【邦画】「飢餓海峡」
水上勉の推理小説が原作の「飢餓海峡」(1965年、内田吐夢監督)。モノクロ作品。これまた3時間超えの大作。
ダラダラと長い感じ(こんなセリフはいらねぇだろって思ったところも多し)もしたけど、戦後混乱期の日本らしい犯罪とその残酷さ、女の誠実、深い悲しみと哀れさを登場人物に投影させた傑作であった。
戦後間もない昭和22年、まだまだ社会は混乱期にある中、青函連絡船の転覆事故を発端に、貧困と飢餓が生んだ、ある殺人事件の発生から哀しい解決まで。
田舎の、ある娼婦(左幸子)が一夜を共にした犯罪者の大男(三國連太郎)から、思いがけない大金を渡されて、娼婦という悲惨な環境から抜け出す希望を与えられて、借金を精算して上京する。
10年以上経ったけど、彼女は決して、大男の恩を忘れることなく、大男の爪(客となった時に切ってあげたもの)と大金を包んでいた新聞紙を肌身離さずに持っていた。
犯罪者の大男は、名前を変えて、事業で成功して実業家になっていた。
それを知った娼婦だった女は、人目会って当時のお礼をと訪ねるが、大男は昔を誰にも知られたくなかったのだ。
そして、ついに…。
恩を忘れることなく、一途に大男を想って懸命に働いて大金を貯めたは良いが、昔を隠したい大男に殺されてしまう娼婦の女と、殺人犯から転身して実業家となって刑務所に大金を寄付するまでになったけど、また殺人に手を染めてしまった大男と…。
全ての原因は昔の飢餓をもたらす貧困にあったのだ。貧困から来る異常なまでの金への執着。それが2人の人生を結局狂わせてしまったというわけだ。
三國連太郎って、こういう秘めたる狂気を持った悪役がピッタリだね。後半になって、やっと高倉健さんが登場だけど、若い刑事役の健さんと犯人の三國連太郎が取調室で言い合う場面なんて、駆け引きが面白くて、ハラハラドキドキと引き込まれたよ。
何でも優しく笑顔で受け入れる左幸子の女らしい奥深さも素晴らしい。着物で乱れたり混浴に入ったりするところは凝視しちまう(笑)。
不満を言えば、ラストに三國連太郎がフェリーから飛び降りて自殺するけど、もっと犯人としての心情を語る場面があってもよかったかなぁ。長いのだからさ。
昭和のこういう映画には、人間のドロドロとした負の感情の表現がこれでもかとあって面白いし、演じる俳優も上手いね。まさに重厚な人間ドラマ。時代が違うかもだけど。しかし、恐山のイタコは不気味!