【邦画】「春の雪」
2005(平成17)年の、行定勲監督の作品「春の雪」。Amazonプライムにて。
この映画は、確かに公開時に映画館で観た。パンフも買った。
もちろん原作は三島由紀夫の「豊饒の海」の第1巻。
主人公の松枝清顕は妻夫木聡が、ヒロインの綾倉聡子は、2020年に自殺した竹内結子だったね。だからじゃないけど、美しく高貴で、かつ深い哀しみを持ち、今にも消え入りそうな薄い影の聡子の役にハマって見えるね。
「子供よ、清様は。何もお分かりになってない」、コレに尽きるなぁ。クソガキの清様め!
本当は夢を見るほど好きなくせに、男の、内面の純な心が女に靡いてしまうのを決して許さない。だから冷たい攻撃的な態度を取ってしまう。こと恋愛に関しては、女の方が何倍も熟成してて大人なのである。
(心が)童貞男が、真に内面を吐露して肉欲に走った時には、もう既に遅い。恋愛の情を超えて、ただ肉欲を解消するだけになってしまうのだ。聡子が他に結婚が決まってるからこそ、肉欲という愛は激しく燃え上がる。
…で、聡子は分かってたように懐妊、それは破滅でもある。堕胎と清顕を守るために、一度、心を硬く決めた聡子は出家することに。清顕がいくら醜く無様に俗世間と同様に地に堕ちて、なりふり構わずに聡子に愛を囁こうとも、聡子は拒絶して会おうともしない。清顕との純粋な愛を守るために。
そして、清顕には転生のために死が訪れる…。
がんじがらめの貴族社会で起こる恋愛と肉欲はとてもエロチックである。日本の四季の風景の下で、抒情溢れる情念と激しくも高貴な恋愛と地に堕ちた肉欲、そして禁忌と死を、美しい文章で表した三島由紀夫は、やはり素晴らしい。映画は別にしても。
月修寺門跡を演じたのは若尾文子だったのか。
「瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ」
(流れが速いので岩にせきとめられた滝川が割れても末には合わさるように、あなたと今別れても行末にはきっと逢おうと思う)
「人の力で止められるものではないのと違いますか。聡子が御仏の前で誓ったことどすさかいな。もうこの世では逢わないと誓ったことで御仏が逢わさん様にお取り計らいあらしゃってると思いますけど」
幸せはおいそれと手に入らないからこそ、そこに悲劇、喜劇、数々のドラマが生まれ、表現になる。
現代版「春の雪」だけど、泣けてきたねー。俺も世俗を捨てて出家でもしたいものだ。