【映画】「異端の鳥」
チェコ・ウクライナの2019年の映画「異端の鳥(The Painted Bird)」(ヴァーツラフ・マルホウル監督)。
モノクロで、古い映画だと思ってたら、まだ新しいのだね。
作家イェジー・コシンスキ(自殺したらしい)の小説「ペインティッド・バード」が原作。
コレも3時間弱の長い、静かな映画だけど、不思議と退屈になったり眠くなったりはなかったな。
第二次世界大戦中に、ナチスのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を逃れて疎開したユダヤ人の少年が、様々な差別や迫害、攻撃に遭いながらも、生き抜いていく姿を描く。
ネットでも評判の通りに、少年への虐待のシーンが多々あって、確かに衝撃的ではある。俺にはそんなでもないけど。
欧州の田舎の風景を除いて、なんとも言えない、暗く、人は汚れて、澱んだ雰囲気が全編を包んでる。
祖母のところに疎開で身を寄せた少年。
ある日、世話をする叔母が突然死、驚いた少年は持ってたランプを落としてしまい、祖母の家は全焼、少年は身寄りをなくしてしまう。
そこから少年の、生きるための、まるでジプシーのような放浪の旅が始まる。
基本、ユダヤ人ということで、彼は“異形の者”と見なされ、行く先々で酷い目に遭ってしまうのだ。
少年は運良く生き抜いて、自分を迫害する大人たちを攻撃して、ついには殺すことを覚える。
しかし、偶然、父親と出会い、バスで母の元へ帰ることになる…。
ラストは、救いと希望を感じさせるシーンで終わるが(原作とは違うらしい)、俺的にはちょい拍子抜けだったな。ここまで、虐待行為の数々が描かれたのに、最後にこんな終わり方をさせずに、今度は少年が攻撃する立場になって、虐待などの暴力は決して一時の特別なものではなく、人間が持つ普遍的なものであることを観る者に徹底的に示してほしかった。ホロコーストと相まって。
少年が、虐待を受ける度に言葉を失っていき、後半は全く言葉を発さなくなる。コミュニケーションの基本である言葉を拒否して、自分への虐待をも、傍観者のごとくジッと見るだけなのだ。後半、少年の表情も無機質なものに変わってくる。
殴る蹴るの圧倒的な暴力から、吊るす、敬虔なキリスト教徒が自分の性の慰みものにする、若い女性が身体を開くが応えられなくて冷たくされる…etc。
ただ、ナチス親衛隊やソ連軍人が結果、少年を助けることになるのは、暴力を体現するからなのか。
先の「シンドラーのリスト」や「戦場のピアニスト」、「愛の嵐」、「ソフィーの選択」等と同様、この映画も、一応、ベースにホロコーストがあるが、それよりも、人間にとっての命をも脅かす差別、迫害、暴力…それが日常に潜むことを、監督は示したかったのではないかと思う。それは薄汚れた登場人物の表情や視線、言葉、性生活にまで及ぶのだ。
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。