【洋画】「生きる LIVING」
世界のクロサワさんの、数少ない、とても良い名作のひとつである、志村喬主演の「生きる」(1952年)。そのリメイク作品「生きる LIVING(Living)」(2022年・イギリス、オリヴァー・ハーマナス監督)を、Amazonプライムにて。
カズオ・イシグロが脚本。
舞台は、1953年のイギリス・ロンドン、役所の市民課の老年のウィリアムズ課長が、末期の胃ガンを患い余命半年を宣告されて、自分の人生を見つめ直す…。
設定は、クロサワさんの映画とほぼ一緒。
昔のイギリスの役所も、日本と一緒だったのだろうか?職員は、機械の如く、ただ与えられた業務をこなすだけの毎日で、市民が陳情に訪れても、責任逃れから、各部署をたらい回しにさせる。冷たく無表情で堅物で、いわゆる心が通う仕事をしていないという訳だ。
医者から、半年か長くて9ヶ月の寿命を宣告され、死が見えてきたウィリアムズ課長が、自分の仕事人生を振り返り、意味はあったのかと自問自答、無断欠勤をして、ハメを外してリゾート地で遊んでみるものの、答えは見つからず、同居の息子夫婦に話そうとするが、日頃から疎遠であるために言い出せない。
ロンドンに戻って、街をフラフラ歩いてたら、退職した部下の若い女性とバッタリと出会う。彼女と逢瀬を重ねて、正直に、息子にも言えなかった自分の状況を話すことで、最後に何か心に残る仕事をしようと決心するのだ。
部下だった女性は、決して順風満帆というわけではなく、苦労してウェイトレスをやってるが、未来を見て明るく前向きな姿勢に、堅物で“ゾンビ”とあだ名されたウィリアムズ課長も心を動かされるのだ。やっぱり、老年となっても男が心を動かされる存在は女性に限るものだ。
そして、役所に戻り、市民から陳情のあった、通りの一角にある小さな汚い資材置き場を子供たちの遊び場に変える仕事に全勢力を傾ける。人が変わったように、関係部署を訪れて、渋る役人たちやお偉方を説得して回る。
ウィリアムズ課長が死んだ後で手柄を取られようと、彼は最期は幸福のうちにこの世を去ったのだ。死んでからのストーリーもけっこう長い。
後半、ウルウルきちゃったけど、クロサワさんの映画よりは、情熱的ではなくて、しつこくもなく、クールに距離を保って、テンポ良く描かれる。クロサワさんの映画も素晴らしいとは思うが、演者が役になりきって思いっきり感情を出すのに比べて、クールに演じて役柄の持つ感情は観る者に想像させるという、クロサワさんよりは小津安二郎の描き方に近いと思う。で、俺もこっちの方が好きだ。
役に立つか、立たないかは別にして、ムダになるかもしれないけど、例え、とても小さなネジであっても、誰かがそうでなければならない、そうでないと動くのに支障が出ることもある…本来、仕事とはそういうものではないだろうか。仕事をして金を得る、その時点ですでに何らかの歯車と化すのである。個人のうちに“生きる”意味なんてない。ただ生まれて、ただ死ぬだけだ。意味は周りがそれぞれ見出すものだよ。
映画を観て、これまでの自分が辿って来た道を想う。と、少しの意義も見出せずに、猛反省、不満、絶望、虚無、自暴自棄、そして多分、希死念慮に陥っちゃうから止める。
まあ、とにかくとても良い映画だった。
ウィリアムズ課長が部下に残した手紙。
「あの遊び場の建設は、ごく小さな出来事だ。そう遠くないうちに、誰も気に留めなくなる。使われなくなったり、建て替えられることもあるだろう。後世に残る何かを造ったわけじゃない。もしもこの先、働く目的を見失うことがあったら、単調な毎日に心が麻痺してしまったら、そんな時は、あの遊び場を思い出してほしい。あの場所が完成した時の小さな満足感を」
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