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初恋リベンジャーズ・第四部・第1章〜愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ〜③
「転入してきて、まだ、ひと月と少しなのに……白草さんがクラスメート思いで、先生は嬉しいわ! 良いでしょう。ぜひ、緑川くんの登校に協力してもらって! ただし……わかっていると思うけど、デリケートな問題だから、他のクラスの子たちには、口外禁止よ?」
念押しをしてくる担任教師に、「はい、もちろんです」と、即答したオレは、職員室を退室して、傍若無人なクラスメートに、ユリちゃん先生の返答と今回の依頼内容を報告する。
「そっか……いつも、空席だったあの席は、その緑川クンって男子の席だったんだね。谷崎先生は、彼が登校するよう、クロたちに協力を頼んだ、と……」
新学期が始まった直後は、各教科の担当教師が授業前の点呼を行っていたが、しばらくして、欠席生徒が固定されていることに気付いたのか、いつしか、その恒例行事も行われなくなった。
転校してきたばかりで、クラスメート全員の顔と名前が一致していないシロにとって、いつも教室に居ない生徒が、印象に残っていないのは仕方のないことだろう。
「そんなわけで、明後日、緑川の家に行ってみようと思う。予定をあけておいてくれないか?」
そう確認すると、すっかり上機嫌になったシロは、
「オッケー! わたしと二人で彼の家に行きたいなら、そう言えばいいのに……」
などと、わけのわからないことを言いながら、ニマニマと笑みを浮かべている。
とりあえず、機嫌がなおったクラスメートのようすに安堵したオレは、シロと別れ、今度こそ広報部の部室に向かう。担任教師からの依頼のため、放課後はしばらく、部室に顔が出せないということを部長の花金鳳花先輩に報告するためだ。
放送室の隣りにある、部室のドアをノックすると、「はい、どうぞ」と、声がする。
扉を開けて入室すると、オレの顔をチラリと確認した鳳花部長が、
「黒田くん、遅かったのね? 今日はナニかあったの?」
と、作業中のノートPCのディスプレイに視線を送ったままたずねてくる。
「はい、実は担任の谷崎先生から、クラスメートのことで、ちょっと頼まれごとをされまして……明日から、しばらく、放課後は広報部の活動に参加できないと思います」
「そう……いまは、特に忙しい時期ではないから、こっちの活動のことは気にせず、クラスの仕事に集中して」
オレの報告に対して、いつものように落ち着いた口調で返答した部長は、続けて、こんなことを聞いてきた。
「その谷崎先生のご依頼には、黒田くん一人で対応するつもりなの?」
「いえ……クラス委員の仕事なので、同じクラスの紅野と……あと、白草が協力してくれることになりそうです」
「そうなの……あまり踏み込んだことを言うつもりは無いんだけど……紅野さんも、白草さんも、貴方とは縁のある女子生徒よね」
そう言って、彼女はクスクスと笑う。
正直なところ、こうして指摘されると気まずいことこの上ないのだが、鳳花部長には、先日のオレの失態を含めて、隠し事は通じないことはわかっているので、彼女の言葉を率直に認める。
「はい、そうですね」
オレの返答に、部長はふたたび、フフと笑みを漏らして、こう語る。
「素直なことは良いことだと思うわ……今度の件で、貴方の気持ちが少しでも前向きになるといいわね」
「はあ……前向き、ですか?」
我ながら、間の抜けた返答になってしまったと感じるが、鳳花部長は、そのことには触れず、「えぇ」とつぶやいて、コクリと小さく首をタテに振ったあと、
「黒田くんは、紅野さんとも、白草さんとも、いずれ、向き合わなければいけなかったでしょうから……二人と接する時間も増えるかも知れないし、この機会に、キチンと自分の気持ちを見つめ直して、彼女たちとの今後の付き合い方を考えてみるのも良いんじゃないかしら?」
と、静かな口調で語った。
それは、紅野とともに、ユリちゃん先生の依頼を引き受けることになってから、そして、なぜか絡んできたシロが、今回の事態に協力を申し出てきたときから、オレの頭の片隅に浮かんでいたことでもあった。
(さすがは、鳳花先輩……こっちの事情は、お見通しか……)
そう感じると、なぜか、ほおには笑みが浮かび、こう返答する。
「わかりました。彼女たちと……それから、自分の気持ちに向き合ってみることにします」
ゆったりとした口調で答えると、鳳花部長は、穏やかな笑みをたたえながら語りかけてきた。
「そうしてもらえると嬉しいわ。貴方が元気でないと、広報部は活気が無くなってしまうし、ひいては、校内全体の広報活動の成否に関わるもの」
「いや、広報部の中のことはともかくとして、学校全体に影響が出るなんて大げさでしょう?」
やや冗談めかして語る部長の言葉に、オレが、苦笑まじりに答えると、上級生は意外そうな表情で返答する。
「あら、私は本気で言っているのに……」
「わかりました。部長からのありがたい誉め言葉として受け取っておきます」
そう言葉を返すと、広報部の部長は、満足そうに微笑んだ。