【映画】「ある戦慄」
1967年のアメリカ映画「ある戦慄(The Incident)」(ラリー・ピアース監督)。
ニューヨークのブロンクスを走る地下鉄車内が舞台の映画で、各々の人間の心理を、恐怖でじわじわと浮き彫りにしたトラウマ映画だった。
土曜日の深夜2時、夜通し走る(土曜だからか?)、落書きだらけの地下鉄の最後尾車両にに、それぞれ事情を抱えた16人の客が乗り合わせる。
シートで眠りこけるホームレスの酔っ払いをはじめ、チャラい遊び人の若者と彼にゾッコンの美少女、眠る幼い娘を抱えた中年夫婦、息子に金を無心して断られ、怒ってる老紳士とそれをなだめる妻、派手な身なりの妻と尻に敷かれてる旦那、仕事も妻子も失って絶望してる中年男、彼を気にしてるゲイの青年、スーツを着た黒人青年と同じく黒人GF、休暇中の軍服の若者2人…。
そんなフツーの庶民を乗せて、地下鉄はマンハッタンの地下に入って行く。
その前の駅で、2人のチンピラ風の若者2人が乗ってくる。
彼らは地下鉄に乗る前に、通行人のオヤジ狩りでわずか8㌦の金を奪い、オヤジを何回も殴りつけている。殺したかもしれない。
彼らは乗り込んだ途端、車内を走り回り、吊り革にぶら下がったり、ポールで回ったり、大声をあげてふざけ合い、乗客一人一人に絡んでいく。飛び出しナイフをチラつかせて、まるでドラッグをキメてるみたいに、土曜の深夜の行き場のない暴力衝動をぶつける様に、地下鉄に乗り合わせた一般庶民を脅して回るのだ。
NYと違って治安が良いとはいえ、日本の首都圏でも長いこと電車に乗ってれば、似たような経験は、誰しも多かれ少なかれあるだろう。いきなり車内の秩序を乱す酔客やオカシな人の乱入。
俺も学生時代、深夜の中央線は、高尾に近くなればアナーキーな雰囲気となり、酔っ払いばっかで、ちょっと派手な格好をしてれば、よく絡まれた。
2回ほどケンカになって、“窮鼠猫を噛む”で持ってたギターで殴りつけたこともあった。今はそういうのはないと思うけど。
この映画はまさにそれ。
暴れ回るのはジョー(トニー・ムサンテ)とアーティ(チャーリー・シーン)の2人だけなのだが、16人の乗客は怯えるか、余裕をかまして笑うしかない(裏返しで怖いからだ)、女の前でカッコつけてた男も止めろともいえずに、女が絡まれても、震えて黙ってるしかない。
2人の闖入者で、それぞれの夫婦も、日頃、溜まってた鬱憤を晴らして、罵り合ったり、憎みあったり。フツーの穏やかな日常が、粗暴の悪い2人によって壊されて、本来なら2人に向くべき怒りが、側の一番身近な人に向いてしまったのだ。一種の意図しない洗脳だね。
昔のNYの地下鉄って、マジで危なかったろうなぁ。
最後に、チンピラ2人を倒すのは、片方の腕にギプスをした休暇中の軍服の若者。田舎出の純朴な兵士で、穏やかでギリギリまで何もしなかったけど、ついに堪忍袋の緒が切れて、ギプスで何回も何回も殴りつけて、多分、殺すのだ。チンピラ2人が地下鉄に乗る前にオヤジ狩りで殺した様に。
終点に到着して、呼ばれた警官がなだれ込んで来るが、スーツの黒人青年を見た途端、犯人だと決めつけて逮捕しようとするのは今でもありがちだけど。
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