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非営利団体のファンドレイジングを強化するためのデータビジュアライゼーション:FIA DATA WEEK 2024 SESSION 8より
2024年5月6~10日に開催された、オーストラリアのファンドレイジング協会Fundraising Institute Australia(FIA)主催オンラインイベントFIA Data Week 2024に参加しました。
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本記事では、同イベントのセッション8「Data visualisation to enhance fundraising」にて、オーストラリアの非営利団体におけるファンドレイジングをより効果的にさせるデータビジュアライゼーションの実践について共有がありました。
登壇者は、オーストラリアの非営利団体や高等教育機関向けにデータ分析やそれにもとづくコンサルティングとシステム管理・運用のサポートを行うVisualise Fundraisingでディレクターを務めているJulia Villiotis氏と、乳幼児死亡を予防するための啓発活動や妊娠中および出産後の健康に関する情報提供、グリーフケア等の支援活動を行うオーストラリアの非営利団体red noseでDirector of Marketing, Communications and Fundraisingを務めるRachel Bailey氏。
データビジュアライゼーションとは
データビジュアライゼーションとは、情報やデータをグラフやチャート、伝わり易いデザイン等も活用しながら、視覚的に分かりやすく表現することです。
Villiotis氏は、大量の情報を伝え解釈しやすくすることが、データビジュアライゼーションが大事な理由であると言います。
これは、組織内外に対して言えることで、意志決定への影響度合いとして、Benchmarking Projectからは、データビジュアライゼーションを採用している企業では5倍速い意思決定ができ、3倍速く実行ができるというデータが出ていることが共有され、データにもとづく意思決定を行う組織は、収入が増加する可能性が3倍高いという研究結果が近年出ていることも言及されていました。
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そのデータビジュアライゼーションに必要な最初の要素はデータの質。そして、ほとんどの組織がデータの質について常に何らかの問題を抱えているとも指摘します。
データの質(正確性、整合性、充分な情報を収集できているかどうか、タイムリーに更新できているかどうか、有効な情報であるかどうか、個別の情報が収集できているかどうか)は、データ分析にとっても非常に重要であり、そのうえで効果的なデータビジュアライゼーションにつながります。
Villiotis氏は、上記のデータの質の各要素のどれかが不十分だとビジュアライゼーションで躓くことになると語り、クライアントのサポートで取り組むことの大部分は、担当チームと協力して、信頼できるデータとして再構築(再収集)することだそうです。
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そのうえで、ビジュアライゼーションに活用できるCRMやツールを活用する必要性が話されました。日本のソーシャルセクターでは、CRMに関してはセールスフォースかキントーンかコングラントが挙げられるでしょう。
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データとファンドレイジングをより連携させるためには
よく見過ごされがちで、最も頻繁に起きる失敗要因の一つとして、チーム内またはチーム間(組織内)のコミュニケーションと協力が挙げられました。上記の要素からも想像がつくように、たとえば、あるステークホルダーが一つの団体の複数事業に関わった場合、担当者ごとにバラバラの情報を収集をしてしまったり、同一人物なのに別人として個人情報を登録してしまったりしてしまうことが考えられます。つまり、組織内の全員が情報共有の責任を理解し、協力し合うチームになることが必要であるということです。
セッション内では、2つの対応策が共有されました。
1つ目は、データを扱うスタッフを雇用する際、ソフトスキルも重視して選考することです。これは、ハードスキルとソフトスキルの両方を持っている人材を採用することで、上記の組織内コミュニケーションや協力が円滑に生じることを意図しての対応策かと思います。(セッション内では触れられませんでしたが、候補者がどちらかのスキルに偏りがあっても採用後に研修等のスキルアップやトレーニングの機会を設けて育成する方法もあり得ますし、ファンドレイジング担当を採用する際もハードスキルをどれくらい有しているかを選考段階で確認することも考えられるでしょう)
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また、二つ目は、Villiotis氏が外部データアナリストとしてウェスタンシドニー大学に関わった際の経験談だったのですが、データ分析やレポートを提供するだけでなく、毎週のファンドレイジングチームの定例会議に参加して、お互いの認識の摺り合わせや大学側の担当チームの理解促進をすることでミスコミュニケーションの予防になったと振り返っていました。
ビジュアライゼーションを効果的にするためには
このセッションで言及された印象的なポイントとして、データビジュアライゼーションの注意点は、画像は1,000の言葉の代わりにはならないということでした。
補足すると、英語の慣用句に「a picture is worth a thousand words(1枚の絵は1,000の言葉に値する)」というのがあります。日本語の「百聞は一見に如かず」の意味で、それをもじって「画像(ビジュアライゼーション)は1000の言葉にはならない」と言っていたわけです。つまり、ただ単にデータを視覚化するだけでは伝わらない場合があるということ。
ビジュアライゼーションしたデータが効果的かつ正確に解釈されるためには、コンテキスト(文脈)を理解する必要があり、グラフィックはあくまで一部分に過ぎず、それだけでは不十分であると指摘します。情報を補完するテキストやストーリーを載せたり、情報によって色を分けたりすることで、見る人はどんな興味深いパターンが分かるのか、何か変更点や改善点があるかどうかなど考えを深めることができると言います。(おそらく感覚的に分かる方は結構いるのではないでしょうか)
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red noseに入ってからのBailey氏の奮闘
Bailey氏は、2022年からred noseで仕事を始めました。彼女のファンドレイザーとしてのミッションは、数年間でファンドレイジングプログラムを飛躍的に成長させるというものだったそうです。そこで、同氏は現状から把握しようと「寄付者は何人いますか?どのくらいの額を寄付していますか?どのようなタイプの寄付者がいますか?」などの多くの質問をしたものの、当時の組織内に答えられた人は誰もいなかったと振り返ります。
団体内にデータの積み上げやインサイトが無かったため、現在までの2年間で他団体のベストプラクティスを取り入れたり、新しいCRMを導入し、できる限り多くのテストを行い、上記の問いに答えられるような情報やデータを徐々に得られてきているとも言います。その中の一部には、自分達の直感に従って行ったものもあり、そうせざるを得ない時もあったとBailey氏は語ります。そして、ある程度の成果をあげることはできたものの、良いデータとそこから得られるインサイト無しでは、ファンドレイジングプログラムの飛躍的な成長はできないとも付け加えます。
CRM導入のプロセスで、古いデータベースに50万件以上のアーカイブされたデータを見つけ、その中身に関する情報が一切分からないことが判明したそうです。それらを全て新しいCRMに取り込むのは現実的では無かったため、Visualise Fundraisingに依頼し、ビジュアライゼーションしたレポートを作成してもらったと言います。多くのデータは退会者だったものの、Red noseに最近寄付をした人や、長期にわたって寄付を続けている人のデータもあったとのこと。その寄付者データは、新しいCRMに無事にインポートされました。
本人が感じた苦労は筆舌に尽くし難いですが、日本の非営利団体でもよくあるケースなので、団体内にデータが貯まっていない場合の対応例には、日本とオーストラリアに大きな違いは無いと分かる事例だと思いました。また、データは単に持っているだけでは意味がなく、データを視覚化し、それを理解して戦略策定や意思決定ができるように活用することが大事であることを表している経験談であったとも感じました。
雑感
日本の非営利団体では、アニュアルレポートを作成したり、白書を発行する場合にインフォグラフィックを盛り込んでいる団体も増えてきています。データビジュアライゼーションを活用すると、自団体の活動の成果や取り組む社会課題の現状をより伝えやすくなるように私も感じていますので、多くの団体で取り入れてもらいたいと思いますし、日本国内の非営利活動でも使えるようなデータビジュアライゼーションのプラットフォームやサービスが出てくると良いなと思いました。
特に非営利活動は工夫を凝らさないと、対外的にやっていることの意義や取り組む社会課題の深刻さが伝わりづらいので、自団体のファンドレイジングに関わる部分を視覚化するだけでなく、団体のことや活動のことも視覚的に分かりやすく表現していく意識が高まっていってほしいとも感じています。
なお、FIA DATA WEEK 2024で他に参加したセッションの記事も公開してあるので、ご関心のある方は、ご一読ください。
最後に
記事をお読みいただき、ありがとうございました。
私は、海外のソーシャルセクターに関する有意義な事例や知見を日本のみなさんにシェアしていけるように日々活動しています。
インターネット検索等だけで得られる情報には情報の質と量に課題があり、ファンドレイザーをはじめ海外のソーシャルセクターの人達とつながるためにカンファレンス(約15~25万円の参加費)をはじめとする有料イベントに直接参加したり、なるべく正確かつ信頼性のある情報源から情報を得られるように有料のレポートや書籍を購入しながら知見を集めています。
「海外(のソーシャルセクター)」という切り口から日本のソーシャルセクターに引き続き貢献できればと思っていますので、よろしければ、下記の「チップを送る」ボタンでサポートいただけると幸いです。
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