初恋リベンジャーズ・第四部・第3章〜最も長く続く愛は、報われない愛である〜⑬
「アモッギング(AMOGing)」とは、AMOG(Alpha Male Of Group = 集団内で最上位のオス)の地位を下げて女を奪うことを指す。
言語を使ったコミュニケーションや非言語的コミュニケーションで、上位であることを示すこの行為で、もっと動物的で簡単なのが「ボディタッチ」だ。ヤンキーの兄ちゃん達などがやたら肩組んできたりするあの動作をオレも政宗(と思われる男子)を相手に行っている。
サル山でも上位のサルだけが、下位のサルにちょっかいがてらボディタッチをするという。
なにかの本で読んだことがあるのだが、実際、ホストクラブなどでは、初回に一緒に着いた新人キャストなどに軽くボディタッチしておくと売れてるホストっぽく見えるという効果があるらしい。
ちなみに、代々のアメリカの大統領は、なぜか、首脳会談などで握手の仕方で優位を示そうとしてくるとか……。
まあ、平たく言うと、いわゆる「マウンティング行為」と言い換えても良いかも知れない。
政宗が、オレの胸元を突いたあの行動も、無意識なマウンティング行為の一種だろう。
シロの超恋愛学の講座で解説した、「女子は、話題の主導権を握るオトコに惹かれる」という理論は、オレの参考書となりつつある『ザ・ゲーム』でも触れられていた。
もっとも、いま、この場で必要なのは、女子の目線などではなく、会話の主導権を握って、相手のオトコ達の地位を下げ、穏便に退散してもらうことだ。
舐められないように、わざと品のない言葉を使いながら、相手の出方を探ると、ややキレ気味に、永井(と思われる男子)が反論する。
「だ、だれがそんなことするかよ。金曜の夜に、あかりが大声で、日曜の11時に、石宮浜の総合公園に集合って言ってるのを聞いたんだよ」
「そ、そうだ! だから、こうして顔を見に来てやったんだよ」
二又(と思われる男子)も、続けて声を発した。
なるほど……鳳花部長のおかげで始められた集団下校は、ハッキリとわかる効果があったようだ。
だが、同時に、一昨日の下校時に、通りかかった公園に響き渡るような山吹の声は、やはり、オレたち以外の人間の耳にも届いていたらしい。
「そう言うことか……あの日も、アンタら三人は、オレたち市高生が帰宅するのをわざわざ見送ってくれてたって訳だ……ご苦労さま」
そう言って、政宗の肩を軽くポンポンと叩く。
オレには、確信に近い自信があった。
こうして、言質を取ったのであれば、あとは、自分たちの高校の周辺で不審者の目撃情報が相次いでいること、山吹あかり本人が付きまといの被害を訴えていることを合わせて、高校の生徒指導教師と警察に報告すると言えば、相手も引き下がるだろう――――――。
ここまでの会話の流れは、我ながら完璧に近いモノだった。
女子との会話を弾ませるため……いや、少しでも白草四葉の鼻を明かすために読み始めた本が、こんなところで役に立つとは思っても見なかった。
思わぬ副産物をもたらしてくれた読書体験に感謝しつつ、オレは、この騒動のクロージング(この言葉も『ザ・ゲーム』の影響だ)を行うべく、締めの言葉を告げようとしたのだが……。
「そんなことして恥ずかしくないのか!? はっきり言って、おまえたちのやってることは、ストーカーと同じじゃないか!?」
怒りに震えながら、声を張り上げたのは、つい先日まで自室に引きこもっていたクラスメートの男子生徒だった。
「あぁ!? 誰が、ストーカーだって?」
オレの腕を払い除けて、政宗が凄むように緑川に、にじり寄る。
「そうだろう? 僕は、間違ったことを言ってない! 自分がフラレたからって、コソコソと山吹の後を付け回すなんて、ストーカーそのものだろ!」
身長差にして20センチ以上は違いがありそうな相手にも怯むことなく、緑川武志は、目線を逸らさずに言い切った。
しかし、その眼力も、残念ながら政宗には効果が無かったようだ。
「この前の帰り道に声をかけたら、あかりは、露骨にイヤそうな顔をしやがったからな……迷惑にならないように、三人で帰り道のようすを見守ってただけなんだが……まあ、珍しくビクビクして帰っているあかりの姿を見るのは、なかなかのモンだったけどなぁ?」
下卑た笑いの政宗に同調するように、あとの二人も、「ああ、そうだったな」と、ニタニタとした笑みを浮かべる。
あきれるくらいのクズっぷりに、ため息も出ない。
さらに、軽蔑するような視線を三人に送っているのは、山吹も緑川も変わらないのだが――――――。
良くないことに、クラスメートの一言で、オレのプランは瓦解しはじめ、会話の主導権は、啖呵を受けきった相手側に移ってしまった。
「オレたちをストーカー呼ばわりしたからには、キッチリと落とし前をつけてもらおうじゃないか? ちょうど、そこに、バスケのコートがある。おまえたちが勝ったら、あかりの前に顔を出すのは辞める。だが、オレたちが勝ったら……今の言葉を詫びて、あかりには、オレたちと付き合ってもらうぜ? 正々堂々とバスケで勝負をつけるなら、問題ないだろう?」
これだけは避けたいと思っていた展開に焦りながら、オレは、ここからの挽回策を練るべく、必死で脳を回転させ始めた。