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初恋リベンジャーズ・第四部・第2章〜先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん〜⑪
野球部と吹奏楽部で、シロが伝授したルーティーンを実行した翌日からも、オレと緑川は、クラブ訪問を続け、色々なメソッドを試してみた。まだ不慣れなせいで、まれに失敗することもあったが、ほぼ9割のルーティーンは、相手の興味と好奇心を刺激し、ターゲットにした女子に対して、緑川武志という生徒を強く好意的に印象づけたと言えるだろう。
この間、オレは、アドバイザーのシロだけでなく、我が広報部の部長である鳳花先輩にも、部の活動報告として、緑川とのクラブ訪問の成果を伝えるようにしていた。
「そう……黒田くんの懸念は、私の方から各クラブにも伝えておくわ……それにしても、あの美奈子がね……その場面を見たかったわ……フフフ……」
オレの報告を受けた鳳花部長は、目を細め、わずかに口角を崩していた。
そして、緑川が登校しはじめて5日目にあたる週末の金曜日――――――。
「四日間でこれだけの成果が出たなら、もう本命のターゲット・山吹さんにアプローチしても良いんじゃない?」
昼休みに、監察官であるオレの前日までの報告を受けたシロが、ついに、GOサインを発令した。
「これまで試してもらったルーティーンを元に、まずは、彼女と親しく会話して連絡先を交換するためのステップを13段階に分けているから、このステップを参考にしてみて」
シロは、そう言ってオレと緑川のメッセージアプリに、13のステップに分けられたテキストを送信してきた。
「緑川くんは、そのステップを頭の中に叩き込むこと。クロは、そばに居ると思うから、彼の言動が、ステップから外れていないか、チェックしてあげて」
「あぁ、暗記科目は得意な方だ! まかせてくれ!」
先週まで自室に引きこもっていたとは思えないほど、自信にあふれた表情で応じる緑川に感心しながら、オレは短く、「了解」と答える。
放課後になり、
「それじゃ、二人とも、がんばってね!」
というシロの笑顔に背中を押され、オレは、緑川とともに、男女バスケットボール部が活動している体育館を訪れた。
コートの隅では、バスケ部の面々が練習の準備を始めている。
「お疲れさまッス! 広報部です。新入生の入部状況と期待の新入部員、それから、今年のチームについて、取材しに来ました」
声を掛けると、男女バスケ部から、それぞれ、2名ずつの部員が、オレたちの元に来てくれた。
男子部員は、部長の渡辺先輩と2年の吉井。
女子部員は、部長の林先輩と、そして、山吹あかりだ。
野球部の訪問時と同様に、オレが、緑川が同行している理由を告げると、四人は和やかな表情で、クラスメートの来訪を歓迎してくれた。
さあ、シロが送信してくれたルーティーンが発動する場面が来た!
ここからは、緑川の行動チェックも兼ねて、シロが考案したルーティンと、クラスメートの実際の行動を並べてみていこう。
【オープン・マインドのルーティーン 13ステップ】
1.ターゲットの女子に接触するときは、いつも笑顔で。彼女がいるグループを見つけたら、3秒以内に行動を起こすべし。
※ この3秒ルールは、自身の迷いを断ち切ることと、何も言わずにじっと見ている自分を見ている相手が引いてしまうかもしれないしことから守るべき掟。
「今日は、部外者の訪問を受け入れてくれて、ありがとうございます。実は、親戚が2匹の犬を引き取ることになったんですけど……名前を決める前に、先走って、バスケのユニフォーム風の服を買っちゃったらしいんですよ。自分は、バスケに詳しくないんですけど、せっかくならバスケットボールの選手にちなんだ名前をつけたいらしいので、『これぞ、名コンビ』って人たちがいたら、教えてくれませんか?」
訪問のあいさつもそこそこに、 緑川が切り出す。
2.2つや3つとはいかなくても、1つくらいは『ツカミ』のトークを用意して活用するべし。
「そうだな〜。かなり古いけど、ジョーダンとピッペンとか?」
「いや、いくらなんでも古すぎますって! ポール・ジョージとイビツァ・ズバッツくらい最近の名前でなくても、せめて、レブロンとラブにしましょうよ」
「いや、やっぱり、流川と花道で良いんじゃないの?」
渡辺先輩の発言に、オレたち同学年の吉井がツッコミを入れて、女バスの部長である林先輩も会話に加わった。
孔雀の羽根を使ったルーティーンの時と異なり、笑いの要素は皆無だが、まずは、会話の『ツカミ』に成功したようだ。
3.『ツカミ』のトークでは、ターゲットの女子だけでなく、グループ全体に話すべし。話している間、ほとんどの時間は、ターゲットを無視する。グループの中に男子がいる場合は、その男子に注意を向けておくこと。
「あっ、それなら空と要とか? 双子なら、百春と千秋は、どうよ? アタシ、『スラダン』より『あひるの空』派なんで!」
ここで、山吹あかりが会話に加わってきた。しかし、緑川は動じることなく、ターゲットの発言を軽くいなす。
「いや、ゴメン……『スラダン』も『あひる〜』も良いと思うんだけど……うちの親戚は、マンガとかアニメをあまり見ないらしいんだ」
「え〜、なんだ〜。せっかくイイ名前を思いついたのに……」
不満をもらす山吹あかりの鼻が、かすかにヒクヒクと動く。
ここまでは、吹奏楽部の時と同じように進んでいる。
緑川のルーティーン本番は、順調な滑り出しを見せた。