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アメリカから世界にまで広がる共同寄付の輪「Giving Circle」とは
2024年8月5日~7日にオーストラリア南部の都市アデレードで開催されたPhilanthropy Australia Conference 2024に参加しました。
本記事では、同カンファレンスのプレナリーセッション「The global growth of the collective giving movement: responding to key issues of our times」にて共有された、Philanthropy TogetherのCEOを務めるSara Lomelin氏が関わるエコシステムGiving Circleについて紹介します。
ちなみに、Philanthropy Australia Conferenceは毎年開催されるものではなく、二年に一度の頻度で開催しているPhilanthropy Australia主催のカンファレンスです。
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スピーカーのSara Lomelin氏がCEOを務めるPhilanthropy Togetherは、共同で行う寄付(Collective Giving)の運動を拡大していくことを目指すイニシアティブです。
共同寄付のムーブメント「Giving Circle」
Giving Circle(以下、ギビング・サークル)とは、仲間と共に資金を出し合い、地域の社会課題に取り組む共同寄付(Collective Giving)の運動であると言われています。
特に、個人が気軽に参加できる点が特徴で、初めての寄付を通じて「自分も社会を変えられる」という意識を持つきっかけになっています。
アメリカにおいても、慈善家(フィランソロピスト)は主に裕福で、主に白人で、主に男性であるというステレオタイプが存在するようで、このギビング・サークルを広げることで、それを払拭し、慈善活動は市民一人ひとりが参加できるものという意識を醸成しているとのこと。
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ギビング・サークル自体は、市民による自発的な取り組みとして、以前からアメリカ全土で認知されていましたが、2007年に初めて全国調査が行われ、各地で活動していることが確認されたそうです。
2016年には、ビル&メリンダ・ゲイツ財団とインディアナ大学Lilly Family School of Philanthropyのthe Women’s Philanthropy Instituteとthe Charles Stewart Mott Foundationによる支援のもと、公共政策やフィランソロピー分野の専門家による調査が行われました。
調査結果は興味深いもので、アメリカ全土で1,600以上のギビング・サークルが活動していることを特定し、50州全てで15万人以上を巻き込み、設立以来最大12億9,000万ドル(約1,948億円)を寄付していたギビング・サークルもあることを明らかにしました。
ギビング・サークルが拡大する中、ギビング・サークルのネットワークも同時に増加していき、2017年11月には、ギビング・サークル・ネットワークのリーダー50人が集まり、ギビング・サークルのインパクトをどのようにスケールさせ、強化させるかを議論したと言います。
2日間の議論を経て、啓発キャンペーンのようなプロモーションや年次集会の開催、ウェビナーの開催を超えて、共同寄付(Collective Giving)という分野が長期的に拡大し強化していくためのインフラが必要であるという結論が導き出され、そのインフラ組織としてPhilanthropy Togetherは設立されたそうです。
Lomelin氏によると、アメリカにおけるギビング・サークルの最新の調査では、ギビング・サークルの規模は過去6年間で2倍以上に成長しており、アメリカ国内には約4000のギビング・サークルが存在し、合計で約37万人が参加していて、寄付総額は31億ドル(約4681億円)に達していると報告されたとのこと。
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Giving Circleの特徴
ニューヨークを拠点とするユダヤ系ギビング・サークルのネットワークAmplifierによるギビング・サークルの定義が、Lomelin氏から紹介されました。
ギビング・サークルは、あなたの思考、才能、経済的な力を真剣に受け止め、寄付を「協働的で、社会的な体験」に変えるもので、思慮深く、意図的で、戦略的に行動する人々の、思いやりと寛容に満ちたコミュニティを創ります。
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ギビング・サークルの最大の特徴は、「お金以上の貢献ができること」だとLomelin氏は語ります。参加者は金銭的な寄付をするだけでなく、ボランティア活動、専門スキルの提供、情報発信による協力をすることができます。
ちなみに、これらは「フィランソロピーの5つのT」と呼ばれている概念にもとづくもの。
①Time(時間):ボランティア活動や労力の提供
②Talent(才能):スキルや専門知識を活かした支援
③Treasure(財産):金銭的な寄付
④Testimony(証言・発信):声を上げて、その非営利団体の活動を広める
⑤Tithe(定期的な寄付):収入の一部を定期的に寄付する教会や宗教団体に献金するキリスト教における伝統的な寄付方法。「十分の一献金」と日本語で呼ばれているもの。
そして、ギビング・サークルには4つの重要な要素があるとLomelin氏は言います。
1. Belonging(所属感)
共同の寄付活動であるギビング・サークルは、「自分がここにいていい」と感じられる仲間と一緒に活動できるグループであることが重要である。
2:Discourse(談話)
ギビング・サークルは、各々の考えを共有し、自分たちのビジョンについて語り合いながら、共通する価値観を見つけることで、対話の場を創り上げていく集まりである。
同じテーブルを囲むメンバーは、社会的な立場や経済レベルが違ったり、移民としてのルーツを持っていたりと異なるバックグラウンドを持っているかもしれないが、その場に参加する人達は、お互いの違いではなく、共通点に焦点を当てている。
3:Trust-based Giving(信頼をもとにした寄付)
ギビング・サークルは、どこにお金を寄付するのか、時間をどう使うのか、どんな専門スキルを提供できるのかを共に決めます。それを実行する際の根底にあるのは信頼(Trust)。
ギビング・サークルには、メンバー同士の信頼だけでなく、寄付先となる団体や地域のリーダーへの信頼も求められる。
なぜなら、寄付する側は必ずしも全ての状況を理解しているわけではなく、実際に地域のニーズを最もよく理解している寄付先団体やその地域の人々自身だから、信じて託すことが重要である。
4:Abundance Mindset(豊かさの精神)
ギビング・サークルはお金を超えた活動であり、支援先との関わりを多角的に深めていき、「豊かさの精神を持って行動すること(Act in Abundance)」が重要である。
また、このGiving Circleは、小規模の非営利団体にとっても重要な資金提供者となるケースも多いそうで、そういった活動の持続可能性を後押しする仕組みとしても機能しているとのこと。
どのようなGiving Circleがあるのか
では、実際のところ、ギビング・サークルには一体どのようなグループがあるのでしょう?
ここから、Lomelin氏のプレゼンの中で紹介されたをシェアしていきます。
・ラテン系の技術者に関する支援活動を行うLatinos in Tech Giving Circle
・アジア系女性のギビング・サークルAsian Women's Giving Circle
女性アーティストやAPI(アジア太平洋諸島系)アーティストを支援する団体に寄付している。
・黒人コミュニティを支援するBlack Giving Circle Fund
余談ですが、Philanthropy Togetherウェブサイトの検索ページで、日本に関連したGiving Circleを検索すると、SVP東京 とARUN が掲載されていました!(MURCは、説明文が一切ありませんでしたが、あのシンクタンクさんでしょうか…?)
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このギビング・サークルによる共同寄付の動きは、シンガポールや中国などの他国にも広がっているとのことで、市民参加を促すエコシステムをつくる取り組みと言えると思います。
寄付額の大小に関係なく、誰もが参加できることが、ギビング・サークルの最大の魅力であると語られていました。
日本でもよく言われる「何か社会のために貢献したいが、何をすればいいのかわからない」と感じている人達に対しても、ギビング・サークルは丁度良い第一歩目になりえるかもしれません。
最後に
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