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初恋リベンジャーズ・第四部・第3章〜最も長く続く愛は、報われない愛である〜⑫
不覚にも、山吹あかりが自分たちの周囲に居ないことに気づいたのは、パーティーが始まってから、二十分近くが経過してからのことだ。
「黒田……山吹が、どこにいるか知らないか?」
コンロの上に、次々と肉を投入する作業を続けるオレに、声をかけてきた緑川に何気なく答える。
「いや、オレは見かけてないが……その辺に居るんじゃないのか?」
「それが、みんなで乾杯をしたあとに声をかけようと思ったら、どこかに行ってしまったんだ。トイレかも……と思って、そのときは、声をかけそびれたんだけど、なかなか戻ってこないから……」
声を落としながら、周囲のメンバーに聞こえないように返答するクラスメートの言葉に反応し、
「探しに行ってみるか?」
と、小声で聞き返すと、緊張したような表情を見せた緑川は、だまってうなずく。
「吉井、焼き担当を変わってくれないか? ちょっと、トイレに行ってくるわ」
そう言って、同じ学年の男子バスケ部の主力部員に肉焼き係を代わってもらうと、オレは、緑川と一緒にメンバーが集まっているテントから離れる。
「山吹の姿を見なくなってから、どれくらい経つ?」
「もう十五分以上は、経っていると思う。キャプテンの乾杯の合図の少しあとに、小走りで駆けて行ったから……」
それは、たしかに、気になるところだ。
バーベキューが行えるBBQパークのエリアのすぐ隣には、私立の大学専用の陸上用グラウンドがある。
さらに、BBQパークから海側のエリアには、市民に開放されているバスケットボールのコートやスケートボード用の施設、マウンテンバイク用のトレイルなどが設置されている。
ただ、これらの施設は、それぞれのエリアを分かつように、植樹された木々が覆い茂っていて、視覚になっている場所も少なくない。
休日の真っ昼間の開放的な空間で、大人数が参加して行われるバーベキューということで、完全に油断していたが、BBQパーク周辺の木々に覆われた場所に目を向けると、不安な気持ちが、湧いてくる。
「手分けして探すか? なにかあれば、すぐにLANEで連絡してくれ」
オレが、そう告げると、緑川も「わかった!」とうなずいて、反対方向に駆け出す。
(まさか、こんな明るい時間帯から、問題になることが起きるとは思えないが……)
そう考えながらも、気掛かりな想いを拭えないまま植樹された木々の木陰に目を凝らして、山吹の姿を探していると……。
数分もしないうちに、クラスメートからの着信でスマホが鳴動する。
通話ボタンをタップすると、緑川の切迫感がただよう声が耳に飛び込んできた。
「黒田、山吹を見つけたぞ! けど、おそらく、写真で見た茶髪の男子三人と一緒だ!」
クラスメートの発した言葉を認識した瞬間、懸念していたイヤな予感が的中してしまい、思わず、ほおの内側を噛む。
「わかった! すぐに、そっちに行く!」
返答すると、すぐに終話ボタンをタップし、Uターンして、緑川が走って行った方に向けて駆け出した。
声は出さずに身振りと手振りだけで、山吹たちがいる場所を伝えるクラスメートを視界に捉えると、オレは、なるべく音を立てずに緑川と視線を交わし、四つの人影が見える木陰に目を向ける。
間違いない、山吹あかりを取り囲むようにして、言葉を交わしているように見える三人は、オレがシロたちと遭遇し、山吹がスマホで画像を見せてくれた三人組だ。
幸いなことに、まだ、四人はオレたちの存在に気づいてはいないようだ。
「どうする?」
小声でたずねる緑川に、
「事態は一刻を争いそうだな……オレに考えがある」
と、返答して、オレは四人の方にゆっくりと足を踏み出す。
「お〜い! どこに行ったのかと思って探したぞ、山吹。なんだ、知り合いと一緒なのか? なら、オレたちにも紹介してくれよ?」
なるべく、よく通る声になるように意識した呼びかけに対して、最初に反応したのは、山吹あかりだった。
「黒田! アンタには関係ないから、こっちに来ないで!」
オレたちに対して、叫ぶように注意喚起をする山吹だが、残念ながら、その好意を受け取るのは、もう少し先延ばしにさせてもらう。
中学時代の知り合いだという女子のその言葉を額面どおりに受け取ったのか、三人組の真ん中にいる、一番身長の高い男子が、ニタニタと笑いながら、口を開く。
「そうだ! 誰だか知らねぇが、あかりも、こう言ってるし、関係ないヤツは、引っ込んでおけよ」
その言葉を意図的にスルーして、余裕の笑みを絶やさないように気を張りながら彼らに近づいていくと、政宗と思われる男子は、至近距離に迫ったオレの胸のあたりをトン、と突いてくる。
「聞こえなかったのかよ? 引っ込んどけって言ってるだろ?」
威嚇するように言う相手に対して、オレは、ゆったりとした口調で言いながら、相手の肩に腕を回す。
「まあ、そう言うなよ。今日は、バスケ部だけの内輪の集まりだったんだが……どうやって、この場所を知ったんだよ? まさか、おまえら、朝からずっと山吹のケツを追っかけてきたんじゃないよな?」
この行為は、暇があるたびに読みふけっている『ザ・ゲーム』に書かれている「アモッギング」というテクニックを参考にしている。
ひるまずに、自分に絡みはじめたオレの反応が意外だったのか、三人の表情が一瞬だけ怯んだモノに変わるのがわかった。