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初恋リベンジャーズ・第四部・第2章〜先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん〜⑩

「僕は、黒田と同じクラスの緑川みどりかわと言います。広報部に入部したんじゃなくて、久々に学校に登校してきたので、雰囲気に馴染むために、黒田と一緒に各クラブを回らせてもらっているんです」

 さっきの野球部への訪問で、面識のなかった生徒と話すことに抵抗がなくなったのか、今度は、オレが紹介するより先に、緑川自身が自己紹介を行った。

「へぇ〜、緑川くんって言うんだ。よろしくね。今日は、どこのクラブを回ってきたの?」

「はい、ここの前には、野球部を訪問してきました。同級生の佐藤にも、学校を休んでる間にお世話になったので……」

 はにかみながら受け答えをする緑川。女子との会話に慣れていなかったであろうクラスメートの内心を、いまの表情から推し量ることはできないが、(と、あえて言っておく)生徒会長相手に、物怖じせずに話しているだけでも、大したモノだと思う。
 ただ、好奇心旺盛な寿ことぶき先輩は、そんな下級生の返答よりも、気になったことがあるようだ。

「ところで、緑川くんさ……さっきから、気になってるんだけど、胸ポケットのその派手なアクセサリーは何だい? 私、こう見えて、生徒会長なんて肩書きもあるんだけどさ……立場上、校則違反になりそうな華美な装飾は見過ごせないな」

 そう言って、生徒会長は、野球部訪問時の女子マネージャーと同じく、緑川の胸元に手を伸ばす。
 もう、男子二人で目を見合わせる必要すらない。

(キタッ――――――!)

 オレが、そう感じた瞬間、緑川は、相手の動きを制するように片手で胸元をガードし、不敵な笑みを浮かべながら寿先輩に言葉を返す。

「これは、すみませんでした、生徒会長。でも、このアクセは、ちょっと値段が張るモノなので手を触れないでくれますか?」

「おっと、それはゴメンよ。そんなに高価なモノとは思わなかった! ちなみにだけど、そのお気に入りのアクセは、おいくら万円ほどするんだい?」

「はい、ネット通販で10本600円です」

 お約束のルーティーンが決まった。
 そして、先ほどの中江先輩と同じく、一瞬、あっけにとられたような表情になった寿先輩は、すぐに声を上げて豪快に笑う。

「アッハッハッハッハ! なんだい、めっちゃ安モノじゃん! 緑川くん、面白いこと言うね」

 そんな生徒会長に、緑川は、「どうも、ありがとうございます」と、軽く会釈したあと、寿先輩ではなく、部長の早見先輩の方に視線と身体を向けて、問いかける。

「ところで、部長さんと副部長さんは、ずいぶんと仲が良さそうで、気心が知れているみたいですね?」

「えぇ、そうね……お互いを信頼できる相手だと感じているんじゃないかな? そうよね、美奈子?」

 男子生徒の問いかけに答えつつ、早見部長が寿副部長に話しを振ると、

「え〜、サオリンがそんな風に思ってくれていたなんて、美奈子、感激〜!」

と言って、副部長は、背後から部長に抱きつく。
 
(また、いつものノリか……)

 オレは、そんな上級生二人の様子を内心で苦笑しつつ見守っていたのだが、いつの間にか肝の座ったクラスメートは、女子二名の言動に動じることもなく、質問を繰り出す。

「でも、二人が知り合ってから、それほど、長い時間は経っていない? 違いますか?」

 ふたたび、寿先輩ではなく、早見先輩に視線を向けて、緑川は質問する。

「ん〜、そうだねぇ……美奈子と出会ったのは、この高校に入学してからだから……長いような……短いような……でも、緑川くん。どうして、そう思ったの?」

「えぇ、友だちというのは、付き合いが長くなればなるほど、仕草や動作が似てくるものなんです。二人は、仕草や動作まで、そっくりという訳じゃなさそうですから」

 男子生徒がそう返答すると、視線を外されている副部長が反応した。

「ナニそれ、心理テストみたいなヤツ? 私、そういうの、めっちゃ興味あるんだけど」

「いや、寿先輩……いま、僕は早見先輩に返事をしたんですけど……早見先輩、寿先輩って、いつも、こんな感じなんですか?」

 少しおどけたような表情で緑川が問いかけると、早見部長は、クスクスと笑顔を見せながら返答する。

「えぇ、そうね……なんにでも、好奇心旺盛なところが、美奈子の良いところだとは思うんだけど……部員のプライバシーに踏み込もうとするところは、たまきずかな……?」

「あぁ、そうなんですね……」

 つられたように男子生徒が笑顔を見せると、副部長は、抱きついていた部長の身体から、サッと離れて、

「なんだよ〜二人とも〜! わたしのこと、ディスってるの〜」

と、ややご不満なようすだ。
 そんな、寿先輩に対して、緑川はたたみ掛けるように、語りかける。

「寿先輩、鼻がピクピク動くくらい不満なんですね。申し訳ありませんでした」

 下級生男子の一言に、

「ナニッ!?」

と、一瞬、声を上げた生徒会長は、自分の鼻と口元を両手で覆う。
 そのようすを観察しながら、緑川は、今回の締めの言葉を口にした。
 
「でも、そうして、感情が鼻や口元にあらわれる女性は、爆発的な行動力を持っていて、常にワクワクした刺激に満ちた毎日を過ごせるそうです。それが、先輩のバイタリティーにつながってるんですね。さすが、生徒会長さんです。尊敬します」

 彼の一言を耳にした寿先輩は、耳まで赤くなり、言葉を返す。

「い、いまさら、誉めたって遅いんだからね!」

 そう言ったあと、右目の下まぶたを指で軽く引っ張り、ペロッと舌を出す。
 いわゆる「あかんべぇ」のポーズを取って、去っていく生徒会長を可愛らしいところもあるんだ……と感じつつ、

(あの寿ことぶき生徒会長を手玉に取るなんて、ヤバ過ぎだろ……)

と、シロの授けた数々のメソッドの的確ぶりと、それを忠実にこなすクラスメートのマシンぶりに、若干の恐ろしさを覚え始めていた。

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