Web3最重要概念「MVD(Minimum Viable Decentralization)」とは
こんにちは、Techtecというブロックチェーン会社をやっている田上と申します。Web3やクリプトという言葉が急速に広まってきていることを実感しています。
僕はこれまでにチームラボでメチャカリというアプリを立ち上げたり、リクルートでSUUMOというサービスを運営してきました。
これらのいわゆるWeb2プロダクトを、ブロックチェーンを使ったWeb3プロダクトへとそのまま昇華させることは非常に難しいのではないかと思います。もちろん、そのプロダクトがWeb2とWeb3のどちらに適しているかという議論は前提としてありますが、Web3にはWeb2には無い概念が存在します。
その中で最も重要なのが「分散性」です。分散性は、イーサリアム上にデプロイしてガバナンストークン発行して投票機能つけてDAO化すればOK、という単純なものではありません。
クリプト界隈はこの分散性を実現するのに何年も苦労してきました。現時点で理想的な分散性を実現できているのは、ビットコイン、イーサリアム、そして強いて言えばMakerDAOの3つではないでしょうか。
今回は、Web3最重要概念である「分散性」を実現するための「MVD」という考え方について紹介しようと思います。Twitterでもぜひ議論しましょう。
MVPとは
MVP(Minimum Viable Product)について知らない人はいないと思いますのでコピペで済ませます。リーンスタートアップの提唱者であるEric Ries氏が生み出した概念です。
Eric Riesさんによると、MVPとは以下のことをいうみたいです。
MVDとは
MVD(Minimum Viable Decentralization)は「必要最小限の分散化」を意味する概念です。考え方はMVPと同じく、いきなり完全な分散化を目指すのではなく、必要最小限に分散化をとどめてまずはユーザーに使ってもらおうというものになります。
僕の知る限り、MVDの概念を2018年頃から提唱してきたのはJohn Backus氏やErik Torenberg氏、brianbehlendorf氏、Andrew Keys氏などです。当時から、分散化によるUXの低下が問題視され、Web3プロダクトの難しさが指摘されてきました。
彼らが言うには、MVDの定義は以下の通りです。
いきなり完全に分散化してしまうとUXが低下します。また、トラブルが起きた時にユーザーをサポートすることもできません。開発者観点でも、一度フルオンチェーンでデプロイしてしまうとデバッグが難しく、スマートコントラクトの再定義による別バージョンとしてデプロイし直す必要があります。
MVDの提唱者の一人であるJohn Backus氏は、MVDを説明する際に “Keep it Centralized, Stupid.” と語っています。彼は、「いきなりトークンは必要か?」「その仕組みは今必要か?」と訴えたかったのでしょう。
分散化とのトレードオフ
繰り返しになりますが、Web3プロダクトで最も重要なのは分散性です(だと思っています)。個人的に、分散性を犠牲にしてスケーラビリティを高めているL1チェーンなどはWeb3プロダクトとは言えないと思います。
分散性とスケーラビリティを秤にかけるとしたらこんな感じです。
なぜ分散化が重要なのかについては、Chris Dixon氏のブログを読んでみてください。
一方で、分散性を犠牲にしている状態が一時的なものなのか、今後も変わらないのかについては確認が必要です。
MVDの考え方の元では、「今は分散性を犠牲にしてるけど将来的には分散化するよ」という認識が定着しています(この「将来的」というのがいつなのかも重要です)。
例えば、イーサリアムに対抗するために分散性を犠牲にしたL1チェーン・サイドチェーンが続々と出てきています。代表例は、Binance Smart Chain、Solana、Polygon、Polkadotあたりでしょうか。
僕はイーサリアム以外のチェーンに詳しくないので詳細な仕組みはわかりませんが、これらはいずれも分散性を犠牲(ノード数が限定的だったりDPoSだったり)にしてスケーラビリティを高めていると認識しています。
先述の通り、重要なのは分散性を犠牲にしているのが一時的なものなのか、今後も変わらないかです。近い将来にイーサリアムと同程度の分散性が実現されるのであれば、現時点で分散化されていないことは全く問題ではありません。それがMVDの考え方だからです。
イーサリアムのMVD
個人的に、MVDの概念を最も体現しているのがイーサリアムだと思っています。イーサリアムは、2014年に開発がスタートした時点で将来的なハードフォークが計画されていました。
フロンティア:2015年7月30日
ホームステッド:2016年7月30日
メトロポリス:2017年10月と2019年2月
セレニティ:2020年12月~
これらのハードフォークは非常に集権化された状態で行われます。予め決められていたアップデートとはいえ、ほとんどイーサリアム財団によってコントロールされた状態で開発が進められ、イーサリアムにはガバナンストークンなどの仕組みもありません。
予め計画されていたハードフォークは、現在のイーサリアム2.0(セレニティ)が最後です。その後にハードフォークが必要になった場合は、コミュニティによって是非が決められます。イーサリアムは、MVDの考え方の元に最初から必要最小限の分散化を行ってきたのです。
イーサリアム推しみたいな内容になりましたが、分散化の観点ではイーサリアムが優れているというだけです。スケーラビリティの観点では現時点でイーサリアムは本当に使い物にならず、何がワールドコンピュータやねん。
最後に
弊社の運営するPoLも、MVDの考え方をベースに開発してきました。
現時点でPoLは全く分散化されていません。トークンはオフチェーン発行でありプロダクトはOSSですらありません。現時点でWeb3プロダクトとは全く言えないでしょう。
その代わり、UXを高めることで多くのトークンホルダーを獲得することに成功しました。今後PoLトークンをオンチェーンにデプロイした場合、一気に数万人のトークンホルダーが誕生することになります。
PoLの開発がスタートした2018年時点では、Web3プロダクトにユーザーが付いてこれるとは思いませんでした。イーサリアムのスケーラビリティもそこまで問題視されておらず、(今も変わりませんが)ウォレットはメタマスク一択であり、いかに秘密鍵の管理を簡単にするかだけが論点だった時代です。
しかし今は違います。ユーザーの知識レベルは明らかに上がり、秘密鍵の紛失はだいぶ無くなったと思います。ここからは、新たなWeb3プロダクトがMVDを前提に誕生し、既にあるWeb3プロダクトは分散化に向けて開発が進められていくことになります。(このムーブメントにどれだけ喰らいついていけるか、、!)
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