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オーストラリアのチャリティショップ「OP Shop」は、どのように根付いているのか:市場全体から個人の利用実態まで

オーストラリアには、人々からの寄付品を販売するショップ「Opportunity shop(略して、OP shop)」があり、非営利団体などが重要な収益事業の一つとして運営をしています。

イギリスや北米でも同様の取組みはありますが、各国での名称の違いやどのような経緯でオーストラリアでOP shopが広まっていったのか、その歴史を簡単にまとめた記事もあわせて読んでみてください。

近年のオーストラリアでは、OP shopが非常に大きい経済効果をもたらしているデータもあり、サーキュラーエコノミーやエコビジネスをはじめとする環境配慮に関わる色々な取組みの普及やトレンドが影響して、オーストラリアの公共放送「ABC Australia」などのメディアでも取り上げられています。

OP shopを様々な角度からみていくことによって、オーストラリアにおいて寄付がいかに根付いているかを知り、日本のソーシャルセクターのみなさんが新たなアイディアを得る一助になれば幸いです。


OP shopの市場

世界各国の産業ごとにリサーチを行っているIBISWorldが出したOP shopのマーケットレポートをもとに、OP shopの市場をみていきたいと思います。なお、2023年1月に発行されたレポートなので、2022-23年度以降の数字はIBISWorldによる予測の数字となります。

OP shopの市場全体として、どれくらいの収益となっているのかは下記の通りです。パンデミックの影響があって一時的に下がっても、11億オーストラリアドル前後の収益を維持できている状況です。本記事執筆時点で1オーストラリアドルが93円なので、約1203億円前後の市場規模です。
2027-28年度まで世帯所得が上昇していく前提と環境意識が高まっているトレンドを踏まえて、右肩上がりの予測が立てられています。本記事執筆時の前月(2023年7月)に最低賃金の引き上げが行われ、オーストラリア政府は所得水準を横ばいにしておくような対応は当面しなさそうではあるので、これは妥当な予測と思います。

OP shop市場全体の収益:2013-14年度の実績~2027-28年度までの予測(IBISWorldのレポートより筆者作成)

下記は店舗数の推移ですが、2013年から2023年までで店舗数は減少傾向にありました。レポート内にその要因の具体的な記述はありませんでしたが、物価上昇や賃金上昇、ファストファッションやオンラインショッピングとの競合が関係しているような記述が見受けられました。
しかし、今後は環境配慮への意識の高まりによって、OP shopの店舗数も緩やかに右肩上がりになっていく予測がレポートでは書かれていました。

OP shopの店舗数:2013-14年度の実績~2027-28年度までの予測(IBISWorldのレポートより筆者作成)

下記は、OP shopを運営する事業者の数です。大きな変動はありませんが、赤十字や国際的なNGOなどの大規模な組織は売上を増やす商品戦略を取ったり、他の事業からの収益で補填することができる一方で、小規模のOP shopは徐々に廃業していくことになるとレポートで述べられていました。この傾向によって、店舗数は増加するものの、運営する事業者数は微減していく予測となっていました。

OP shopの運営法人数:2013-14年度の実績~2027-28年度までの予測(IBISWorldのレポートより筆者作成)

下記は、OP shopで生まれた雇用を表したグラフです。これは、OP shop運営に関わる有給スタッフの人数を指しているようです。主に非営利団体が運営するOP shopではボランティアスタッフがいて、正確な数字は出ていませんが、レポートによると33,000人以上のボランティアが運営を支えているとのことです。有給スタッフの約6倍のボランティアが運営に携わっているので、OP shopにとってボランティアは非常に重要な存在と言えます。

OP shopで生まれた雇用:2013-14年度の実績~2027-28年度までの予測(IBISWorldのレポートより筆者作成)

OP shopを運営する非営利団体

OP shopは、社会的企業が運営しているものもあれば、個人経営のものもあります。一方で、OP shopの歴史にも関連しているように、非営利団体が運営しているOP shopも依然として多いようです。
では、どのような非営利団体がOP shopを運営しているのか、私が実際に店舗まで行ってきたメルボルン市内にあるOP shopを運営する非営利団体をいくつか紹介していきます。

Sacred Heart Mission

1982年、メルボルン近郊のセントキルダで空腹状態のホームレスの男性に、地域の教区司祭が食事を提供したことをきっかけに組織化され、設立された非営利団体がSacred Heart Missionです。現在は、同地域におけるホームレスや高齢者、障がい者などに向けたコミュニティサービスを行っています。

同団体のアニュアルレポートによると、過去2年度の収益状況は下記の通りです。ちょうど各都市部ではロックダウンをしていた時期ですが、OP shopからの収益は2番目に大きな収益源となっています。具体的な金額としては、2021-22年度が12,534,887オーストラリアドル(約11億6574万円)、2020-21年度が12,605,779オーストラリアドル(約11億7234万円)となっており、非常に重要な収益源と言えますね。

2021-22年度の収益構造(Sacred Heart Missionアニュアルレポートより)
2020-21年度の収益構造(Sacred Heart Missionアニュアルレポートより)

ちなみに、Sacred Heart MissionのOP shopで特徴的なのは、オンラインOP shopもあること。上述のIBISWorldのレポートでは、オンラインショッピングとの競合について指摘されていましたが、OP shopのオンライン化は、時代の変化にうまく合わせた対応で興味深いです。

Epilepsy Foundation

Epilepsyは、日本語で「てんかん」の意味。Epilepsy Foundationは、てんかんを持つ人々の様々なサポートや情報発信、てんかんの理解促進や家族・教育現場などへの普及啓発プログラムをオーストラリア国内で行っている非営利団体です。

過去2年度分の同団体のアニュアルレポートを見たところ、2021-22年度のOP shopの収益が1,512,453オーストラリアドル(約1億4066万円)、2020-21年度のOP shopの収益が1,585,010オーストラリアドル(約1億4740万円)となっています。同団体の収益構造においては、COVID-19対策としての補助金を除いて、助成金と寄付に次いでOP shopは3番目の大きな収益源。

また、下記の写真は、実際に訪れた同団体のOP shopの店内です。綺麗に並べられている棚や椅子、植物なども寄付品であり販売品であることに驚き。フォーマルな場面で使えそうなジャケットも陳列されていて、大体が10~15オーストラリアドルくらい(約930~1400円)で販売されていました。

Epilepsy FoundationのOP shopの店内(筆者撮影)

ちなみに、Epilepsy Foundationでは、OP shopボランティアのプロモーション動画を公開しています。

Australia Red Cross

国際的な非営利団体もオーストラリアでOP shopを運営しています。代表的な団体として、オーストラリアの赤十字を取り上げます。赤十字のOP shopは、その知名度を活用する意図からかRed Cross Shopという独自の名称で運営されています。本記事の執筆時点(2023年8月時点)では、オーストラリア全土で181店舗があるとのこと。

オーストラリア各都市におけるRed Cross Shopの店舗数(Australian Red Cross ShopのHPより)

アニュアルレポートによると、過去2年度の収益状況は以下の通り。流石のRed Crossで、そもそもの総収益が莫大なのですが、Red Cross Shopの収益については、2020-21年度が30,304,000オーストラリアドル(約28億1827万円)だったものが、国内の各都市でのロックダウンの影響で1,344,000オーストラリアドル(約1億2499万円)まで下がったとレポート内で説明されていました。そのため、下記の円グラフも20-21年度にはOP shopは1つの項目で扱われていたのが、21-22年度は他のグッズ販売の収益などとひとまとめにされています。(ロックダウンの影響で減収しても1憶円以上だなんて…)

2021-22年度の収益構造(Australia Red Crossアニュアルレポートより)
2020-21年度の収益構造(Australia Red Crossアニュアルレポートより)

また、Australia Red Crossのアニュアルレポートで興味深かったのは環境への貢献度を数字およびグラフで示していた点です。環境配慮への意識が世界的に高まる中で、日本の非営利団体も環境への貢献度を数値化して公開するといったトレンドが近々出てくるかもしれません。

新しい寄付品とリサイクル品の割合(Australia Red Crossアニュアルレポートより)
自団体の活動における二酸化炭素排出量(Australia Red Crossアニュアルレポートより)

Savers

Red Crossのような国際的な非営利団体がオーストラリアでOP shopを運営していることもあれば、他国で生まれたCharity shopやThrift shop/storeもオーストラリアに展開しています。これまでに会ったメルボルン在住のオージー達が名前をよく挙げていたのが、アメリカ・サンフランシスコ発祥のThrift storeのSaversです。

メルボルン市内のMoorabbinにあるSavers(筆者撮影)

コーポレートサイトによると、オーストラリア国内にはビクトリア州と南オーストラリア州にあり、世界的にはアメリカ・カナダ・オーストラリアの3か国に展開しているようです。
下記の写真は、私が訪れたsaversの店内の様子です。最早、ホームセンターの規模感…もちろん陳列されている商品は全て人々からの寄付品です。

MoorabbinのSavers店内(筆者撮影)

人々にとってのOP shop

ここまでOP shopの市場全体と非営利団体が運営するOP shopの事例、前回記事ではOP shopの始まりをまとめてきました。
これらを調べたうえで気になるのは、OP shopで自分の物を寄付して、他者からの寄付品を買うという文化・習慣が、どれくらいオージー達に根付いているのかということ。これは学術研究ではありませんが、オーストラリアに根付く寄付文化や習慣の片鱗だけでも感じ取りたいと思い、知り合った9人のオージー達にOP shopの利用状況を聴いてみました。

得られた回答は、下記の通りです。
なお、立ち話や世間話をしている中で聴いており、正式なインタビューの時間を一人ひとりにいただいたわけではない点はお含みおきください。そのため、それぞれの回答の切り口が若干異なっているのと、属性にやや偏りがあります。対象者は、基本的に「数十年オーストラリアで生活していた人達」です。

オージーのOP shop利用状況(ヒアリングの回答をもとに筆者作成)

回答全体をみると、「家や部屋の掃除をして出た不要な衣類などを寄付した」「寄付先のOP shopは家の近く」「OP shopに関して、若い年齢層の方がショッピングの行き先として話すことが多く、年齢層が上がるほど不用品の寄付先として利用している」といった傾向があるように感じました。

属性に若干の偏りがあるとはいえ、全ての回答者がOP shopの存在とどういう場所なのかを認識している点から、「文化・習慣として根付いている」ことを何よりも再認識させられた感じがします。


翻って、オーストラリアくらいに寄付や非営利活動が日本に「根付いていく」には、何が必要なのでしょうか?

たとえば、単純にOP shopのモデルを取り入れようと思うのなら、今日ではサステナビリティや環境配慮への意識が高まっていることも後押しとなって、地域に根差して活動するコミュニティカフェやフリースペース等の非営利団体あたりで取組み事例が増えることが良いのかもしれません。

私は、今回のOP shopに関する色々なリサーチを通じて「どれだけ人々の日常の身近なところに存在して、人々に日々利用されているか」という要素を蔑ろにしてはいけないと、改めて感じました。

OP shopという取組み一つを見ても、一般の人々は「寄付者」「購入者」「ボランティア」という少なくとも3つの役割を、各々の状況やライフステージにもとづいて関われるようになっています。そして、一つのOP shopがその仕組みになっているわけではなく、全体的にそうなっています。

日本の現状を踏まえると、それぞれの非営利活動・公益活動が個々に頑張ってバラバラに動いていくよりも、「共通のビジョン・目標・認識」を持って、同じ活動分野や地域の他のプレイヤー達ときちんと連携し合わないと、今以上に根付いていくことが困難なように感じてしまいました。
日本においては、ネットワーク化したり、アライアンスを組む取組みが既にいくつかありますが、そのモデルやノウハウをより効果的に活かしていく時かもしれません。


最後に

記事をお読みいただき、ありがとうございました。
私は、海外のソーシャルセクターに関する有意義な事例や知見を日本のみなさんにシェアしていけるように日々活動しています。

インターネット検索等だけで得られる情報には情報の質と量に課題があり、ファンドレイザーをはじめ海外のソーシャルセクターの人達とつながるためにカンファレンス(約15~25万円の参加費)をはじめとする有料イベントに直接参加したり、なるべく正確かつ信頼性のある情報源から情報を得られるように有料のレポートや書籍を購入しながら知見を集めています。

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細貝 朋央/Tomohisa(Tomo) Hosogai
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