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初恋リベンジャーズ・第四部・ 第2章〜先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん〜⑬

 9.「他のメンバーに見せていない画像があるから」と言って、少し離れた場所に移動するべし。肩が触れるくらいの距離でスマホの画面を確認させて、実際に肩が触れ合っても彼女が離れなければ、『脈アリ』のサインその1。

「実は、みんなには見せてなかった写真もあるんだ」

 そう言って、僕は、山吹あかりを体育館の壁際に連れ出した。

「さっきは、良く見えなかったと思うから、近づいて見てくれていいよ」

 実際には、かなり緊張していたけど、さり気なさを装って、スマホを手にした僕は山吹あかりに肩を寄せる。
 彼女は、嫌がる素振りを見せず

「あ〜、ホント、カワイイ! 緑川の親戚のヒト、イイな〜。ウチでも飼いたい!」

と、無邪気な笑顔を見せる。
 これは、白草四葉しろくさよつばアドバイザーが言うところの『脈アリ』のサインその1と考えて良いのだろうか?
 そう考えた僕は、次のステップに移ることにする。
 
 10.「自分のことを話したので、今度はキミのことを知りたいんだ。心理テストをしても良い?」とたずねて、用意していた心理テストを試す。
 ※ この心理テストの答えは、なんでも良い。彼女に「この人はわたしのことを理解してくれている」「この人はわたしの欲しいものを理解してくれている」という感覚を抱いてもらうことが目的。

「今日は、僕の相談に乗ってくれてありがとう。去年は、同じクラスだったけど、もう少し、山吹さんのことを知りたいんだ。ちょっと、心理テストをさせてもらって良い?」

「へ〜! 面白そうじゃん! やってみたいかも!」

 ここで、僕は、アドバイザーに教えてもらった『キューブ・ルーティーン』を試してみた。

「今からする5つの質問に答えて。その質問で、キミの深層心理が全部わかるから……用意はいい? 想像力を膨らませて答えてほしい」

「見渡すかぎりの砂漠を思い浮かべて。そこに『立方体(キューブ)』があると思い浮かべてほしい。どんなキューブかな? キューブの大きさは? どんな素材でできている? 色は? 中は見える?」

「 次に、『はしご』を思い浮かべて。どんなはしごかな? 大きさは? 素材は? そして『はしご』と『キューブ』は、どんな関係性にある?」

「ふとあたりを見渡すと『花』が咲いている。それはどんな花? どこに咲いている? いくつ咲いてる? 花について細かく教えて」

「そこに、『馬』がやってきました。どんな馬だろう? どんな風に見える? 馬について細かく教えて」

「さいごに、この場所で『嵐』が起きました。どんな嵐かな? どのくらい離れた場所で起こっている? 嵐について細かく教えて」
 
 アドバイザーである白草の言葉に従えば、その回答の中身は、ルーティーンには関係ないということなので、今回のターゲットがどう答えたかについて、触れないでおく。
 
 11.ターゲットから回答を引き出したあと、こう話すべし。「外見の美しさは誰にでも見えるものだけど、強いエネルギーや確固たる信念を持っているヒトの本質が見える人間は少ない。もっと、キミの話しを聞かせてくれないか?」彼女が自分語りをはじめたら、『脈アリ』のサインその2。

 心理テストの答え合わせを行った僕は、またも、ルーティーンに従って、こう続けた。
 
「ありがとう。これで、少しキミのことがわかった気がする。ただ、外見の美しさは誰にでも見えるものだけど、強いエネルギーや確固たる信念を持っているヒトの本質が見える人間は少ない。もっと、キミの話しを聞かせてくれないか?」

 すると、山吹あかりは、視線を右下の方に向けながら、こう言った。

「緑川……春休みのことがあったのに……アタシに気を使ってくれてありがとう。実は、さっきの心理テストの答えでも言ったんだけど、ちょっとだけ悩んでることがあってさ……もし、時間があれば、話しを聞いてくれない?」

 意外な申し出に、僕はうなずくしかなかった。
 これは、『脈アリ』のサインその2なのか?

 12.その後の会話で、自分が話すターンになったときに、不意に話すのをやめてみるべし。ターゲットが、「それでそれで?」という意味の質問をしてきたら、『脈アリ』のサインその3。

 彼女の態度が、いつになくしおらしいモノだったことが気になり、自分の話しをしながらも、どこか上の空で、意図せず会話が途切れてしまう。
 そんな中でも、山吹あかりは、「ねぇ、それで、どうなったの?」と、興味深そうにたずねてくる。
 それが、『脈アリ』のサインその3なのかどうか、僕には判断がつかなかった。

 13.「もっと話したいけど、もう行かなきゃ……今日は、話せて楽しかった」と伝える。彼女から連絡先の交換を申し出てくれば、「必ず連絡する」と言って、受け入れる。申し出がなければ、「個人的に、もっと話したいんだけど」と、こちらから連絡先の交換を提案する。

 自分の話しが途切れがちになってしまうことに、焦りを感じつつ、僕の同行者である黒田の方を見ると、どうやらバスケ部への取材が終わったようなので、会話を切り上げることにする。

 「もっと話したいけど、もう行かなきゃ……今日は、話せて楽しかった」

 そう伝えると、山吹あかりは、

「じゃあ、LANEのアドを交換しとこう! 良かったら、相談に乗ってよ」

と言って、彼女のメッセージアプリのIDを教えてくれた。
 最後は想定されたシナリオ以上に順調にことが進み、少し拍子抜けした感じもあったが……。
 僕は、白草四葉考案のルーティーンの威力に感謝するより他はなかった。

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