吸潔少女〜ディアボリック・ガールズ〜第2章〜恋の中にある死角は下心〜②
針太朗の逆質問に、放送メディア研究部に所属し、校内の情報通を自称する貴志が応じた。
「僕らに聞きたいことって、なんだい?」
興味深そうに問い返す、自称・情報通とその友人に、針太朗はあらためて問いかける。
「うん……ボクは、高等部に入学してきてから、まだ、四日目で、この学院の生徒のことについて、ほとんど知らないんだ……二人の知っている範囲で構わないから、ボクにデートを申し込んできた四人が、どんなヒトたちなのか、教えてくれないか?」
とっさことでもあったので、彼からすれば、男子から見た彼女たち四名の印象などを聞くことができれば十分だと考えていたのだが……。
「そうだね……たしかに、針本から一方的に情報をもらうだけなのは、フェアじゃない。それに、一緒に出掛けるにしても、彼女たちのことを何も知らないままじゃ、不安だよね? 針本が、プライベートなことを話してくれたお礼に僕が知る限りのことを伝えさせてもらうよ」
「たしかにな〜。オレは、貴志ほど、校内の情報に詳しい訳じゃないけど、自分なりのイメージで良ければ話しをさせてもらうぞ?」
貴志と良介は、針太朗の願いをアッサリと受け入れてくれた。
そして、放送メディア研究部の部員は、スマホを取り出して、メモアプリを起動する。そこには、彼が知る限りの学院の生徒情報が詰まっていた。
「まずは、最初に出掛けるって言ってた生徒会長からだね! 東山奈緒。11月23日生まれの射手座。ひばりヶ丘学院の70期生・生徒会長。家族構成は、両親と三歳年上の兄の四人家族。部活動は、弓道部に所属していて部長を兼務。趣味は、弓道の他に、茶道・華道・書道など……他にシークレット・データとして、密かに、ぬいぐるみの収集を行っている、という情報があるね」
貴志の持っているデータを聞き入って針太朗と良介は、二人同時に、
「はぁ〜〜〜」
と、声を上げる。
「あらためて聞くと、完璧超人で草も生えないな」
苦笑しながらつぶやく良介は、続けて、針太朗に語りかける。
「針本、スマホで『ウマ娘。』のゲームはプレイしたことあるか?」
「あぁ! 最近は、ログインしかしていないけど、中学の最初の頃は、周りの友だちもやってたから、ボクも遊んでたよ」
針太朗が返答すると、同志を見つけたと感じたのか、良介は、ニッコリとした表情で語りだす。
「オレの印象では、東山会長は、イメージどおりシンボリルドルフだな。生徒会長としての威厳も、生徒や先生からの信頼も言う事なしだ。ぬいぐるみの収集癖があるってのは初耳だが、これまで、男子とからんでいるなんて話しも聞かなかったしな〜。針本、いったい、どんな理由で、生徒会長に気に入られたんだよ?」
「ホント、それは、僕も興味ある。けど、時間がないから、次の相手を紹介しよう。次は、同じクラスの北川ちゃんだね」
友人の言葉を受けた貴志は、始業前の貴重な時間を無駄にすることを避けて、情報提供を進める。
「北川希衣子。4月20日生まれのおひつじ座。1年2組の文化委員。家族構成は、両親と弟・妹の五人家族。中等部時代は、ダンス部に所属していたから、高等部でも入部する可能性が高いかもね。趣味は、カラオケとショート動画の投稿。お気に入りのブランドは、SHEIN(シーイン)。ただ、本人曰く、『財布がピンチのときは、GU(ジーユー)でも十分』らしい」
放送メディア研究部の情報提供に耳を傾けていた良介は、
「好きなブランドはともかく、普段の発言なんて、どうやって情報収集してるんだよ?」
と、呆れながらツッコミを入れつつ、自身の見解を語る。
「北川ちゃんのイメージは、ギャル系のゴールドシチーか、トーセンジョーダンだな。いや、オレたちの知る限り、性格に面倒くさい部分はないから、シチーはないか? 程よく抜けてる発言をする所もあるし、オレたちSF・アニメ研究部のメンバーにも、別け隔てなく接してくれる、『オタクに優しいギャル』の典型だ。ウチの部にも隠れファンが居るから、針本が付き合い始めたら、同族嫌悪で恨みを買うかもな」
苦笑しながら語る良介の言葉に、針太朗は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
ただ、彼の反応を気にする様子はなく、貴志は、解説を続ける。
「次は、中等部の西田さんだね。西田ひかり、4月30日生まれのおうし座。中等部三年生で放送部とコーラス部に所属。家族構成は、両親と姉と兄の五人家族。実は、中等部では、放送部だった僕の後輩なんだよね。彼女は、容姿だけでなく愛くるしい声も人気で、最近は、自分のキャラを活かして動画配信を始めようと準備中らしい。これは、僕が進級直前に本人から聞いた話しだから事実と思ってくれて大丈夫だよ」
その解説に、良介は、ウンウンとうなずきながら、友人の言葉を引き継ぐ。
「西田は、オレたちが中等部の頃からモテてたもんな〜。自分たちが年上ってこともあるが、イメージ的には、妹系のカレンチャンやヴィヴロスそのものだ……高等部には、『ひかりちゃんに、お兄ちゃんと呼ばれ隊』なんて本人非公認のグループも存在するくらいだ。当然、オレたちSF・アニメ研究会にも彼女のファンは多い。もし、彼女を傷つけるようなことがあったら……針本、月の出ない夜は気をつけろよ……」
まるで、脅し文句のように紡がれるその語り口に、針太朗は、膝が震えるのを止められなかった。
そんな様子に構うことなく、貴志は、最後の説明に入ったのだが……。
「四人目は、南野さんか……南野楊子。3月5日生まれのうお座。中学時代は、図書委員会に所属して積極的に活動していたらしい。家族構成は、母親との二人暮らし……」
放送メディア研究部の部員にして、情報通を自称する乾貴志の饒舌な解説は、そこで、プツリと途切れる。
「あれ? それだけなの?」
これまで、次々と各生徒の情報を披露していた貴志に、針太朗が問いかけると、彼は、ややバツの悪そうな表情で応じる。
「実は、同じ学年だけど……彼女の情報は、あまり集まってこないんだ。こういうのはなんだけど、その謎の多いミステリアスな部分に惹かれている男子も多いみたいなんだ」
これまでとは違い、貴志にあいまいな印象論という感じがするその返答を針太朗は、意外に思った。
さらに、友人の言葉を受けて、良介が、自身の見解を口にする。
「そうだな〜。たしかに、南野は、ちょっと良くわかならないところがある女子だよな〜。儚げなイメージが、ライスシャワーとかメジロアルダンって感じはするけど……でも、あのコに告白した男子は、一番人数が多いってウワサもあるんだよな……たしか、1組の西高も、そうじゃなかったっけ?」
西高という男子生徒の名前が出た途端、針太朗の身体は、ビクリと震え、全身に悪寒が走るのを感じた。
そして、その瞬間――――――。
キ〜ンコ〜ン カ〜ンコ〜ン
と、始業時間が近づいていることを告げる朝の予鈴が校舎に鳴り響いた。