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孤独な研究者の夢想

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認知科学研究・最近読んだ本・統計など研究に関係することを書きます。
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#行動経済学

「測定」の魔の手に囚われる私たち 【ジェリー・Z・ミューラー著 『測りすぎ ーなぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』】

私たちが仕事を行うときに必ずといっていいほどつきまとうのは、 「パフォーマンスの測定」だ。 ジェリー・Z・ミュラー著の「測りすぎ」の原文のタイトルは「The Tyranny of Metrics」、つまり「評価基準の圧政」私たちは「評価基準に囚われてしまう存在である」ということを現している。 よくあるパフォーマンス評価 よくあるパフォーマンス評価であり、しかも様々な問題を巻き起こしているものは以下の通りだ。例えば、 ・共通テスト ・外科手術の成功率 ・企業の利益

(ときには)過ぎたるはなお及ばざるがごとし(2) 『なぜ直感のほうが上手くいくのか?』ゲルト・ギーゲレンツァー著

5/15の記事では、情報が少ないほうがより意思決定も上手くいく5つの場合のうち、始めの2つを紹介した。 「ヒューリスティックス(Heuristics)」の働き5パターン 1.役に立つ程度の無知 再認ヒューリスティックが良い例だが、直感はかなりの量の知識と情報を凌ぐ働きをする。 2.無意識の運動スキル 熟達したエキスパートの直感は無意識のスキルに基づいているため、考えすぎるとスキルを発揮できなくなることがある。 3.認知限界 私たちの脳は、忘れたり、小さく始めたりといっ

「最悪の事態」を考えれば、正確に計画を立てられるのか?(3) ー計画錯誤と悲観的シナリオー

前回までの記事では、ベストケースに基づいて課題の時間を見積もる「楽観バイアスがいかに強いかが実験の結果によって示された。 今回は、残す二つの実験、実験4と実験5を紹介する。 実験4実験3までは、「ベストケース」、「最悪のケース」、「現実的ケース」の3パターンのいずれかを考えさせる実験や、複数のシナリオを考えさせる実験を行い、楽観バイアスがいかに強いかを示してきた。 そして、「最悪のケース」が最も実作業時間に近かったことが示された。 しかし、今までの実験では常に「ベスト

「最悪の事態」を考えれば、正確に計画を立てられるのか?(2) ー計画錯誤と悲観的シナリオー

前回は、Newby‐Clark, I. R. et al. (2000)の研究のうち、 「ベストケース」「現実的なケース」「最悪のケース」を、それぞれ3群に分けた大学生に、大学の課題を完遂するまでの時間を見積もらせ、そのあと最終的に見積もらせ、実際に実行してみて見積もりとどの程度違うかを比較してみる実験1を紹介した。 今回は、「最悪のケース」といっているからこそ採用しないのではないか、という問に答えるために、アプローチを変えた実験2について考える。 実験2はこんな一文か