【映画】「戦争と平和」
1956年公開の、200分を超える文芸大作「戦争と平和(War and Peace)」(伊・米合作、キング・ヴィダー監督)。
原作はレフ・トルストイの小説だけど、若い頃、途中で読むのを挫折した思い出がある。ロシアの小説ってとにかく長いものだ。
中心人物のお嬢、ナターシャをオードリー・ヘップバーンが、ピエール伯爵をヘンリー・フォンダが、婚約者となるアンドレイ公爵をメル・ファーラーが演じたもので、昔のハリウッド映画ファンだったら喜んで観ただろうなぁ。
基本、当時の帝政ロシアの貴族の私生児ピエールと、伯爵令嬢のナターシャの貴族恋愛メロドラマだけど、背景に、ナポレオン率いる仏軍が侵攻したことによるロシアを巻き込んだ戦争があって、様々な悲劇が生まれるといった流れだ。戦争大河ドラマだね。
当初、ピエール伯爵は令嬢ナターシャに想いを寄せてたが、彼の莫大な遺産を目当てに寄って来た貴族令嬢へレーネと結婚しちゃうし、後にナターシャの婚約者となるアンドレイ公爵も、実は外国に妊娠した妻がいて戦地に赴くし、ナターシャもアンドレイと結婚を誓い合ったのに、アンドレイの出征中に寄って来たプレイボーイに惚れて結婚しようとするし、もう即、惚れた腫れたで後先考えずに「君が一番だ」「あなたが一番よ」と熱くなっちゃうのには笑っちゃうね。
自分の今の感情に素直過ぎるよー。
フラフラ、フラフラしてる登場人物だけど、結局、ナターシャの婚約者アンドレイは非業の戦死、紆余曲折の末に、彼女は再会したピエールとともに歩むといった結末。
「私も、男だったら戦争に行きたい。勝って凱旋して行進したいわ。戦争って楽しみのひとつね!」と語る戦争を知らない純なナターシャだけど、屋敷に戦傷兵が来るのを見て戦争の真実を知ることに。
ピエールも戦争を知りたいと最前線にわざわざ見学に行って敵兵に銃殺されそうになる。当時の貴族階級って戦争そのものを知らなかったのだろうか。
オードリー・ヘップバーンの、モノを知らない騒がしい演技がナターシャにピッタリ。痩せて、顔が小さくて、首が細く長く、“おしゃま”なお嬢さんって感じだ。舞踏会で素敵なドレスで踊るシーンは流石だと思うけど。
「私はたくさんの男性と知り合って恋をするの。一人じゃ満足しない。結婚なんかしないわ」…。
ラストは、戦争のシーンが続き、「苦難のときも人生を愛せ、人生がすべてだから。人生を愛すとは神を愛することである」と、命の大切さを訴えるトルストイの言葉で了となる。
しかし、ネール元インド首相が言うように、本来、愛とは決して平和ではない。愛は最も身近な闘いなのだ。誠実を武器に、地上における最も激しく、厳しい、自らを捨てて関わらなければならないほどの闘いであるのだよ。
この映画を観る限り、当時の貴族らは、羨ましいほど愛という欲望に大変素直であり、神という存在の前だけ自分を律するものなのだ。今の俺には愛はただただ苦悩でしかない。
いつの時代も文芸大作は、愛という人間の最大の苦悩を上手くお洒落に描いてくれるねぇ。
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