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初恋リベンジャーズ・第四部・第2章〜先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん〜④

「さて、ターゲットにする女子と目標も決まったことだし、もっと、細かく作戦を練っていこうか? クロ、山吹サンって、どんなコなの? 当然、情報データは集めてくれているんでしょう?」

 いつものクン付けではなく、相性呼びに加えて、笑顔で語りかけてくる女子生徒に、「さすが、シロ……こっちの行動はお見通しか」と、苦笑しながら、オレは、鳳花ほうか部長から受け取ったファイルを取り出す。

 ここには、今回の『緑川武志みどりかわたけし復帰作戦』においてカギを握る重要人物の情報が記されていた。

 「山吹やまぶきあかり。5月28日生まれのふたご座。2年C組の文化委員。クラブは、女子バスケットボール部に所属。家族構成は、両親と兄の四人家族。中学校時代から、前述の女子バスケ部で中心選手として活躍。趣味は、カラオケとコスメ収集。お気に入りのブランドは、ジルスチュアート。ただし、本人曰く、『財布がピンチのときは、プチプラでも十分』らしい」

 以上が、生徒会のデータベースに登録されている山吹あかりの情報だ。個人情報保護の観点から、大きな問題になりそうな行為のため、同席している二人には、ここでのやり取りについて、口外しないことを約束してもらう。もちろん、預かったファイルは、週明けに鳳花部長に返却し、生徒会室でシュレッダー処理してもらうことになっている。

「この前のオープン・スクールでも思ったけど、この学校の生徒会と広報部って、なんでもアリの組織なのね」

 あきれながら語るシロには、オレも同調せざるを得ない。

「こういう情報って、どうやって集めてるんだ? ぼ、僕が2年になってから登校していないことも、もうデータベースに登録されているのか?」

 一方の緑川は、引き出された山吹あかりの情報以上に、自分の個人情報が、どのように記載されているか気になるようだ。彼が気になるなら、鳳花部長に頼んで調査することもできるが、いまは本題とズレてしまうので、そのことは、また別のときに話すことにしよう。

 そう考えて、話題を戻すため、シロにたずねる。
 
「このデータから、わかることとか、取るべき対策はあるのか?」

 すると、彼女は、「う〜ん」と形の良いあごに手を当てて、少し考えるような仕草をしたあと、

「有効になりそうな情報は、誕生日が近づいていることと、部活のことくらいかな……?」

と、微苦笑を浮かべる。

「そうか……あまり役に立たなかったようで、申し訳ない」

 リスクに対して、リターンが少なかったことに、少しガッカリしながら謝罪すると、シロは、オレを励ますように、

「これだけでも、わかったことがあれば十分だよ!」

と言って、笑顔を見せたあと、

「ところで、クロ。広報部として、クラブを訪問するときに、緑川クンが一緒に行くことは可能なの?」

と、たずねてきた。

「それに関しては、すでに鳳花部長から了承を取り付けている。部長は、緑川の所属してるコンピューター・クラブとも交渉してくれるそうだ」

 オレが、クラスメート男子の背中をポンポンと軽く叩きながら言うと、緑川は、急に青ざめた表情になって声をあげる。

「ぼ、僕は、そんなこと一言も聞いてないぞ! だいたい、なんだよ! クラブ訪問って!?」

「クラブ訪問ってのは、広報部が定期的に行っている取材活動みたいなもんだ。去年、コンピューター・クラブにも何度か訪問させてもらったことがあっただろう?」

「僕が聞いているのは、そういうことじゃない! どうして、僕がそのクラブ訪問に同行しなきゃいけないのか、ってことだ!」

 どうやら、緑川は、自分に降りかかる面倒ごとに対して、敏感に反応するタイプのようだ。
 だが、このクラブ訪問の同行は、学校に復帰したあとも登校を続けるためのリハビリテーションのようなモノなので、ぜひとも、緑川には参加してもらいたい。

「色んな生徒と話すのは楽しいぞ。自分たちが知らなかったクラブの一面が見えてくるしな」

 そして、そう答えたオレを後押しするように、シロが言葉を続ける。

「さすが、クロね! 準備が良いじゃない! まずは、色んなヒトたちと話して、会話力やコミュニケーション能力を鍛えるのは、とっても大切だと思うよ。山吹サンは、クラスの中心人物みたいだし、今回は、そのことが一番重要かも」

「そ、そうなのか……?」

 前日のヘアカットの件で、アドバイザーとしての実力を十分に見せつけているシロの言葉は、緑川にも効果バツグンのようだ。

「コミュニケーション能力の高い女子には特にね。こういう相手を引き付けたいと思うなら、自分が会話の中心に居るってことを示すのが大事なんだ」

「か、会話の中心になるって……どうすれば良いんだよ?」

 どちらかと言えば、集団での会話を好みそうにない緑川は、切羽詰まったようすで聞き返す。

「会話の中心に居座るための条件は、2つ。『ツカミ』と『イジリ』なんだ」

 気になる単語が出てきたので、今度は、緑川より先にオレがたずねる。

「『ツカミ』と『イジリ』? それって、お笑い芸人が良く使うワードと同じ意味と考えて良いのか?」

「そう! ホントは別の用語があるんだけど……ここは、いまの時代に合わせて、こういう言い方にしてみた」

「でも、『ツカミ』の重要性はともかく、『イジリ』は難しくないか? 下手すりゃ、相手を怒らせて終わりになってしまうだろ?」

 続けて問いかけるオレに、緑川は、「そのとおりだ!」とばかりに、ウンウンと大きくうなずいている。
 そんな男子二名の疑問に対して、シロは苦笑しながら応じる。
 
「たしかに、そのとおりなんだけど……その質問に答える前に、ここで、わたしからクイズです! 女子が魅力に抗えない男子って、どんなタイプだと思う? にはわかるかな?」

 突如として投げかけられたにオレと緑川は、顔を見合わせるしかなかった。

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