【邦画】「赤い殺意」
今村昌平監督の、1964(昭和39)年の日活作品「赤い殺意」。Amazonプライムにて。原作は藤原審爾の小説。超名作「にっぽん昆虫記」を観る前に。
鬼才・今村監督は、主に、地方の日本人の営みを、飾ることなく、生と死、苦悩、闘い、エロスに至るまでに肉薄し、そのまんま躊躇なく徹底的に描く。それだけにウンザリすることもあるのだが、やはり受ける衝撃が大き過ぎて、目を離すことができないのだ。
この作品も、今村節が冴え渡る、まさに“重喜劇”である。2時間半の長尺だ。重喜劇とは“軽喜劇”に対抗した今村監督の造語で、例えば、笑いの中にも、軽いものばかりではなく、人間の欲望とか闘争とか真実を描いて、腹に重く響く笑いがあるということだ。
主演の春川ますみが体当たりの演技で素晴らしい。
舞台は東北・仙台。
大学図書館に勤める夫と妻、貞子は息子と3人暮らし。
夫が出張で家を空け、息子は実家に預けられ、貞子独りの夜、包丁を持った強盗が推し入り、貞子は暴行されてしまう。
貞子は、ショックで自殺を試みるも果たせずに、彼女を好きになった強盗は、度々来て関係を持ち続けてしまう。
一方、夫は、職場の同僚と長年、不倫の関係を続けていた。
そのうち、貞子の妊娠がわかり…。
ちょっとアタマが弱いんぢゃ、と思われる貞子は普段、不倫をしている夫には支配されて女中の如くこき使われ、夫の母には疎まれ、幼い息子にもバカにされる始末。
暴行されたことを誰にも言えずに、度々やって来る暴行犯の青年に、「もう来ないで!」と訴えるものの、ずるずると関係を続けて、彼の誘いに乗って上京のために電車に乗ったり、彼が働くストリップ劇場に行ったりしてしまう。
実は、周りで彼だけが貞子を対等に女として扱っているのだ。夫の不倫相手に現場をみられても、妊娠がわかっても、知らない、わからないとウソを通し続ける貞子。無理矢理の逃避行の間に病気だった暴行犯の青年は死に、夫の不倫相手もトラックに跳ねられて死ぬことに(このシーンが衝撃的)。
春川ますみが演じる貞子は、美人ぢゃなくてでっぷりしているが、陰影を使った演出により肉体が強調されて、とてもエロチックであり、その情念を感じさせる肉に男は溺れてしまうのかもしれない。太ももに蚕を這わせる場面もそれを現している。
モノクロの寒くて暗い背景の中、これでもかとトコトンねちっこく描かれる女の情念。東北の土着性を背景に、贖えない性の魅力と女性の強さ・逞しさを描いた作品だった。また脇を固める野郎たちが卑屈でいやらしくて強権的で良い味出してる。
今村昌平監督の真骨頂だな。
ずっと続いてる下水道が流れてるような音は何だろう?