【洋画】「アメリカン・ビューティー」
1999年の米映画「アメリカン・ビューティー(American Beauty)」。
ダニエル・クレイグ007、「1917」のサム・メンデス監督。
アメリカらしいホームドラマのようなPOPコメディなのだが、ほとんどの登場人物が危ないサイコで、暗〜くて重〜い、現代アメリカ社会が抱える闇を描き出している傑作だ。
広告代理店に勤める中年男。
郊外に家を持ち、妻と娘と一見、幸せな家庭を築いてるようだが、不動産業を営む妻は、成功して大金を掴むことしか頭になく、夫を見下しており、ついに同じ業界の成功者の男と浮気する。
ティーンエイジャーの娘は、両親に対して不満タラタラで、特に父親を激しく嫌ってる。
中年男は、仕事でも家庭でも蔑ろにされて、うだつの上がらない態度で、中年が陥る心理的危機感を感じていた。
ある日、中年男は無理矢理、娘のチアリーディングを見に行かされて、娘の、大人びたセクシー系の親友を見て衝撃を受けて恋に陥る。
中年男は、積極的に生きる希望が湧いて来て、仕事や家庭をリセットして、娘の親友に好かれるために身体を鍛え始める…。
中年男の変貌と同時に、周りのウソで固められて世界が徐々に崩れて、登場人物の真実が暴かれていくといったストーリー。
娘の親友が、同級生はじめ男がいやらしい眼で自分を見てることを自慢し、「あなたの親父のアソコ大きい?」などとズバズバと下ネタを話す。
娘は、隣に越して来た、ビデオが趣味の、変わった息子に惹かれて、仲良くなってお互い恋に落ちる。
この息子の父親が元海軍で保守的な考えを持って、特にゲイを嫌ってる。
こうした表向きの顔や態度がドンドン崩れていくのだ。娘の親友は実は経験なしの処女だったし、娘の彼氏はマリファナを売って小遣い稼ぎをしてるし、彼氏の父親は実は自分がゲイだったし、妻も、浮気相手に貪欲に肉体を求めるようになって、不動産業の社交界はフェイクだらけ。
表向きは郊外の一軒家に住むアメリカの典型的中流家庭だけど、内実はドロドロとした欲が渦巻く真っ暗な世界。
娘の彼氏が、「美しい画像を撮った」と見せたのは、ただ空のビニール袋が路上で風に舞ってるだけの映像。まさにコレ、風が吹くままにフワフワ浮いているようなもので、地に落ち着くことはないのだ。
ラストで、中年男は、娘に対して父親としての自覚が生まれ、幸せそうに昔の家族写真を見てるところに、突然の銃声。中年男は、幸せそうに微笑みながらも死んでいく。撃ったのは…。
実は、「日常」と「普通」くらいにクレイジーなものはない。基準がないために、人間だったら誰しも持つ心の闇の部分が容易に噴出しやすいのだ。人間の世界は、大半がウソ、フェイクで作られているのは当たり前だ。それが良い方に向かえば希望になるし、悪い方に向かえば欲の過剰な発散になる。
もう、いろいろとてんこ盛りのおぞましい映画で、あるあると頷く一方で、マジか…と唖然とする、自分が持つ闇もダイレクトに見せられたような気になるよ。
面白い映画を観たけど、アメリカの闇は深い。