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愛と選挙とビターチョコ・第3章〜動物農場〜⑤

 11月6日(木)

 いよいよ、投票日前日となったこの日の放課後、それまで利用できなくなっていた光石琴みついしこと候補の《teX》(旧:トゥイッター)のアカウントの凍結が、突然、解除された。

 そのことに気付いたのは、自分のスマホに、フォローしていた光石琴公式アカウントが投稿を行ったという通知があったからだ。

 ◆  ◆  ◆

 【公式】みついし琴・一宮高校生徒会選挙
 
 最後に伝えたいこと「これはデマ」

 ・みついし琴は、クラブ棟の建て替えを考えている
 ・みついし琴は、放送・新聞部にワイロを送った
 ・みついし琴は、十条委員会と繋がっている

 これらは、すべて「デマ」です

 ◆  ◆  ◆

 帰宅途中だった僕は、胸騒ぎがして、すぐに学校に引き返し、校門前で行われる予定の各候補の最終演説いわゆる「マイク納め」の現場をこの目で確認することにした。

 もはや、SNS上では、光石琴を擁護する書き込みの声は少なく、光石陣営のSNS担当である天野さんが投稿したと思われるポストは、その書き込みを冷笑し、揶揄するリプライであふれている。

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 ポピー(見舞品)/PoPeeei @PopieThePerFormer
 
 生徒会選挙おわるでw
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 狼の巣 @Wolfsschanze
 
 ぷぷぷ〜
 何したのよwww
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 ニャンコ @Nyanyanko
 
 ださ過ぎじゃない(笑)
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 アルパカ @Alpalaland
 
 何をして凍結されたか
 まずそれを発信しよう
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 羊のうた @sheepsong
 
 迷惑系アカウントw
 ◆  ◆  ◆

 石塚候補のリプライ欄とは、あまりに異なる雰囲気に、第三者の僕でも読んでいるだけで、胃がシクシクと痛くなってくる。
 それでも、こうしてSNSの書き込みを閲覧するだけでなく、この投稿を目にした者として出来ることをしていこうと考えた。

 まずは、【公式】みついし琴・一宮高校生徒会選挙のアカウントに寄せられたリプライのスクリーンショットを可能な限り保存していく。
 そして、次に石塚候補を応援する有志が登録しているLANEのオープンチャットにアクセスした。
 最後に、僕は「凍結」というキーワードで検索を行い、ヒットしたワードの書き込み主を確認する。
 
(やっぱり、そうだったか……)

 疑惑が確信に変わったことを確信して、僕は、石塚雲照応援オープンチャットのログを保存する。
 もう、あと数時間で選挙期間は終了するけど、選挙戦終了後に選挙管理委員会に提出する資料としては、絶好の材料ができたと思う。

 SNSウォッチングを終えた僕は、いよいよ、リアルな「マイク納め」の現場に向かうことにする。

 選挙運動の最終日、校門前では、四人の候補者が十五分ずつの持ち時間で、立ち会い演説を行い、この演説が終了することで、一宮高校の生徒会選挙は、各候補の「マイク納め」となるのだ。

 現場である校門前に到着すると、二人目の登壇者である降谷通ふるやとおりが、最終演説を行っているところだった。

「これまで、なんども話してきたように、石塚雲照クンは、現生徒会のを破壊しようとしたため、十条委員会で不当な追及を受け、クラブ連盟からは、バスケ部の部長職を追われることになりました! これは、明らかにキトクケンエキによる石塚つぶしです! みなさん、石塚クンと一緒にキトクケンエキを打破しましょう!」

 最後のマイク・パフォーマンスでツバを飛ばさんばかりに声を張り上げる降谷は、自らの演説を締めくくるべく、コール・アンド・レスポンスを行う。

「それでは、最期にみなさんご唱和ください! キトクケンエキを〜?」

「「ぶっつぶ〜す!」」

 その中には、つい先日まで、の姿も見える。
 降谷の演説に感化された聴衆が、一斉に声を張り上げ、校門前は、ライブ・コンサートの会場のような雰囲気に様変わりした。
 それは、ついにSNS上の熱量が、リアルな場でも表現されたことをあらわしているかのようだ。
 
 この雰囲気の中、光石琴みついしことは無事に演説を行えるだろうか―――?

 支援者の声に応じながら、この日のため、特別に用意された壇上から下りる降谷の姿を見ながら、僕は、不安に押しつぶされそうなる。
 そして、いよいよ光石候補が壇上に上がろうとしたとき、一宮高校の制服を着ていない数十人の私服集団が、ライブハウスで最前列の場所を争うオーディエンスのように、ステージの前に押し寄せて行くのが目に入った。

「すみません! 次は、光石候補、光石琴候補の演説です!」

 吹奏楽部の女子メンバーが悲痛な声を上げる中、その群衆は、

「わかってま〜す!」

と言いながら、最前列に陣取ってしまった。
 発言者を嘲笑するかのようなその言動は、まるで、さっき確認した、みついし琴・一宮高校生徒会選挙アカウントのポストに群がるリプライコメントをリアルで見せつけられたような光景だった。

(あの集団は、いったいなんなんだ……?)

 学外の人間が押し寄せているとしか思えない異常事態を、僕は呆然と見つめることしかできなかった。

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