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ダメになりそうな時に一番大事なこと。著書『弱者の戦術』 出版に寄せて

■はじめに

突然ですが、この度、初めての著書を出版することになりました。『弱者の戦術 会社存亡の危機を乗り越えるために組織のリーダーは何をしたか』というタイトルです。これは大災害時、大逆転の実録本です。

会社を創業して丸10年が経ちました。振り返ると多難の連続でした。とりわけ最大の試練は、そう、コロナ禍です。このコロナ禍が我々「おでかけ市場」(人が家の外にお出かけしてはじめて成立する市場の総称。飲食・旅行・イベント・交通・レジャーなど全般を指す)に与えた損害は計り知れず、今なお先行きの読みきれない状況にヤキモキしている市場関係者は多いはずです。

その渦中で会社を存続させ事業を継続するため、また、従業員の雇用を守るため、経営者として必死に行動してきました。それらのプロセスの一部を綴ったnoteのエントリーが反響を呼び、NHKのドキュメンタリー番組でも紹介されました。

その一連の流れの中で、ダイヤモンド社様より出版のお話を頂きました。コロナ禍でもがき苦しみながら、事業の継続と雇用の維持を成し遂げたことは事実です。しかし、まだまだ夢に描いた世界線で勝負が出来ている訳ではなく、ましてや上場を果たした訳でもない一企業の経営者の自分が、わざわざ本を出版する意味なんてあるのだろうか?と躊躇しました。

しかし、会社の仲間と共にピンチを乗り越えたその軌跡を、記憶が鮮明のうちに書き記しておくことは、誰かにとって意味があるのではと思い直し、このお話をお受けすることにしました。その本が12/1に販売開始となります。全国の書店では12/1以降で順次お目見えするとのことです。予約はamazonにて既に開始しています。星野リゾート代表の星野佳路さんに過分な帯のコメントを書いて頂きました。感無量です。

■ダメになりそうな時

頭の中に流れ続ける名曲は誰にでもあるはずです。それは季節や一緒にいる人、場所や景色などの過去の記憶と合わせて浮かんでくるもので、それぞれにあるかと思います。

負けない事
投げ出さない事
逃げ出さない事
信じ抜く事
ダメになりそうな時 それが一番大事

これはその昔、大ヒットした曲の歌詞の一部です(『それが大事』大事MANブラザーズバンド)。勝手な私調べですが、昭和30〜50年代生まれの人のこの曲の認知率は90%を超えるレベルで、一時代にお茶の間で流れ続けていた名曲です。コロナ禍で売上がほぼゼロになり、先行きが見えない状態は絶体絶命のピンチであり、まさに「ダメになりそうな時」でした。

この本では、私の過去の経験からくる価値観や、本のタイトルにもある通り、生き残りをかけたロジカルな戦術・施策も時系列や図表で克明に記してあります。ビジネスパーソンであれば実践的な経営の方針と戦術を作り上げ、実行するプロセスは多少なりともケーススタディとして参考になるかもしれません。加えてこの本では「ダメになりそうな時にどうすれば良いのか」という、危機的な状況においての一個人・一リーダーとしてのあり方やスタンスを赤裸々に記している本でもあります。実際の本文に記した文章を、『それが大事』歌詞になぞらえながら紹介しつつ、このエントリーを続けていきたいと思います。

■一番大事な事

 ・負けない事

まず最初にくるキーワードは「負けない事」です。辛い時には必ず弱い自分との葛藤があり、気持ちの面で負けそうになります。実際に私もそうでした。

 倒産が頭をよぎった時、僕は考えました。仮に会社を解散して自分が無一文になっても、自分ひとりなら生きていく自信はある。多分、なんとかなるだろう。

 だけど、それはアソビューに関わる人たちを裏切ることになるのではないか。従業員はもちろん、ステークホルダーの皆様、サービスを使ってもらっているゲストの皆様、レジャー施設の従業員の方々、期待を持って資金提供していくれている金融機関の皆様。みんなに顔向けができない。

 誰かの期待を裏切ることで生じる申し訳なさに、とうてい耐えられない。それは重くのしかかるプレッシャーではありましたが、その一方で自分を奮い立たせ、心を確かに保たせてくれる力でもありました。

 僕の経営者としての期待や希望、義務感や使命感が、折れそうになる負の感情に少しだけ勝ちました。希望や使命感が51パーセント、負の感情が49パーセント。僅差の勝利。これによって僕は心が折れずに会社を存続させる決意を固められたのです。【31〜32頁】

僕は過去に仲間と積み重ねてきた事業での成功体験や、自分が対峙している責任感に目を向けました。そして、そのポジティブな感情が負の感情より少しだけ上回り、折れそうになる気持ちに負けずに打ち勝ったのでした。

 ・投げ出さない事

わたしたちは会社の存続のため、門外漢である「感染症対策」という未知の分野に一縷の望みを賭け、向き合うことになります。それをテクノロジーを活用して顧客に対して最大価値を提供しようとしていました。未知の領域を最短で実行することは精神的には相当なストレスがかかることでした。

 アソビューが予約を受け付けている多種多少なレジャー施設に対応できるよう、岡田さんと何度も打ち合わせを重ね、かなり細かいマニュアルを策定しました。

 4月下旬に着手をはじめ、5月中旬には骨子を固められました。相当なスピードです。僕自身、今までまったく知らなかった疫学の膨大な知識を岡田さんとの連携の中で短期間でインプットしました。受験勉強以来…というより受験勉強でもこんなには頑張らなかったかもしれません 【133頁】
 通常であれば、このようなシステムの構築には半年から1年近くかかることがあります。事実、担当エンジニアの竹内の概算見積もりもそれに近しいものでした。しかしそんな呑気なことを今やっていたら、システムができる前に会社が潰れてしまう可能性がある。とにかくスピードが第一。かと言って開発部門に「不可能を可能にしろ!」と指示した訳ではありません。

 結局のところ開発は、スペックと納期のトレードオフです。時間を永遠にかけられればどこまででも作り込めますが、現実には納期が決まっているので、その限られた時間内にできる限りで完成度の高いものを作る。つまり、「どこまで作り込むか」と「いつまでにローンチするか」の調整なのです。

 納期が短ければその納期でできる限りの品質を見積もる。その判断がどれだけ早く、正確にできるかが鍵。社員とも打ち合わせを実施し、既存のシステムをできる限り流用することにしました。

 そして6月8日までに作るものは作る。作れないものはバージョン2以降のアップデートで対応する。

 ではその間はどう凌ぐのか?
 人力です(笑)。 【139〜140頁】

何から手を付けるかもわからなくなってしまうくらいの未知の分野の知識や納期でしたが、投げ出したくなる気持ちをぐっと抑え、頭を整理し、目の前のできることからひとつひとつ取り組むことで大逆転劇に繋げていきました。

 ・逃げ出さない事

一番逃げ出したかった現実的な問題として販管費削減の手段として避けては通れない「社員の解雇」がありました。この選択を考える時間が一番重く、足が竦みました。

 僕の不安が最高潮に達していた3月26日、小澤隆生さんから「備えは大丈夫ですか?」の連絡が来たことはお話ししましたね。

 その少し前から、僕の頭の中では「社員解雇」の文字が頭をよぎっていまいした。頼みの綱であるエクイティ・ファイナンスが駄目になったら、もう打つ手はない。認めたくないけど、認めなければならない事実が目の前にひしひしと迫っていました。ランニング、Netflix、料理でなんとか心をキープしていたのはこの時期です。【44頁】
 これを聞いた僕は、半数以上を解雇するのは避けられないと考え、頭では自分自身を納得させていました。もちろん誰にも言えません。まだ僕の中だけの話です。

 でもどうやって選べばいいのだろう。何を基準に? 今まで一緒に戦ってきた仲間を切る?【45頁】

究極の選択が迫ってきている状況でしたが、最終的にはこの選択から逃げずに向き合い、「絶対に雇用を守り抜く」という感情的な決断をした結果、起死回生のウルトラCのアイデアを見つけることができました。

 ・信じ抜く事

優劣はつけられませんが、個人的には信じ抜く事が最も重要だったかもしれません。これは言い換えると「希望を持つこと」だと思います。

 「このまま感染症が収まらなければ、お出かけという習慣そのものがこの世からなくなってしまうのではないか?」「お出かけという習慣がなくなるということは市場がなくなるということ。アソビューのビジネスはもう成立しないのではないか?」

 一部のキャピタリストがそう口にするほど、彼らも先行きが読めなかったのだと思います。
 …
 何より人類の「遊びたい」という欲求は、そう簡単になくなるものではありません。「遊ぶ」は人間の根源的欲求であり、その大きな手段のひとつにお出かけや旅行がある。これらがコロナ収束後に完全になくなるとはどうしても考えづらい。【20〜21頁】
アソビューという会社は世の中になくてはならない会社だと、僕は信じている。
我々のミッションは「生きるに、遊びを。」
「遊びを通じて幸福を実感する機会を増やす」というこの想いは創業以来変わってないし、これからも変わらない。
今は有事だが、この状況は必ず終わる。
終わった瞬間に、我々の作っているサービスを必要とする人たちがたくさんいる。
我々の創出する「遊びの機会」は必ず生活の基盤に戻ってくる。
むしろコロナ禍においては、「いつかまた遊べること」自体が希望となって皆の生活を支えていくはずだ。
だから我々はサービスを続けなければならない。【67〜68頁】
 望まない無駄な休日を撲滅する。それこそが、過去「エコノミックアニマル」と揶揄されてきた「遊び下手」な日本人にとって、あるいは日本社会にとっての超重要な課題です。
 
 経済成長が鈍化してきた中、日本は欧米諸国と同じく成熟国になりました。成熟国では、経済成長のためにがむしゃらに働くというライフスタイルは影を潜め、もっと個人個人が「人生の充実度」に価値を置く。思考が変わっていくはずです。【199頁】

人は未来に希望が持てれば、ギリギリのところで踏みとどまれる可能性が高まります。微かでも良いから信じ抜いて希望を持ち続けること。これが本当に大切でした。

■おわりに

この曲には大事な節があります。そう「涙見せてもいいよ、それを忘れなければ」です。それ、というのは上記の4項目のことです。

夜の代々木公園周辺を、僕はひたすら走り続けていました。
これ以上、会社のことを考え続けると、
心が壊れてしまいそうだったのです。
ひたすら走ることだけに集中して、頭を真っ白にしました。
そうでもしないと気持ちを保てなかった。
走り続けていると、
知らず知らずのうちに目から涙が溢れていました。【2頁】

かっこ悪いかもしれません。でも大切なのは「ダメにならないこと」。涙は見せても良いんです。それらを忘れなければ。

経営者のロジックと感情が奏でる経営危機回避のケーススタディ実録本。書籍の概要はこちらでご紹介しておきますので、ご興味お持ちいただいた方はぜひお手に取って一気にお読み頂ければ嬉しいです!

■書籍の概要
本書では、コロナ禍で直面した危機に対し、山野自身がどう向き合ったか、その施策面と精神面にフォーカスを当て時系列で記しています。

第1章では「未曾有の危機を前に、リーダーは何をしたか」を具体的な事象に対する行動とその心理面について振り返ります。

第2章の「「在籍出向」で社員の雇用を守り、会社も生き残る」では、社員を解雇せず、会社も存続させるために挑んだ「在籍出向」の仕組みについて、発案に至った経緯を記録してます。

第3章の「「社会のリーダー」として何ができるか」では、自社にとっての有益だけでなく社会全体を見渡す”大義”について触れています。

続く第4章から第5章ではコロナ禍で打ち出した数々の施策について振り返りV字回復の兆しが現れた瞬間について記しています。

第6章の「起業の原点と「点と点がつながる」瞬間」では、起業のきっかけとなった山野自身の原体験などについて触れています。

最終章の第7章の「平時が有事を左右する。危機のリーダーシップ」では平時と有事での在り方の違いの対比とともに、今後のアソビューの展望について記しています。

第1章:未曾有の危機を前に、リーダーは何をしたか
第2章:「在籍出向」で社員の雇用を守り、会社も生き残る
第3章:「社会のリーダー」として何ができるか
第4章:今あるもので今できることを何でもやる。泥臭くてもやる
第5章:起死回生の新規事業を最速でやり切る
第6章:起業の原点と「点と点がつながる」瞬間
第7章:平時が有事を左右する。危機のリーダーシップ

もし100冊まとめ買いをしてくださる珍しい企業様や団体様がいらっしゃいましたら、ご要望頂ければ無料にて講演を致します。以下にお問い合わせください。最後までお読み頂きありがとうございました!

アソビュー株式会社
広報:彦坂真依子
maiko.hikosaka@asoview.co.jp

公式プレスリリースはこちら

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