吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第3章〜ピンチ・DE・デート〜⑧
昼食後に始まった午後のパレードは、針太朗が想像していた以上に、遥かに華やかで盛大なモノだった。
「NO LIMITED! ぶっとべ!全員主役の超熱狂」
というテーマに合わせて、パークの開園当初からメインキャラクターを務める海外の子ども向け教育番組に登場するおなじみのマペットのキャラクターから、世界中で映画も大ヒットした国内の超人気ゲームキャラクターが総動員で登場する。
パレードの列は、約一時間もの間、パークのルートをゆっくりと進み、人気キャラクターやエンターテイナー、観覧ゲスト全員で音楽に合わせノリノリで踊る壮大なイベントは、針太朗と希衣子のココロの距離をさらに縮める効果があったようだ。
たっぷり騒いだ気分をクールダウンさせるのと、次のライドの待ち時間に備えて英気を養うため、ハッピー・カフェというドリンク・バーを備えた店舗に移動した二人は、パレードの感想を述べ合う。
「あ〜、めっちゃ、楽しかった! アトラクションやライドに乗らなくても、ウニバに来た! って感じ!」
クラスメートの弾けるような笑顔につられて、針太朗も表情がほころび、
「だね! 今日は、本当に来て良かったと思う。誘ってくれて、ありがとう、北川さん」
と、喜びと感謝の気持ちを彼女に素直に伝えると、希衣子は、珍しく視線を少しだけ反らしながら、
「そんなこと言われたら……また、ハリモトとウニバに来たくなるじゃん……」
と言いながら、ユニコーンのキャラクター、フラッティーのミルクプリン&ストロベリーパンナコッタを口に運んだあと、スプライトを一口すする。
そして、彼女は、
「ハリモト、草食系っぽい顔して、他のコにも、そんなこと言ってるんでしょ?」
と、少しだけ拗ねたような口調で、そっぽを向きながら、不機嫌に針太朗に問いかける。
そんな希衣子の仕草に、異性との会話に慣れていないため、慌てた彼は、釈明に追われる。
「いやいやいや、そんな相手、ボクには居ないよ! そもそも、どうして、ケイコみたいにカワイイ女子が、ボクなんかを誘ってくれたんだろう? って、今でも疑問に思ってるくらいなのに!」
「うん? いま、なんて言った?」
「いや、ケイコみたいな女子が、ボクを誘ってくれたんだろう? って……」
「そうじゃなくて! どんな女子が、ハリモトを誘ったって?」
先ほどの、やや不機嫌モードから、ニンマリとした表情に変わった彼女は、針太朗に再び問いかける。
ニマニマした顔つきで問うてくる希衣子に対して、
「どうして、ケイコみたいにカワイイ女子が、ボクなんかを誘ってくれたんだろう? って……」
と、彼は、うつむきながら赤面して答える。
「そうなんだ〜! ハリモト、アタシのことをカワイイって思ってるんだ〜! そっか、そっか〜」
彼女くらい容姿に恵まれた女子生徒なら、同性からも異性からも、数限りなく、その言葉を言われて来たことは間違いなさそうなのに、どうして、彼女は、こんなに嬉しそうなんだろう――――――?
ついさっきまでとは、うって変わって明るい表情の希衣子を直視することができずに、針太朗は、そんな想いを抱く。
一方の希衣子は、彼のそのような感情を知る由もないのか、
「でも、ハリモトって、天然系のたらしキャラだよね! アタシだから良いけど、他の女子にそんなこと言ったら、勘違いしちゃうから絶対ダメだからね! アタシだから良いけど……」
と、一人ご満悦の様子だ。
そんな彼女に、針太朗は、思い切って、生徒会長にもたずねた質問を重ねてみる。
「ケイコはさ……どうして、同じクラスになったばかりのボクに、手紙をくれたり、出かけたい、と思ったの?」
「え? アタシが?」
針太朗の問いかけを意外そうな表情で受け止めた希衣子は、「う〜ん……」と、人差し指をあごのあたりに添えて、少しだけ考えるような仕草をしながら返答した。
「あえて言えば、ニオイに惹かれたって感じかな〜」
「ニオイ……?」
生徒会長の東山奈緒に続いて、また、その答えか……と、感じながらも、針太朗は、再び問いかける。
「あの……ボクって、そんなに匂うかな?」
二の腕や脇のあたりに鼻を寄せ、体臭を気にするような仕草で彼が問うと、彼女は、少し慌てたように、「あ、いや、そういう意味じゃなくてさ……」と言ったあと、つぶやくように語りだす。
「なんていうのかな〜? はじめて、『コレだ!』っていう感じに当たったんだよね? 自分で言うのもナンだけど、小学校の頃から、女子だけじゃなく男子と仲良くなることも多かったんだけど、どの相手もピンと来なかったんだよね……なんていうの? お肉の焼けたニオイとか、炊きたての御飯とか、ダシの効いたうどんとか? みんなが、そういうのを『良いニオイだ!』って言うのは、わかるんだけど、アタシ的には、今イチ、ハマらないっていうか……」
針太朗が相づちを打ちながら続きをうながすと、希衣子は、自分の言葉を続ける。
「それが、高等部の入学式の日に、教室でハリモトのそばを通ったときに感じたんだ……これが、アタシの求めるニオイだ! って……アタシさ……勉強はそんなに得意じゃなくて、中等部の受験もラッキーで合格しような感じだから、その分、勉強以外のことでは明るく学院生活を送りたいなって思ってるんだよね。だから、なるべく、クラスとか部活のみんなとも分け隔てなく付き合って、みんなに楽しんでもらいたいって考えてるんだけど……」
「それって、スゴいことじゃない? 少なくとも、ボクには簡単にはできないよ」
希衣子の最後の言葉に反応した針太朗が言葉を返すと、彼女は、苦笑しながら答える。
「でもね〜、みんなに気をつかいすぎると、自分のことは後回しになっちゃうし、やっぱり、疲れちゃうこともあるんだよね〜」
その表情に、針太朗は、いつもは教室で明るく振る舞うクラスメートの普段は見せない素の部分を感じ取った。