「シュヴァルの理想宮」
「シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢(L'Incroyable histoire du Facteur Cheval)」(2018・仏、ニルス・タベルニエ監督)。実話の映画化。
映画のデキがどーのこーのではなく、とにかくシュバルの仕事が素晴らし過ぎるよね。
ジョゼフ・フェルディナン・シュヴァルを知ったのは、渋沢龍彦氏の著作だったか、作品社の本だったか、忘れたけど、43歳から始めて、33年もかけて自宅の庭に、手作りのデカい宮殿をたった一人で建てたなんて、相当、ネジの外れたガイキチなんだろうなぁと、その写真を見ながら思ったものだ。
そう、「理想宮」と呼ばれる彼の宮殿は、今では、ガイキチのアート、アウトサイダー・アート(アール・ブリュット)とされているのだ。
シュバルはフランスの郵便配達人で毎日1日30㌔以上をひたすら歩いて郵便物を届けていた。退職するまでに地球を5周以上も歩いたんだって!
そんな彼がある日、配達のために山道を早歩きしてたら、石に蹴躓いて転んでしまった。その石に興味をそそられて掘って取り出してみると不思議な形をしてて、ビビッと閃いた彼は石を家に持ち帰った。
もともと配達する絵はがきなどを見て、いろいろと空想しながら歩いてた彼は、“よっしゃー、庭に石の宮殿を作るっ!”と決心したのだった。
それから郵便配達の仕事を終えて、その途中にも、石を拾い集め、持ち帰って、コツコツと積み上げていくという行為を狂ったように続けるのだ。シュバルのこの集中力はスゲ〜羨ましい。
途中、最愛の娘や、前の奥さんとの間の息子、最大の理解者であった奥さんにも先に死なれながらも(←死に過ぎやろ 笑)、決して止めることはなく、33年後の1912年、ついに完成に至る。
村ではド変人と見られてたが、徐々にマスコミが新聞で取り上げ、見物客が訪れるようになる。宮殿完成後も家族のために手作り墓所を作った。
映画では、伝えられるシュバルの人生をなぞっているが、他人とのコミュニケーションが不得手で、ボソボソッと二言三言喋るだけで寡黙に仕事を続ける、それでいて家族に対しては秘めたる熱い想いを持っている、そんな彼を上手く演じていると思う。
シュバルは空想だけで建築の知識なんて皆無、ただ来る日も来る日も石を拾って積み上げる行為を繰り返すだけ。プランも、趣旨も、目的も、もちろん評価も考えていない。何でかわからないけど、(神の意思で)石の宮殿を作らざるを得ないという衝動だけはハッキリとしている。まさに、これぞアウトサイダー・アートなのである。
脳のどこかの部分で、他人がなんと言おうと、自分を傷つけようと、常識などとは関係なく、創造することに作用する強い麻薬のようなものがあるんじゃないだろうか。
シュバルも、今で言うと発達障害か統失かPTSDか、精神に何か異質なものを抱えてたと思うけど、その代わりに脳の創造に関する部分が異常に発達したのかも。どっちにしろ俺にはとても興味深い。
シュールレアリズムのアンドレ・ブルトンも、ピカソも「理想宮」を訪れて称賛している。フランスの重要建築物にも指定されている。日本では「沢田マンション」が似てるかなぁ。
「目標を達成するには頑固であれ」byシュバル
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。