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初恋リベンジャーズ・第四部・第4章〜愛は目で見るものではなく、心で見るもの〜③

「渡辺先輩! どうして?」

 コートの外の声に真っ先に反応したのは、山吹やまぶきあかりだった。

「ゲスト参加してくれた黄瀬くんから、あかりと他のゲスト2人の姿が見えないって教えてもらってな」

 山吹の言葉に答えた男子のキャプテンに続き、オレたちの同級生男子や女子の先輩も声をあげる。
 
「ゲームをするなら、オレたちも混ぜてくれよ」

「そうそう! 自分たちだけ先にズルいじゃん」

「ヒロタカに、キャプテンまで……」

 2年男子の吉井と3年女子の林先輩の姿も見えた。
 そして、その後方には、渡辺先輩に名指しされたオレの良く見知った顔がある。

おせぇよ、壮馬……」

 肩で息をしながら、名前を呼ぶと、悪友は、ニヤニヤしながら応じる。

DEFCON3デフコン・スリーなんて、大げさなんだよ。あと、それが、食べ頃の食料を置いて来た親友に対する態度なの?」

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 デフコン3だ!

 至急、渡辺先輩たちを連れて
 バスケットコートに来てくれ
 ==============
 
 スマホで壮馬に、そんなメッセージを送ってから、二十分ほど経っただろうか?

 オレと壮馬の間では、アメリカ国防総省ペンタゴンの戦闘準備態勢に準じて、自分たちだけで通じる緊急事態レベルの符号を作っていた。
 ちなみに、国家存亡の危機に陥る映画や小説とは違い、実際の国防総省の運用と同じく、これまで、自分たちに肉体および生命の危険が差し迫ることはなかったので、DEFCON3デフコン・スリーより小さな数値の緊急事態をやり取りしたことはない。
 
 エマージェンシー・コールがようやく、到着した援軍にオレは、胸を撫で下ろした。

「なにを賭けてるか知らないけど、あかりが関わることなら、私たちにも出場の権利はあるでしょ? まさか、素人二人が入っているチームに勝って、ドヤ顔するつもりじゃないよね?」

 林先輩は、無駄に煽るように政宗たちに語りかける。

「上等じゃねぇか! 市高いちこうのレギュラーメンバーなら、相手にとって不足はねぇよ」

 見え見えの挑発に乗った相手の発言を受けて、吉井が応じる。

「決まりだな。腹ごなしに、ちょうど良かったわ。黒田、緑川、おつかれ。あとは、オレらに任せろ」

 そう言葉をかけてきた吉井&林キャプテンとハイタッチを交わして、オレと緑川は、コートの外に出る。
 懸命に呼吸を整えるオレたちに、壮馬が語りかけてきた。

「大健闘だったじゃないの? 二人の勇姿は、バッチリとカメラに記録させてもらったよ」

 にこやかな表情で答える友人に、オレは冷たい視線を送る。
 お前が余裕をこいてカメラを回していたおかげで、オレも緑川も、体力だけでなく、身体のあちこちをゴリゴリと削られ、青アザがができている。

「そんな暇があるなら、もっと早く声をかけろよ……」
 
 息を整えつつ、親友にそう言うと、壮馬は、

「まあ、色々と映像の証拠を残しておかないとね」

と言いながら、ほほ笑む。絵に描いたような爽やかなスマイルなのだが、こう言う表情をするときの壮馬は、なにかを企んでいるときだ。

 つくづく、コイツを敵に回さなくて良かったと思う。

 コートに入った吉井と林先輩は、軽くウォーミングアップのストレッチを行うと、

「さあ、ここから!」

と、二人揃って気合いをいれる。

 ボールを確認した上級生女子は、「7号球か……」と、つぶやいたあと、山吹に声をかけた。

「あかり、ボールには慣れた?」

 キャプテンは、自らの問いかけに、後輩がコクリと小さくうなずいたのを確認して、ニコリと微笑む。

「オッケー! ボールを取ったら、どんどんアンタに回すよ。ヒロタカも、頼んだよ」

「了解ッス!」

 身長196センチと、政宗にも背丈で劣らない吉井がゴール下に陣取ると、相手チームの三人の目つきが変わった。

「ここからは、ガチだ。気を抜くなよ」

 政宗が声をかけると、残りの二人も「おう!」と応じる。

 スコアは5対14――――――。

 相手チームのオフェンスで試合再開だ。
 アークの頂点で、山吹と向き合うように対峙する政宗は、

「あかり、これでもう言い訳できなくなったな……」

と言って、ニヤリと笑う。

「最初から、そんなつもりは無いよ」

 山吹が、相手に負けないくらいの不敵な笑みで応じると、ゲームが再開された。

 力強いドリブルを仕掛けた政宗が、身体を寄せてきた山吹に遠慮なくチャージすると、女子選手は軽くよろめく。そのまま、永井にパスを送り、ゴール下に切り込むように駆け込むが……。

「あまい!」

 あらかじめ、パス&ゴーのコースを読んでいた林先輩が、永井から政宗へのワン・ツー・リターンのパスをカットする。ボールを保持して、オフェンスの権利を得た先輩は、

「あかり!」

と、声を出し、山吹に素早くボールを送る。
 身長差20センチの男子のチャージを受けて、よろけそうになっていた山吹あかりは、素早く体勢を立て直し、いつの間にか、アークの外にポジションを取っていた。

 キャプテンからのパスを受け取った彼女は、すぐにシュート体勢に入り、ボールをリングに向かって投じる。
 美しい軌道を描いたボールは、そのまま、キレイにリングへと吸い込まれた。

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