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スポーツクラブ経営の教科書。これを読めば全ての人がクラブ経営を理解できる。

初めに

初めまして北海道イエロースターズ代表取締役の三木智弘です。
僕は東京大学在学中で、22歳の時から4年間以上、V2リーグ所属の男子プロバレーボールチームを経営しております。

この記事は、僕が4年間で知名度1%以下のクラブを認知度16%、売上35倍に経営再生していく中で、体感として身につけたスポーツクラブ経営に関するノウハウを、スポーツクラブ経営に関わる全ての人、クラブスタッフ、選手、ファン、スポンサー、地域住民、行政の方々などに、地域のプロスポーツクラブがどういうものかを知っていただき、それぞれの立場から、より有意義にスポーツクラブと関わってもらう一助になればという想いで書いております。様々な方から意見をいただき少しずつ改訂していけますと幸いです。著者が気になる方はこちらのnoteをご覧ください。


◾️クラブ経営の構造

会社組織

近年では一般的にプロスポーツクラブと呼ばれる組織は、株式会社で運営していることが多いです。かつての日本のスポーツは企業が部活動としてチームを保有していることが多く福利厚生の一環でした。そこからプロ野球やJリーグなどプロリーグが立ち上がり、スポーツを会社で運営するという時代に移りました。しかし、現在でも企業チームやラグビー、バレーボール、地域野球などで根強く残っていたり、立ち上げて間もないクラブやプロ化していないクラブは税制面での優遇や行政からの支援の受けやすさがあるため、NPO法人や一般社団法人であることも多いです。

運営方針

よく言われるのが、「現場」と「フロント」という区別です。
一般的に、競技面の仕事を指して現場、ビジネス面の仕事を指してフロントということが多く、GM(ゼネラルマネージャー)というポジションがその間をつなぐ役割を果たしています。僕の経営するチームでは、ビジネスマネージャーがフロントの統括、ゼネラルマネージャーが現場の統括という形で役割を分担しています。

組織図

ちなみに僕が経営するプロバレーボールチームの組織図は以下の通り。

僕のチームではなく、一般的なスポーツチームの運営内容を簡単にまとめると以下のような業務があり、スポーツクラブ経営は、イベント運営事業、営業事業、小売事業、メディアリレーション事業、教育事業、芸能事業を全てまんべんなく実施する必要があります。


▼取締役会
取締役会ではチームの財務管理、コンプライアンス管理などのコーポレートガバナンスを強化しています。スポーツチームは一般の民間企業と異なり、公共性が高く信用が最も重要なため、未上場でも財務の開示や情報開示が求められどれだけパブリックに経営できるかが重要で、行政運営をしているような認識と公的な取締役陣が必要であると考えています。
僕のチームの場合はSOCIOという地域の各産業の盟主がコミュニティをつくり共同経営する体制をとっています。

▼強化部
選手、監督、コーチ、トレーナー、マネージャーが所属する。チームを強化し試合に勝つことを目的としています。
選手会は選手の意見を取りまとめてフロント側とのコミュニケーションを円滑にするために存在します。

▼営業部
主にスポンサー営業を行う場所。カスタマーサクセスも担っていることがほとんどでスポンサー企業のニーズをヒアリングして様々な提案をするスキルが求められ、一般的には年収600〜1000万円レンジの高度な営業に分類されます。しかし実態はその半分以下の年収で働いているケースがほとんどです。

▼広報部
広報は大きくSNSとメディアリレーションに分けられます。SNSはマルチメディアの連携とコンテンツの安定供給が重要。メディアリレーションは企画力と営業力、巻き込み力が全て必要なためかなり高度人材が必要。
営業を強化するよりも広報を強化するほうがはるかにチームの売上は伸びるというのは意外と知られていなかったりします。

▼マーケティング部
チームのファンクラブやチケットセールスといったtoC事業の分析、広告運用などを行っている部署。ある程度、規模が大きく数万人以上こ顧客を抱えてるチームになるまでは設置していないことがほとんどです。

▼ファンクラブ
会員サービスの設計から提供、顧客対応までを行う。地方クラブだとファンクラブ特典の配送業務も社内で行なっていることが多く人手不足が深刻。
マーケティング部の中にあることもあります。

▼グッズ
グッズは企画から販売、在庫管理まで物販だけで一つ会社を経営してもいいほど出来ることがあります。
小規模チームは在庫を抱えれないため商品数は多いが売上は小さくほぼ利益は出ません。レプリカユニフォームが最も大きな収入源でいかに同じ服を着て心を一つに戦う文化を創れるかが大きく結果を左右しますが、競技によって応援カルチャーは様々。バレーではサッカーのようにユニフォームを着て応援する文化が根付いていません。近年ではオシャレさを重視してスポーツ好き以外の人へのアプローチをするのがトレンドです。

▼ スクール
スポーツチームの収益の一つの大きな柱であり、集客、強化の源泉でもあります。地域の子どもたちへの競技機会の提供と将来のトップアスリート育成の二つの側面が。

▼ ホームゲーム
ホームゲームはチームの最大の収益源であり、これだけで会社が出来るようなイベント事業と同じである。興行運営、チケットセールス、スポンサーへのカスタマーサクセス、ファンクラブサービス提供、メディアリレーションなどスポーツチームの各部署仕事が有機的に関わるため運営難易度は非常に高いです。

▼ 総務部
各部署のバックオフィスを担当します。経理、労務、法人、個人両方の顧客対応と事務手続き、グッズ配送まで多岐にわたる事務が存在し、マルチタスクをこなせるバックオフィスが必要不可欠です。


上場して多角化して、この状態なら分かりますが、スポーツチームは知名度は高いので錯覚しがちですが、会社としては資本力のない零細企業です。零細企業は選択と集中が基本にも関わらず、これらをやらなければいけないというのがそもそもスポーツビジネスが難しいと言われる構造的な問題なのです。

◾️クラブ経営の難しさ

リーグが指定したルールに則る経営

クラブは一般企業とは異なり、リーグに加盟しているためリーグが定めたルールに則る必要があります。ルールの内容は多岐に渡り、クラブの人材やアリーナ建設、売上規模、そして年間のホームゲーム数やアウェイ試合数も定められています。そしてルールに則ることでそれに伴う固定費が発生します。この固定費がクラブ経営の特徴を大きく捉えるものです。

一般企業は人件費や家賃が主な固定費ですが、スポーツチームの場合には、一般企業では旅費交通費や会費、外注費にあたるリーグ奉納金、遠征費、そしてホームゲームの開催費用が実質的には固定費として挙げられます。これらが実質固定費となっている理由は、クラブ側で遠征費とホームゲーム費用は無くすことができないためです。イエロースターズの場合はV2リーグ会費と毎試合ごとにリーグに対して支払う費用として年間総額540万円。遠征費は年間約1300万円かかります。

そのため、たとえクラブが資金不足であっても減らすことが出来ない費用が固定費としてかかります。そしてホームゲームも知名度が低い最初の状態は売上が上がらないため、売上が上がらない部分に投資をしなければなりません。クラブはリーグのルールに則る必要があり、それに伴う固定費が会社が小さな時からかかることがクラブ経営の難しさです。

その結果として認知度が低く、集客力がないチームの初期は売上の大半がスポンサー企業依存になってしまいます。

また、エンタメや集客に先行投資する余力がないためその状態から抜け出すことが難しくなります。

この状態から抜け出す方法としては大きく2つです。
1つめは増資やオーナーチェンジにより巨大な資本力を手に入れ、エンターテイメントに投資して興行として黒字を成り立たせることです。
Bリーグの琉球ゴールデンキングスやVリーグの東京グレードベアーズなどがいい成功事例です。

もう一つはスポンサー企業に対して対価を直接的に出していくBtoBのビジネスモデルです。今回は後者のスポンサーシップのあり方について詳しく書いていきます。

◾️スポンサーシップの考え方

プロスポーツクラブは法人企業からの収入でクラブの収入の50%~80%を占めています。主にユニフォームやホームゲームの看板へのロゴ掲載といったマス広告であることが多く、企業は広告宣伝費として支払っています。
しかし、近年はスポンサーニーズが多様化して以下のような5つのパターンに別れてきています。

1 寄付型
社会貢献、CSRとして企業がチームに支払う。
企業のブランド価値の向上や採用イメージのUPなどの効果を期待しているケースも多い。

2 事業シナジー型
直接的に事業シナジーがあるためチームに支払います。
多くは遠征費で売上に繋がる、ホテルや航空機、バス会社など。またスポーツジムやプロテインといったスポーツ選手との相性が良く直接的に売上に繋がるような業種が多い。

3 コラボ型
チームのロゴや選手の肖像などを利用して自社のサービスに付加価値をつけることを目的に支払います。共同開発の商品などが多く、健康メーカーやターゲット属性がチームのファンと似ている業種が多いです。

4 マーケティング型
スポーツチームのファンに対するマーケティング(商品の販売促進)を目的に支払います。チームのファンからの売上だけでは費用対効果を出すのが難しく、テストマーケの場として使ったり、その先の層への拡大を模索する必要があります。

5 課題解決型
企業が抱えている課題をスポーツチームのアセットを使って解決しようという最近増えてきたモデル。チームは採用や行政連携、認知度アップといったそれぞれの課題を解決することを目的に支払います。チーム側にコンサル的能力が求められるため、単価は高いが件数を増やすことが難しいです。
実際、これら5つ全てのニーズにクラブが応えていくことは非常に難しいです。なぜならスポンサー企業の複雑なニーズに応えるには戦略コンサルティングが出来るような優秀な人材を沢山必要とし、現実的ではないからです。

一方でスポーツチームにしかないビジネス的な強みももちろんあります。

◾️スポーツチーム経営のビジネス的な強み

1) 公共性を活かした経営

スポーツクラブの強みは公共性です。クラブは行政、医療、教育、メディア、民間企業全てのトップとフラットに繋がることができ、その上で民間企業(株式会社)として活動することができます。そしてクラブ経営を支えるクラブオーナーは実質日本には200人しかいないレアな立場です。海外では国王や大富豪のステータスにもなっており、公益財団法人を持っていることと同じくらいの社会的信用力を誇っています。

2) チームの認知度やメディア露出度の高さ

通常、一般企業の認知度は1%以下と言われ、優良企業であると7%程度の認知度を持っていると言われています。しかし、スポーツクラブは公共性の高さから一般企業と比較すると認知度は高い傾向にあります。例えば、イエロースターズの場合は4年間で知名度1%以下のクラブの認知度が16%となっています。かつスポーツチームということでテレビや新聞に取り上げていただけるため、チームの認知度やメディア露出度の高さが強みです。

3) 共創が生まれる

クラブが持つ公共性の高さや認知度を活かして、新たに生まれるクラブの強みは共創が生まれることです。クラブはスポーツに興じる場を提供するだけに留まらず、産業のハブとなって共創を推進する存在として重要な役割を持ちます。現在はスポーツビジネスのトレンドとして、企業がクラブのオーナーとなり、その地域にスタジアムやアリーナを建設し、街づくりを進めるといった取り組みが注目を集めています

ここまでスポーツチーム経営の難しさや強みについて述べてきましたが、スポーツチームはどのような状態になれば経営として正常に回していくことができるのでしょうか?次の章では最低限達成すべき理想のクラブの状態をお話ししていきます。

◾️プロスポーツクラブの理想状態

スポーツクラブが目指す5つの理想条件

まず何を差し置いても、ガバナンス(経営基盤)強化による地域からの信頼獲得。これが全てです。目先の業務が忙しすぎたり、強さを追い求める外的圧力に屈することなく経営基盤を整えることこそが何よりも先にやるべきことです。

「信頼獲得」これがスポーツチームが応援される価値の源泉であり、経営の全てです。

これは北海道イエロースターズ4年間で知名度1%以下のクラブから認知度20%、売上35倍に経営再生していく中で、体感としてスポーツクラブが目指すべき5つの理想条件です。経営者はこれをどのように満たしていく必要があるかを考える必要があります。

1.初期投資資金 (単年の販管費の2倍の現金)
経営なので当たり前ですが人材とコンテンツへの投資をすることができるだけの現預金の確保は必要です。資金がジリ貧だと顧客からいただいたお金を強化費や遠征費といった現場の必要経費で全て使い切ってしまい、顧客サービスが疎かになり資金が続かなくなってしまいます。固定費が多いスポーツチーム経営を少ない資金で開始することがスポンサー企業依存状態を作ってしまう大きな原因です。エンタメコンテンツや人材にしっかりと投資する初期投資資金を作ることが経営の大前提になります


2.認知度最低20% (5人に1人知ってる)
家族など身の回りの誰かが知っているということがチームの実際の認知度以上に重要です。営業ではなく、先に広報に投資することで、営業をした時に、周りから応援したい人気チームと思ってもらえる状態を作ることが先決です。応援していることが身の回りの人から見て「称賛できる、イケている」という状況が作れれば応援の熱量が波及していきます。


3.優秀な人材 (年収1000万水準の能力の社員が2人以上)
そんな人材いるわけないと思うかもしれませんが、民間企業で必要な人材はスポーツ業界では特に不足しています。。むしろ公共性が高く、マルチタスクが多いスポーツチームにおいては一般企業よりも優秀な人材が必要であり、とりわけtoCとtoBに対して少なくとも一人任せられる人間を配置することが成長には不可欠です。。


4.チームの強さ(リーグにおいて上位争いができる)
負けることの重みが大きい状況(負けることで優勝が遠のく状況)を作ることで、チームの勝敗を関係者が強く意識するようになります。優勝できなかったとしても一喜一憂出来ることが非日常の楽しさや当事者意識を生み出します。優勝は勝負事なので時の運ですが、優勝争いをしているということがそれ以上に重要です。そしてチームが強くなることでメディアにも取り上げられ、チームの認知度や集客力が向上しクラブの売上UPにも繋がります。

5.クリエイティブのクオリティ
かっこよさや感動を販売する無形商材であるスポーツクラブにとってクリエイティブは商品価値そのものです。クリエイティブは営業する以上に、効率的な売上向上の施策です。メディアや大企業と対等にコラボすることができたり、グッズの幅が広がったり、見た目の印象でチームの社会性が天と地ほど分かれるためクリエイティブへの投資は必須であります。

◾️スポーツクラブのビジネスモデル

では前章の理想状態を達成するためにどのようにしてスポーツクラブはビジネスを構築していけばいいのでしょうか。一般的にプロスポーツクラブのビジネスモデルは主に5つに分類されます。

1.スター選手モデル
一人の圧倒的な人気選手を加入、育成することで認知度を最初に取りにいくモデルで認知度UP→売上UPの流れを作る。圧倒的に資金力のある大企業がチームを持った場合に出来る離業なので一般的な再現性はあまり高くないです。


2.法人営業強化モデル
対法人に対する草の根の営業活動によって初期資金を支援してもらい数年かけて恩返しをしていくモデル。創業者が営業上がりなどで、法人営業が得意な場合に取ることが出来るモデル。ほとんどの地方プロスポーツクラブはこのモデルになっている。


3.チーム強化モデル
チームを強化して、勝利を重ねることでメディアから注目を浴び認知度を高めるモデル。スポーツが好きな人たちで始める場合に多いモデルで、成り立ちが強豪校や指導者が優秀な場合に取ることが出来ます。


4.エンタメ強化モデル
選手への投資よりも顧客が楽しんでくれるエンタメ性への投資を優先し、弱くてもまずはしっかり事業基盤を作るというモデル。ビジネス感度が高いチームに多く、興行に集客をすることでCからもBからも売上を作っていけますが、クリエイティブに長けた人材をアサインすることが難しい。
近年はこの傾向が強く、勝敗に左右されない基盤づくりを目指していますが初期投資コストが高いためハードルは高い。

5.増資EXITモデル
売上ではなく出資を受けることによって最初の投資資金を確保するモデル。
上場を目指さないスポーツチームに取っては投資家を探すのが難しいが、きちんとした出口戦略があれば最も効率よくイニシャルコストを確保できエンタメなどに投資して成功サイクルを構築できます。ただし出資を受けるだけのチームの魅力的な見せ方やファイナンスの専門知識が必要になるため実施は容易ではありません。

スポーツチームの売上構成などは以下のサイトがとても参考になるので詳しい数字が気になる方は是非こちらをご覧ください。

新たな地域コミュニティモデル「SOCIO」

クラブ経営にはこれまで前章で述べたようなビジネスモデルがありました。そこでスポーツチームの公共性、共創を生み出す力を活用することでスポーツチームが地域コミュニティのハブになるようなモデルの可能性があります。

そのようなコミュニティマーケティングを重視してクラブ経営を強化させる新しいモデルが『SOCIO』です。チームを主軸に企業と共創経営を行い、経済の活性化を目指す。クラブ経営において『SOCIO』は深く結びついた大きな存在であり、経営再生の重要な柱でもあります。クラブオーナーは実質日本には200人しかいないレアな立場。

海外では国王や大富豪のステータスにもなっており、公益財団法人を持っていることと同じくらいの社会的信用力を誇っています。

◾️これからのクラブ経営

クラブオーナーは経済力の証

それゆえ、その時代を象徴する企業がクラブチームのオーナーを務めてきました。

▼スポーツチーム創世期
新聞社、鉄道会社、電力会社

▼スポーツチーム発展期
自動車、製造業、メディア

▼スポーツチーム成熟期
IT企業、ゲーム、スタートアップ

▼スポーツチーム転換期
地域??

スポーツクラブの上場

スポーツチームは業務範囲も多岐に渡り、公共性も高いため上場した方がいいのではと思う人も多いと思います。実際僕も全てのクラブが上場した方が、良い世の中になると思っているがここにはいくつかハードルがあります。

勝敗という不確定要素に売上が左右されること。
上場するということは、事業計画通りに事業を進めること。つまり再現性と継続性が求められる。
スポーツの勝敗と真逆のことが求められ、勝敗によって売上が何億も左右されてしまうような会社は株主に損をさせてしまう可能性が高く上場審査を通ることが難しいです。

既得権益が強いこと。
先に述べたように、スポーチームのオーナーというのは非常にレアであり、その立場を守りたい人がいることは容易に想像できると思います。
そのため、上場してしまいパブリックカンパニーになってしまうことで優越感が薄れたり、自分の思い通りにクラブ経営が出来ないことへの抵抗で上場を目指せないというケースもあります。

のれん価値(無形資産)の評価が難しいこと。
鹿島アントラーズをメルカリが15億円が買収。このニュースを見て高いと思うか、安いと思うか。これが凄く難しい。
中小企業で考えた場合、全国でこれだけ認知度や企業ロイヤリティがあるというのは他の業種だとまずあり得ません。しかし認知度やブランド価値というのは売上、利益へ直結しないため株式市場で評価をすることが難しいのです。

では上場は出来ないのでしょうか?
答えはNOです。

海外ではプレミアリーグ(英国のサッカーリーグ)のマンチェスターユナイテッドなどが上場し5000億という時価総額をつけており、
日本でも琉球アスティーダというTリーグのチームが東京プロマーケットに上場しています。

◾️僕の考え

冒頭にも述べましたが、クラブ経営の課題は、事業が多岐にわたる中で1人のオーナーに依存してガバナンスが弱いことです。

まずは一般的な民間企業が当たり前にやっている、当たりのことを当たり前にやろう。まだスポーツビジネスの実態はそのフェーズなのです。

バックオフィスをしっかりする、会計を開示する、営業組織を作る、人事評価をする、カスタマーサクセス意識を持つなど他の民間企業の良いところをどんどん取り入れていくだけで売上は2倍以上にはなるポテンシャルがまだまだあります。

機動力を持った行政へ

行政、医療、教育、メディア、民間企業全てのトップとフラットに繋がることができるのがスポーツクラブです。

その上で民間企業(株式会社)として活動することができます。

もらう側から与える側へ

これまでのスポーツチームは地元企業から寄付に近い形でお金をもらいながら生き延びてきました。

しかし、本来の企業体として、中小企業としてスポーツチームを見た時にもらうだけでその役割を果たしているでしょうか?

地元の認知度が90%を超え、メディアに毎週取り上げられ、行政とも密に連携している企業が赤字でいいのでしょうか?

本来であれば、その知名度、ブランド価値(信用)を元に他の企業に出資をしたり、リソースを提供して企業成長に貢献し、その見返りとしてスポンサーしてもらうというのが健全な役割だと思います。

優秀な人材を集積させるべき

スポーツチームほど、1000万、2000万という給与を払って全国から優秀な人材を集積させるべきだと考えます。

現場でチームを強くすることが得意な人間とフロントで売上を上げ、地域の企業を成長させることが得意な人間は明確にスキルセットが異なります。
それどころか育ってきたバックグラウンドが違いすぎて、仕事における当たり前が根本的に違うのです。

現状のスポーツ業界を見てみると、外資系金融、コンサル出身の社長が増えてきており、凄くいい流れなのですが、社長だけが優秀というチームがほとんどです。

どれだけ優秀なトップがいても一人の人間であげられる売上は1億くらいである。スポーツチームは上場企業レベルのガバナンスと組織力が求められるため、1000万プレイヤーが何人も必要なのです。

ではどうすれば優秀な人材が集まるのか?

経済的に魅力ある企業成長を

一般企業なら当たり前ですが、増収、増益を目指すという姿勢を持つことです。

ところが今のスポーツクラブの実態はこうだと思います。
1. スポーツクラブはある程度成長すると毎年売上が横ばいになる。
2. 10年働いても給与が上がらない。
3. 働くインセンティブが低い。
4. 優秀な人材が他の業界へ流れてしまう。

優秀な人材が一般的にどんな企業に就職したいか?

常に成長し続け、社会的地位があり、働きがいがあり、給与が高い出世できる企業です。

スポーツクラブは社会的地位は高く、仕事が世の中に認められやすいという意味で働きがいはあります。この時点でめちゃくちゃアドバンテージがあるのです。

だからこそ、経営者は数字に強く、増収増益を明確に目指すべきであり、強化費だけでなく人件費に投資すべきだと思っています。そのために資金が足りないのであれば、エゴは捨てて資本を受け入れるべきと思います。

今回はスポーツクラブの経営と一般企業経営の違いについてご説明させていただきました。この記事を通して改めてクラブ経営を深くご理解いただき、それぞれの役割がクラブ経営にどのような影響をもたらすのか、今はどんな役割が重要であるのかを知る機会となれば幸いです。

最後に僕自身は、スポーツチームを地域の経営者で共同経営する仕組み「SOCIO」を企画運営しております。ご興味のある方は以下のサイトを見ていただけたら嬉しいです。
↓↓



おまけ

最後におまけとしてクラブの収入と支出の詳細について書いておきますので気になる方はご参照ください。

◾️スポーツクラブの収入構造

チケット販売とその実態


チケットの販売は資金力があって莫大な広告が打てる、あるいは知名度の高い人や組織が関与している以外は、ウルトラCはないというのが実態で、最初は地道な手売りから始めて、口コミやリピート顧客を倍々に増やしていくというのが一般的です。

ステップ1
全てのスポーツチームが最初から集客はできない。そのため、選手やチームスタッフ総出で手売りで直接チケットを販売するというのが最初のステップです。

ステップ2
次に課題となるのがリピートしてもらうこと、他の人を誘ってきてもらうことです。ここに関してはコンテンツ力やホスピタリティが求められるためお金と人手不足でステップ1から抜け出すことが非常に難しいです。

グッズ収入

グッズ収入はチームの人気が高く、ファンの人口が多い成熟期のクラブほど主力の売上項目になってきます。多いクラブでは25%近くをグッズ収入が占めることもあります。スポーツチームが主に作るグッズは以下のようなものである。

  • レプリカユニフォーム

  • Tシャツなどのその他アパレル

  • 選手個別のグッズ

    • キーホルダー

    • ブロマイド

    • サイン入りグッズ

  • 応援タオル

  • タンブラーなどの日用品

販売対象
1.ファン
選手個別グッズなど選手にフォーカスした商品や毎年デザインが変わる定番商品へのニーズが高く、グッズ収入の基盤を作っています。

2.スポンサー企業
スポンサー企業にはレプリカユニフォームなどを無料でスポンサー特典として提供するものも多いのでスポンサーの原価として一定数はみておく必要があります。一方で、従業員の方に購入してもらうなど収入UPへの工夫が必要です。

3.一般層
そのスポーツチームのファンではない、周辺層にも購入してもらうにはアパレルとしてのオシャレさやカッコよさなどスポーツブランドとしての価値を高めていく必要があります。他ジャンルとのコラボをするなどして裾野を広げていく施策が必要。

スクール収入

スクール収入は僕自身の経験値がほとんどないため。今後追記していきます。どなたか呼んだ方が教えてもらえたら嬉しいです!

スクール事業とトップチームの運営とが分離してしまい、うまく相互集客に繋げられていないことが多いという課題や場所の確保の難しさ、送迎ハードルなど様々なハードルがあり、言うは易し、行うは難しの最たる例だと思います。

教育マーケットは大きく、子供たちの心を掴むことで親御さんたちの集客に繋げるという好循環を作れるためスポーツチームが力をいれるべき重要事業。

ファンクラブ収入


ファンクラブは応援してくださるファンの方々とのコミュニケーションの場であり、クラブによって様々な特典を提供している。そのためアイデア力があって、顧客心理に寄り添えるホスピタリティの高いスタッフが必要です。

放映権収入

スポーツビジネスにおいて切っても切れない収入が放映権収入。試合という一番のコンテンツを収入に変えていくことはクラブ経営の根幹にあります。

海外のスポーツクラブと日本のスポーツクラブの収入の一番の差は放映権収入であり数百億から数兆円の差があります。

日本ではDAZNがJリーグの放映権を買ったり、ソフトバンクがBリーグの放映権を買ったことでリーグ全体が潤い、全てのチームが余剰資金による投資で産業全体として成長してきました。まさに放映権を買ってもらえるかがそのスポーツの明暗を分けるといっても過言ではありません。

実際にファン人口や競技人口ではサッカー、バスケに引けを取らないバレーボールのVリーグは放映権の買い手がいないことで産業全体で数百億円の差をサッカーやバスケにつけられているというのが実態です。

◾️支出構造

スポーツチームのPL(損益計算書)は一般的な企業の分類だと特徴を捉えられないため以下のようになっていることが多いです。簡単にいうと一般企業と会計処理が違うということです。

原価

スポンサー代理店報酬
スポンサーは主にチームスタッフ全員で営業を行なっていることが多いですが、地元の広告代理店を活用したり、大きなクラブの場合電通や博報堂といった大手企業の社員が出向して一手に営業を引き受けているケースも多いです。

代理店の相場は幅広く10%〜50%となっており、チームと代理店のパワーバランスによって決まっている印象です。

僕の所感ですが最低でも30%は代理店に払わないと、ビジネスとしてまともに成立しないと思いますが結構なクラブが10~15%といった設定をしてビジネスが分かる人から相手にされないという状況になっています。

一つの案件で見た時に例えば3000万円のスポンサーの手数料で900万円取られるのは大きく見えてしまいますが、長期的に相互発展していくのであればお互いが稼げないと持続可能性がないのでスポーツチームはお金をもらうというスタンスから、チームを使って周りに稼いでもらうという発想を持つことが必要かと思います。

グッズ原価
グッズに関しては大きく2種類あります。
一つは選手やチームスタッフが使用するウェア代。そしてもう一つが販売用の商品です。

チームの知名度が低いうちは作っても売れないので赤字になってしまうことも多く、在庫管理や発送業務といった事務作業が膨大に増えてしまうためクラブ経営の悩みの種です。

少しでもファンがいるので作りたい気持ちで作ってしまうと、原価以上に人件費を圧迫してしまうのでしっかりと販売計画を立てた上でコミット出来る状態でやるべきだと思います。

販売管理費

スポーツチームの販管費は、一般的な企業とはことなり、支出目的に合わせて特殊な仕分けをして実態を把握するようにしています。

トップチーム運営費

  • 選手年俸(人件費/業務委託費)

  • 監督、コーチ、トレーナー、栄養士、ドクターなど(人件費/業務委託費)

  • 練習場費用(その他販管費)

遠征費

  • 航空機代(旅費交通費)

  • 宿泊代(旅費交通費)

  • その他移動費(バス代、電車代、タクシー代)(旅費交通費)

  • 補食など(雑費)

ホームゲーム運営費

  • 会場設営、運営費(外注費)

  • 演出費(外注費)

  • 会場使用料(その他販管費)

  • 当日のスタッフ(外注費)

    • 協会スタッフ(審判など)

    • 運営補助スタッフ

    • ドクター

  • 備品など(雑費)

スクール運営費

  • 指導者(人件費/業務委託費)

  • 会場使用料(その他販管費)

  • 遠征費(旅費交通費)

一般販売管理費

  • 地代家賃

  • フロントスタッフ

    • 役員報酬(人件費)

    • 各部署人員(人件費/業務委託費)

  • 広告宣伝費

    • クリエイティブ制作(ポスター、映像など)

    • SNS運営

    • webマーケ

  • 専門家費用

    • 税理士、弁護士、社労士など

  • 会議費、交際接待費

  • 雑費

資本政策

スポーツチームは未上場企業が99%で、株式会社でないことも多いので資本政策はかなりブラックボックスですが、最も重要な要素です。

株主構成

よくあるスポーツチームの株主構成は以下です。

・1社が51%以上を保有し、子会社化している

・地方自治体が株を持っている

・地場で持株会社を作っている

・大口スポンサー企業が株主も兼任している

・株式投資型クラウドファンディング

・上場している


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