
吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第4章〜悪魔が来たりて口笛を吹く〜①
味夢古美術堂で、女性店主による魔族対策のレクチャーを受けた針本針太朗は、妖子から託された小瓶を受け取って、お礼の言葉を述べたあと、上級生に連絡を取ると、すぐに店を飛び出して、祝川駅を出発する電車に飛び乗った。
古美術堂の店舗からほど徒歩数分の場所にある私鉄沿線のこの駅から、針太朗たちが通う、ひばりヶ丘学院の最寄り駅である花屋敷駅までは、二度の乗り換えを経て、四十分ほど時間がかかる。
すでに大きく傾いている太陽は、学院に到着する頃には山の向こうに沈んで、西の空には三日月が輝いて居る頃だろう。
各駅停車での移動しかできない状況に、逸る気持ちを抑えられない彼は、隣のクラスの女子生徒のことを考える。
(真中さん、どうして……?)
針太朗には、仁美が、自分と会うために一人で学院に向かった理由がわからなかった。
(人の少ない場所で話したいことでもあるのかな? いや逆に、そんな場所の方が、魂を吸い取りやすい……)
様々な考えが頭をめぐり、落ち着かない気分でいるなか、彼のスマートフォンにメッセージが届いた。
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おまたせ、針本!
貴志から聞いた依頼の件の
答えが出たぞ!
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着信したメッセージは、クラスメートにして、SF・アニメ研究会の部員である辰巳良介からのものだった。
添付された画像は、針太朗が貴志に送信した、真中仁美が、彼女のクラスメートである男子生徒・西高に微笑みかけているものだ。
その画像ファイルに対して、ご丁寧にも修正箇所と思われる場所にチェックマークと、細かな指摘事項が記されている。
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針本の考えたとおり、
アレはCGで制作された作品だ
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二つ目のメッセージを確認し、もう一度、添付された画像に注目すると、チェックマークは、主に隣の男子に笑顔を向けている女子生徒に集中している。
画像とメッセージを確認した針太朗は、乗り換え駅である北口駅に到着したタイミングで、友人に直接、話しを聞いてみることにした。
通話アプリから、良介のアイコンをタップすると、呼び出し音が鳴り始めた直後に友人は応答した。
「連絡待ってたぞ〜、針本! LANEで送った画像は見てくれたか?」
挨拶なしの単刀直入な友人の問いかけに苦笑しながら、針太朗は返答する。
「辰巳、ありがとう。送ってくれた画像を見せてもらったよ。やっぱり、あの写真は、捏造されたモノなの?」
「あぁっ! 針本がコッチに送ってきたのは、元データではないから、絶対的な確信はないけど、その可能性が高い。大方、AI画像ジェネレーターアプリを使ったモノだろう。しかも、プロンプトを使ったモノじゃなくて、既存の画像データを使ったいわゆるコラージュだ。で、西高が女子と微笑み合ってるアノ写真は、どっかで見たことがあると思って、貴志に、放送メディア研究会が持っている校内の画像データライブラリを確認してもらったんだよ」
「それで、どうなったの?」
「ビンゴだったよ! 貴志が見つけた元画像と思われるデータには、西高の隣の真中じゃなくて、あの二人と同じ一組の高見ちゃんが写ってた」
「高見さんって、西高と仲が良かった女子のことだっけ?」
「あぁ、そうだ! オレの記憶が正しければ、アレは中二のときの体育祭の写真だな。オレも、貴志も西高と同じクラスだったから、なんとなく覚えてるんだ。おそらく、あの写真も学院内の撮影班が撮ったモノだな」
そんなことまでわかるのか――――――。
失礼ながら、普段の会話からは想像できなかった辰巳良介というクラスメートの情報解析ぶりに関心しつつ、針太朗は友人として、あらためて、謝礼の言葉を述べる。
「こんなに詳しく調べてもらって、本当にありがとう」
「別に、感謝してもらう程のことじゃないって! コッチは、半分、趣味でやらせてもらったようなモンだしな。それに、オレたちは、針本のおかげで、北川ちゃんたちとウニバに行けるようになったんだ。これくらい、対価としちゃ安いモンよ」
弾むような声で応える良介に、針太朗は、あらためて、数時間前までテーマ・パークでともに時間を過ごしていたクラスメートの女子生徒の人気ぶりを実感した。
(ケイコって、そんなに慕われてるんだ……)
彼が、そんな感慨に浸っている間にも、通話相手は、一方的に会話を続けている。
「まあ、なんにしても、デジタル関係で聞きたいことがあったら、いつでも言ってくれていいぞ。オレだけじゃなくて、SF・アニメ研究会が総力を上げて協力するからさ」
まだ、入部したての一年生なのに、ずいぶんと強気なことを言うな、と苦笑しつつ、針太朗は、あらためて頼りがいのある友人に感謝して、
「ありがとう、もし、なにかあったら、また相談させてもらうよ」
と言ってから通話を終えた。
良介から得られた情報を整理しても、まだまだ、疑問が残る点は多い。
なぜ、怪しい封書の送り主は自分宛に画像やメモ書きを送ってきたのか?
封書の送り主は、どうやって学内で保持していたはずの画像データを入手したのか?
などなど―――――――。
それでも、二枚の画像のうちの一枚について、「捏造の可能性が高い」と判明したことで、いくらか気分が楽になったことを感じつつ、針太朗は、駅から北の方角に向かう電車に乗り込んだ。