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初恋リベンジャーズ・第四部・第2章〜先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん〜②

 鳳花部長への報告が終わったあと、オレは、前日までと同じく、緑川みどりかわの家に向かう。
 ただし、今日は、オレ一人での訪問である。クラスの現状を伝えたり、緑川本人から、自身についての近況やプライベートなことを聞き出すなら、前日と同じく、一対一での会話のほうが良いと考えたからだ。

 緑川の母である優子さんには、午後五時頃に訪問すると約束していたので、まだ少し時間に余裕があるということもあり、緑川家に向かうあいだ、オレは、交通手段である自転車を押しながら、鳳花部長との会話で気になったことについて、スマホで検索していた。

 まずは、1つ目の道で部長が語っていた『欺瞞』について、気になったキーワードを調べてみることにした。
 鳳花部長が語った、ニール・ストラウスという人物について、検索する。

 すると、最初の項目で、彼の著作が販売されているア◯ゾンのサイトがヒットした。

 その紹介文というか、煽り文句がスゴい……。

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 (Amazonの『ザ・ゲーム フェニックスシリーズ』の販売サイトより抜粋)
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 広報部という組織に身を置くものとして、大いに参考になる点もあるのだが、あまりの煽り文のドギツさに可笑しな笑いが、こみあげてくる。さらに、ご丁寧なことに、この本の冒頭と思われる箇所について、かなり多くの部分が書籍の文章のまま、販売サイトに掲載されていた。

 正直なところ、ナンパ術に関する本なので、最後は、相手と行為を終えて、その翌朝の振る舞いにまで至るアドバイスが事細かに書かれているのだが……先月の講義で、恋愛工学的な考え方を否定気味に語っていたシロの気持ちが少しだけ理解できるような気がした(やはり、女子としては推奨したいモノではないだろうと思われる)。
 おかげで、自分のような未成年でも制限なく読めるのだが、よく18禁指定にならなかったモノだ……。

(でも、興味深い内容だし、一度、この本を読んでみるか……) 

 と考えて、オレは、注文ボタンをタップして、コンビニ入金に備えて、財布の中身を確認した。
 
 次に、2つ目の道である『破壊』について語られたときに部長が言及していた、エリオット・ロジャーについて検索する。こちらは、英語版ウィキペディアの内容が充実していた。

 記事によれば、エリオット・オリバー・ロバートソン・ロジャーは、イギリス系アメリカ人の元大学生で、2014年のアイラビスタ殺人事件の犯人である。2014年5月23日、ロジャーは、カリフォルニア州アイラビスタのカリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)付近で、ナイフ、半自動拳銃、車を使用して6人を殺害、14人を負傷させた。

 彼が起こした事件を報道する膨大な記事から引用された文面からは、エリオット・ロジャーという人物の孤独と社会(とくに女性)に怒りが、ひしひしと伝わってくる。
 オレが、もっとも気になったのは、彼が自身の犯行声明文のなかで、語っているとされる、女性全般を憎むきっかけになった出来事だ。

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 思春期になるとロジャーは性欲が強くなったが、女性と性的関係を持つことは決してないだろうと思い始めた。
 彼は「静かで」「変わった子」として知られ、わざとクラスメイトを困らせ、他の生徒からいじめを受けるようになった。いじめっ子の一人は金髪の女の子で、ロジャーはそれが彼の女性蔑視的な態度の形成に影響を与えたと主張した。
(英語版ウィキペディア:Elliot Rodgerの記事を翻訳して抜粋)
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 ロジャーは、この少女を「邪悪な女」と呼び、自分をからかったり嘲笑したりしたと主張しているのだが……。
 この部分に言及している関連記事を読むと、ロジャーが名指ししている少女は、彼のことを覚えておらず、少女の父親は、自分の娘の名前が、犯行声明文で触れられていることについて、

「彼女は、この出来事に打ちのめされています。自分がしたことも覚えていないことで、この恐ろしい悲劇に巻き込まれたかのようだ」
「10歳の女の子が12歳の男の子をいじめるなんてあり得るのか?」
「私の娘はいじめっ子ではなく、出会った中で最も優しい人の一人だ」

と語っているそうだ。
 真実が、どこにあるのか、オレには判断がつかないが、直近でクラスメートから聞き取った話しを考慮すると、なんとも示唆的な事件ではある。

 そういえば、あのアドルフ・ヒトラーも、思春期に片想いをして、あとを付け回していた女性が居たらしいのだが……その相手は、かつて自分を追い回していた、のちの第三帝国・総統のことをほとんど覚えていなかった、なんて話しを聞いたことがある……。

 何年か前に見たドキュメンタリー番組の内容を思い出しながら、オレは、鳳花部長が、四つの道について語った理由を考えていた。

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