男は、弱そうな文士みたいなヤツで、戦争で負傷して脚が不自由なのだが、甚吾は、美子が彼を支えている姿を見て、2人の真実の絆と愛を感じる。
そして、甚吾がエラいのは、苦悩はあるものの、妹の幸せを考えて、笑って祝福してあげることなのだ。
妹・美子を演じたのは井川邦子。そんなに美人だとは思わないけど、やたらと彼女の顔のアップが多い。溌剌としたフレッシュさを演出してるものと思われる。
舞台となる北軽井沢の風景も良し。
井川邦子は、もう鬼籍に入っているが、女優を引退した後、亡くなるまで鎌倉で経営していた喫茶店「珈琲井川」が今もあるという。行ってみたいものだ。
美子の、脚の悪い彼氏がいう。
「戦争で酷い目にあったけど、この脚を恨んだり憎んだりする気持ちにはなれません。
ビッコのこの脚を撫でていると、よくぞ生きていたなと思ってたまらなくこの脚が可愛くなって来るんです。
死ぬほどの苦しみをしてきた人でないと、本当に生きていることの有り難みはわからないんじゃないかしら。
そして、その有り難みをしってる人だったら、決してくだらない生き方はしないと思います」。