【映画】「ハート・ロッカー」
ジェームズ・キャメロン監督の奥さんだったキャスリン・ビグロー監督の「ハート・ロッカー(The Hurt Locker)」(2008)。
アカデミー賞の各部門賞を受けた作品。イラク戦争を舞台としたアメリカ軍の爆弾処理班を描いたもの。2000年代の戦争映画だから、とことんリアルにこだわって、戦場における人間の狂気を描くものなのだが、狂気は狂気でも、ちょっと毛色が違うものだ。自分の命よりも、仕掛けられた爆弾の起爆装置を外すことにヲタク的好奇心が最大限に働くという男の物語だ。
車に仕掛けられた爆弾と起爆装置を探し出すのに、防護服やヘルメットは重いし暑いし邪魔だと脱いで、小さな懐中電灯を手に隅々まで顔を突っ込む姿からは、もうアドレナリン出まくりだろうということが想像できる。そして、外した起爆装置を段ボールにコレクションしてたりする。
解体した爆弾は873個以上というベテランのウィリアム・ジェームズ一等軍曹だ。これも「アメリカン・スナイパー」と同様、死ぬか生きるかのギリギリの戦場でしか生きがいを感じれなくなったPTSDかもしれない。実話ではないけど。
死を恐れずに、今にもドッカーンと爆発するかもしれない状況で、リード線を手繰り寄せて一つ一つ切っていくようなシーンが続くので、最初から最後まで緊張感がハンパなくて目が離せない。
途中、軍曹が上官らと酒を呑んで酔っ払い、腹を殴り合うというシーンが息抜きだけど、肉体派の男たちがお互いに意味のわからない殴り合いをするなんて、これは女流監督の趣味だったりして。
軍曹は後半、親しくなったDVD売りのイラクの少年のことでふと気付く。戦場となった町でたくさんの爆弾を処理してきたが、イラクの現状やアメリカ軍の立場など、何も知らなかったことに。ただ、ヲタクのように爆弾処理ばかりに熱中してた自分に。
休暇の除隊期間で国に帰っても、奥さん(別れた)や子供が一緒に居ようとも、どこか空虚で居る場所がない。
そして、期間が過ぎると、また嬉々として戦場に帰って行く。そこで、なんとミニストリーのメタルっぽいBGMが流れる。
人を殺す、人が死ぬ殺伐とした風景に心を病んでいく狂気と、一つ秀でた特技があってそれが結果を出して期待されてハマっていく狂気と、最近の戦争映画には2つあるね。この映画は後者だけど、やはり戦争は麻薬なのかもしれない。