阿蘇
母と待ち合わせをする予定だったが、その予定を母は覚えているだろうか。
電話しても繋がらない。
とりあえず待ち合わせ場所に向かうことにする。
目の前には、眩暈がするほどに圧倒されるデカさで、雄大な阿蘇が灰色の岩肌を覗かせている。
人通りでせわしない電車通りの信号を横切ろうと、青に変わるのを、ビルの影で待っている。
気付くと、ワラワラと人々がコチラに寄って来る。
どうやらビルに入ろうとしてるみたい。
先生と思われるスーツの中年男に引率された制服の女学生の集団が、キャーキャー騒ぎながらビルに入っていく。
ふと前を見上げると、阿蘇が、音もなく、ドス黒い噴煙を何か生き物のようにゆっくりウネウネと噴き上げている。
手を伸ばせば、その黒いものに手が届きそうだ。
程なくして、ゴーッと辺り一面、風に舞う噴煙で真っ暗になる。
「ああ、母は大丈夫かなぁ」。
顔や服が汚れる。
そこでハッと気付く。
「あっ、そうだ。もう母はいないのだ。死んだのだった」。
今日はゆっくりできるなぁとホッとしている。
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