吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第4章〜悪魔が来たりて口笛を吹く〜②
北口駅を出発した普通電車の車内で、針太朗は、メッセージアプリを確認する。
希衣子に対して、質問攻めをしてきた外国人女性の目撃情報を集めるよう依頼していたことから、彼女が立ち上げていたグループLANEには、多くの情報が集まっていた。
さらに、放送メディア研究会二所属する乾貴志が、その雑多な情報を精査して、必要なものだけをピックアップして、針太朗に送信してくれている。
授業のない土曜日のため、当日の目撃情報は多くはなかったが、それでも、クラブ活動で学院に出入りしている生徒から、正門近くの警備室前で、それらしき女性を見たという情報が上がっていた。
ひばりヶ丘学院で授業が行われる平日は、ほとんどの生徒が花屋敷駅から続く専用通学路を利用するため、生徒が学院の正門を利用することは少ない。
だが、駅からの専用通路が閉鎖される土曜日と日曜日にクラブ活動などで学校施設を利用する生徒は、一般の来訪者と同じく学院の正門を利用することになっている。
学院に登校している生徒の数が少ないにもかかわらず、ピンポイントで正門の脇にある警備室付近での目撃情報が上がったのは、そのためだろう。
==============
乾、ありがとう!
やっぱり、あの外国人は
学院に来ているんだね
==============
列車の社内から、針太朗は友人の乾貴志にメッセージを送信した。
スマホに張り付いているためか、相手からも、すぐに返信がきた。
==============
彼女が学院に入ったのは
ついさっきみたいだ!
引き続き情報をまとめるけど
急いだほうが良いと思う
==============
相手に言われるまでもなく、一刻も早く学院に着いて、仁美と合流しなければ、彼女の身にどんな危険が迫るかわからないため、針太朗は、徐々に焦りを感じはじめていた。
==============
わかった!
花屋敷駅に着いたら
ダッシュで学校に向かうよ
==============
隣のクラスの女子生徒の無事を祈りながら、メッセージを返信する。相手からは、即座に《OKAY!》という文字を掲げたウサギのスタンプが返信されてきた。
さらに、友人からのメッセージは続く。
==============
無理しないようにがんばって!
それより、真中さんと西高の
画像はフェイク画像だったの?
==============
この貴志のメッセージに、針太朗が、《YES》とスタンプを返信すると、友人は、間髪を入れずにメッセージを返してきた。
==============
それは良かったね!
クライマックスを前にして、
心配事が1つ消えたじゃないか
==============
(心配事って、なんのことだろう?)
友人からの返信に、針太朗が首をかしげていると、電車は二つ目の乗り換え駅に到着した。
歌劇団の劇場があることで知られるこの駅での乗り換え時間はごく短いが、彼は思い切って、友人と通話をしてみることにした。
北口駅のときと同じく、通話アプリから、貴志のアイコンをタップすると、呼び出し音が鳴り始めた直後に友人は応答する。
「どうしたんだい、針本。急に通話してきて」
「いや、ゴメン……いま、返信してもらった『心配事が1つ消えたじゃないか』って、どういうことか気になったから……」
「どういうこともナニも、そのままの意味だよ。針本、キミは、真中仁美が、他の男子と仲良くしている姿を目にしてショックを受けた。そうだろう? そして、それから、彼女のことを避けるようになった。あの写真が、フェイク画像だったってことは、それこそが、写真の送り主の狙いだったってことだよ」
「それは、ボクを真中さんから遠ざけることが目的だったってこと?」
「そう考えるのが、妥当だと思うね。真中さんが、どんな理由で狙われているのか、僕にはわからないけど……ターゲットを孤立化させることは、基本的な手段だろうからね」
貴志が、どんなことを想定して話しているのかはわからないが、針太朗には、友人の指摘が的確なようなモノに感じられた。
「そうか……そう言われると、相手の狙いが少しずつ見えてきた感じがする。さっきも言ったけど、とにかく、花屋敷駅についたら、速攻で学校に向かおうと思う」
「まあ、そうするべきなのは当然として、ウチの高等部も結構広いよ。相手が、どの場所にいるのか、リアルタイムの目撃情報は、随時、針本に伝えるから、いつでもLANEを確認できるようにしておいてほしい」
友人が、そこまで言うと、駅のプラットホームには、『すみれの花咲く頃』の発車メロディが流れ始めた。
針太朗は、あわてて、対面のホームに待つ列車に向かいながら語りかける。
「わかった! そろそろ電車が出発するから……なにかあれば、また連絡させてもらう!」
「オッケー! 針本からの連絡は、すぐに反応できるようにしておくよ。でも、くれぐれも、危険なマネだけは、しないようにね」
友人の忠告に、「ありがとう、気をつける」と返答して通話を切ると、針太朗は列車に駆け込む。彼が乗車すると、列車はすぐに発車した。
普段は、おっとりした性格の針太朗だが、この時ほど、学院の最寄り駅に到着するまでの時間を焦れったく感じたことはなかった。