コミュニティ・ゲーム『その部屋のなかで最も賢い人』(2)
著者のリー・ロスが行った実験の中に、ゲームの「名前」で印象が変わってしまう衝撃的な結果を示したものがあった。
「囚人のジレンマ」というゲーム(心理学実験課題)をご存知だろうか。
二人の被験者がお金をかけて、「協力する」か「離脱する」かを選択することができる。お互いに協力すれば、お互いに5ドルを得ることができるが、相手を出し抜けば、8ドル得ることができる。しかしふたりとも離脱を選んでしまったら0ドル得るということで、ジレンマに頭を悩ませるゲームだ。
この囚人のジレンマを使って、著者のリー・ロス教授は面白い実験を考えた。
ある被験者グループには「コミュニティ・ゲーム」と題してこの囚人のジレンマをさせ、
またある被験者グループには「ウォールストリート・ゲーム」と題してこの囚人のジレンマをさせたのだ。
結果は明白だった。
「コミュニティ・ゲーム」と題して囚人のジレンマを行った被験者グループは「ウォールストリート・ゲーム」と題して囚人のジレンマを行った被験者グループよりも「協力した人」が二倍もいたのだ。
素朴な現実主義から考えてみると、協力するか・離脱するかの「判断の対象」つまりこのゲームはどのようなものなのか、ということが、「コミュニティ」は協力する人々のあつまりであり、「ウォールストリート」は敵対的な人々のあつまりである、という考え方に基づいてしまい、実際の「行動」に変化が生まれた。
人はコンテキスト(文脈)によって判断し行動する。例えば、スクールコンサートがあって、そのための準備のことを「練習」と称してしまうと、なんとなくワクワクせず、真面目にしなくてはいけないと捉えてそのように動いてしまうし、「リハーサル」と称すれば「ステージ」にのぞむ気持ちが高まる。
色々なイベントや学習プログラム、ワークショップを企画する際に、タイトル・コンセプトにはこだわりが必要なのはこのためなのだろう。気をつけねば。
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