「わたしの渡世日記 上」
Amazonで見つけて入手したけど、多分、デコちゃんの数ある自叙エッセイでは最高傑作じゃないか。生い立ち・経歴などを、細かくありのままに書いたと思われる。読ませる文章で惹きつけられて飽きることはない。
1924(大正13)年、北海道で生を受け、複雑な家庭環境によって、貰われた義母・義父の下で上京、5歳の時に、たまたま義父と行った撮影所でスカウトされて子役としてデビュー、それから数々の映画に出演し、人気女優へと成長して、終戦を迎えるまでが上巻。
程なくして、デコちゃんが人気となったものだから、仕方がないことかもしれないが、義母をはじめ、兄弟や親戚らのデコちゃんの月給頼りの“タカリ”っぷりがエゲツなくて、まだ子供のデコちゃんがカワイソウになってくる。幼いながらも、「なぜ、この人たちのために私が働かなければならないのだろう?」と不思議に思ってたという。おかげで、デコちゃんは普通に学校へも行かせてもらえなかった。映画会社の援助で入った女学校も、映画の仕事が忙しくて出席できずに辞めている。
「母は私の鏡でもある。私は鏡をのぞく時、“お前なんか人間じゃない。血塊だ“と母に罵られたことを思い出して暗澹となることがある。鏡に映る私は人間の顔をしていても、実は赤紫色をしたグジャグジャの醜い血の塊なのかもしれないと思うと、なけなしの自信はもちろん、生きていく張りさえ叩き潰されるような、やりきれなさに襲われる」。
最初は、義母も、母親らしく愛情を持って接し、甲斐甲斐しく身の回りの世話をしていたが、やっぱりデコちゃんが成長するとともに、義母・娘の間に確執が生まれてくる。事あるごとにぶつかって、「お前は冷たい娘だ!」と罵られる始末。
でも、小学校の先生や映画関係者の親切、それに本を読むことによって、捻くれてねじ曲がろうとする幼いデコちゃんの心を真っ直ぐにして支えたのだ。
そんな中でも、杉村春子の演技に衝撃を受けて、改めて女優開眼したことや、初潮が始まって「お尻がやぶれた!」と騒いだ話、名監督、各スタッフ、原節子、田中絹代(特にアメリカ帰りの田中絹代がマスコミに散々攻撃されたこと)など名女優との付き合い、文豪との食事、若き黒澤明との恋模様(新聞に書かれてご破算)、特攻隊員への慰問など、面白いエピソードがいっぱいだった。
次は下巻だ。
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