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吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第3章〜ピンチ・DE・デート〜⑦

 パークの入場から、1時間に1か所以上の早いペースでアトラクションやライドを体験していった針太朗しんたろう希衣子けいこは、午前中の最後に回ったウンテンドー・ワールドのキノピヨ・カフェで、ランチをとる。

 昼からのキャラクター・パレードに備えて、小休憩と言ったところだ。

 カフェの席を確保すると、針太朗しんたろうは、キノコ柄のバンズとペコリーノチーズ入りのパティが食欲をそそるマリヨ・バーガー、希衣子けいこは、恐竜のタマゴをイメージしたポーチドエッグにベーコンとほうれん草がたっぷり入ったカルボナーラのコッシー・スパゲティを、それぞれ注文して、生バジルが香るトマトとモッツァレラチーズをメインにしたマックンフラワーのカプレーゼを二人でシェアすることにした。

 朝食の時間が早かったため、空腹に耐えかねた針太朗しんたろうは、すぐにバーガーにかぶりつく。

 一方の希衣子けいこは、テーブルに備え付けのペッパーミルから、カルボナーラと自分のために取り分けたカプレーゼに、これでもかと言うくらい、たっぷりと黒コショウをかけてから、それぞれの料理を口に運ぶ。

「そ、そんなにコショウをかけて、辛くないの?」

「うん! アタシ、香辛料は、たっぷりかける派なんだよね。スパイシーで美味しいよ」

 針太朗しんたろうは、美味しそうにパスタを口に運ぶクラスメートの返答に、「そ、そうなんだ……」と応じながらも、

(カルボナーラに、スパイシーさを求めるなんて、初めて聞いたよ……)

と、やや困惑気味に相手を見守る。

 たしかに、カルボナーラとは、イタリア語で『炭焼き職人風』を意味するため、炭の粉に似た黒コショウは、重要なアクセントではあるし、サラダのカプレーゼにも、コショウを振りかけると味わいが増すだろうが――――――。
 読書好きの針太朗しんたろうは、料理関連の小説やコラムなどで得た雑学的知識から、自分を納得しようと試みたのだが、それにしても……。

 そんなことを考えていると、彼の戸惑っている表情が伝わったのか、希衣子けいこは、少し決まりが悪そうな面持ちで、

「ゴメンね……アタシ、こうやって、料理にはスパイスをドバドバかけちゃうから、一緒に食べる相手に、いっつも引かれるだよね」

と言って、寂しそうに語る。

「いや……味覚は、人それぞれだから、気にしなくて良いと思うよ! 健康にさえ気を配っていれば、だけど……」

 苦しいながらも、針太朗しんたろうがフォローすると、彼女は、少し笑顔を取り戻し、

「だよね! 身体には気をつけてるし、問題ないよね! ハリモトなら、そう言ってくれると思ってた!」

と、嬉しそうに言いながら、カプレーゼ・サラダに手を伸ばす。
 そんな彼女の様子を見ながら、針太朗しんたろうは、ふと前の週に生徒会長の東山奈緒ひがしやまなおと喫茶店で交わした会話の内容を思い出した。

(そう言えば、会長さん……奈緒さんは、酸味のある食べ物や飲み物が好みだったような……北川さん、いやケイコにも好みの食べ物の傾向があるのかな?)

 気になった彼は、それとなく希衣子けいこにたずねてみる。

「ケイコは、どんな食べ物が好きなの? やっぱり、コショウが良く効いたスパイシー系?」

「うん! ペッパー系の味付けも好きだけど、唐辛子、ワサビ、山椒、マスタード……ピリ辛系の味付けなら、なんでもオッケーだよ! でも、友だちは、スイーツ系が好きなコが多いから、行きたいお店の好みが合わないんだよね」

 彼女は、少し寂しそうに苦笑しながら、続けて針太朗しんたろうに質問を返す。

「ハリモトは、どうなの? 好きな食べ物とかあったら教えてよ!」

 希衣子けいこの率直な問いかけに、彼は、一瞬、答えを躊躇ちゅうちょする。
 彼が、苦手としている3つのモノのうちに、高い場所、異性との会話と並んで、激辛料理が含まれているからだ。

 友だちと好みが合わないと言った彼女のやや寂しげな表情を見ると、自分の好みを率直に伝えて良いものか頭を悩ませるところである。

 ただ――――――。

 この日ここまで、北川希衣子きたがわけいこというクラスメートと話しをしてきて、今さら、自分の好みを偽って伝えることは、逆に申し訳ない、とも感じる。

 そう考えた針太朗しんたろうは、彼女の様子をうかがいながら、慎重に切り出した。

「実は、ボクも激辛料理は、ちょっと苦手なんだよね……どちらかと言うと、甘いモノが好きだから……」

 その素直な返答に、希衣子けいこは少しガッカリした表情になる。

 それでも――――――。

「だけどね……」

 と、彼は言葉を続ける。

「もう、高校生だし、いつまでも甘いモノ好きな子供舌こどもじたは、そろそろ卒業したいな、って思ってるんだ……だから、もし、初心者向けのスパイシー料理とかあれば、教えてくれない?」

 針太朗しんたろうが、そう言うと、彼女は、可笑しそうにクスクスと笑い、

「初心者向けのスパイシー料理って……なんか、その言い方、ウケる」

と言ったあと、「う〜ん、そうだな〜」と、少し考えてから、

「ねぇ、ハリモトは、チーズとか大丈夫なほう

と、問いかける。
 針太朗しんたろうが、二度、大きくうなずくと、彼女は、その様子を見て即答する。

「じゃあ、オススメは、バッファロー・ウイングチキンかな〜? チリ・ペッパーを絡めた辛くて甘酸っぱいチキンを付け合わせのセロリと一緒に、チーズソースをディップして食べるんだ」

「あっ、それアメリカのドラマとかで見たことあるかも! アメフトの試合を見ながら食べるんだよね! たしかに、チーズをディップするならイケるかも!」

 彼が弾んだ声で言うと、希衣子けいこは、

「じゃあ、ヤンニョムチーズチキンもイケると思う! これは、日本でも有名だし、食べられるお店も多いよ! オススメのお店もあるから、今度いっしょに行こう!」

と、針太朗しんたろう以上に嬉しそうに答える。
 彼女の笑顔を見ながら、針太朗しんたろうは、希衣子けいこのそんな表情が見られることを喜ばしく感じている自分に気がついた。

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