「誘拐」
昭和の、戦後最大の誘拐事件といわれた「吉展(よしのぶ)ちゃん事件」のノンフィクション。
東京オリンピック前の1963年(俺様が生まれる一年前)に、東京・台東区で発生した4歳の男児誘拐殺人で、犯人は小原保(当時30歳)。
警察のミスもあって、まんまと身代金50万円を盗られ、男児も誘拐直後に殺害されていた。
約3年後に、窃盗罪での服役中の小原が逮捕され、有名な昭和の名刑事、平塚八兵衛の取り調べによって自供した。
裁判では死刑が確定、4年後に執行された。享年38。
この事件で、初めて被害者側のプライバシー保護の観点から報道協定が結ばれた。
誘拐犯・小原保は、福島の農家の11人兄弟の五男として育ったが、案の定、ド貧乏で、わら草履で長距離を歩いて学校に通ったことで骨髄炎を起こし、それが元で大人になっても脚を引きづるようになった。
時計修理店他、様々な商売に手を出すが、飽きっぽくて、平気でウソを付き、身内をはじめいろんな人に借金をし、窃盗や詐欺で獄中にあったことも。
何よりも小原の身内が揃いも揃って皆、精神を病んだり、ヘンタイだったり、自殺したり、行方不明になったり…“呪われた血筋“といいたくなる環境。
小原自身も異常に性欲が強くて、妻に拒否されると妻の前で自分でシコるのもしょっちゅうだった。
そんな小原が借金に困って犯罪に走るのは時間の問題だったわけだ。罪を憎んで人を憎まずだけど、幼少期のアウトローになるしかないような家庭環境で、こういう人間は一体どうすればいいのかともどかしくなる。
本人との電話のやり取りや関係者の証言、取り調べの様子など、引き込まれる臨場感・緊張感に迫力があって、著者は相当取材を重ねたんじゃないか。一流のノンフィクションだ。
小原は獄中にあってから宗教に入信し、短歌雑誌に自作の短歌を多数投稿して改心、永山則夫と同様、獄に入ってから表現の素晴らしさに目覚めたようだ。
最期は「真人間になって死んで行きます」との遺言を残して死刑台の露と消えた。
荒川区南千住の円通寺にある「吉展ちゃん地蔵」を見に行きたくなった。
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。