【邦画】「わが道」
新藤兼人監督の、1974(昭和49)年の作品「わが道」。
主演は、お馴染みの乙羽信子だけど、ある意味で社会派“胸糞”映画であった。
話は…貧困に苦しむ東北の村から、都会に出稼ぎに来た60代の男(殿山泰司)が、仕事を終えて宿泊所に帰る途中、行き倒れとなり亡くなったが、身元を証明する所持品を持っていたにも関わらず、警察と役所の杜撰な扱いで身元不明人として扱われて、数ヶ月後に、勝手に、大学病院の解剖の実験材料にされるという酷い扱いを受けたことで、男の妻(乙羽信子)が、支援の下、警察や役所を相手に訴訟を起こして勝訴したというもの。実際の事件であり、原作となったノンフィクション本もある。
70年代後半は高度経済成長期で、地方からの出稼ぎも盛んに行われていたらしい。その成長を支えた一労働者が人権無視の扱いを受けたことを告発する社会派映画であった。
現代にも通じると思うが、とにかく警察や役所など公的機関は、その組織と内部の人間を守ることが優先になる傾向にあり、組織のミスであっても、ミスを隠蔽しようとするものだ。
後半の裁判での畳みかけるような原告、被告、弁護士のやり取りは、目が離せない程の緊迫感に満ちている。何とか指摘をかわす被告側の人間に対して、弁護士が正論によって真実を明かしていく様子は一種の爽快感を感じる。正義に酔うことができるであろう。
裁判に勝っても素直に喜べない妻の深い悲しみも伝わる。「夫を人して扱ってほしかった…」。
解剖された男の顔が一瞬だけ映るが、皮を剥がされてツギハギだらけで、作り物とはいえショッキングなものだった。
お上の怠慢を指摘して、“見捨てられた人間”に寄り添う視点は、まさに新藤兼人監督だなぁ。
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