適度な”脱力”
今回は、剣道の競技力を高める上で必要な”脱力”について考えていきたいと思います。
剣道の指導の場面ではよく ”力み” について説明されることがあります。みなさんも1度や2度稽古の際「力が入っているぞ!」などと先生から注意を受けた経験はありませんか?
”力み”とは
”力み”とは、からだに力を入れること、また、力が入ること(goo辞書より)とされていますが、実際の稽古の場面などでは主に”無駄な力が入ってしまっている”という捉え方をしている人が多いと思います。
特に、剣道は非日常的な複雑な動作を必要とする競技性ですので、初心者の人が初めて剣道の動作に挑戦した際には必ずと言っていいほど力みが生じます。
例えば、初心者が力んでしまうポイントとして、以下のような例が挙げられます
・ 竹刀を握る時に左右の手を力一杯握る(だんご握り)
・ 振り上げ、振り下ろしの時に肩から手首までが1本の棒のようになっている(竹刀の先が弧を描くような振りになる)
・ 足さばきを行う時に左右の膝が伸びきってしまっている(ロボットのようなカクカクした動きになる)
・ 踏み込んだ後、スムーズに足が運べない(打った後、左足を引きづるような動きになる)
剣道の経験者であれば、何となくイメージできるでしょうか?
これらは、初心者の例をもとに力むポイントを示したものです。例えば、竹刀を握る時には人差し指と親指の部分を少し脱力することで、手のひらの中に”遊び”の部分が生まれ、その遊びの部分でテコの作用が働くことで竹刀の先の動きが鋭くなり打ちに冴えが生まれます。
振り上げから振り下ろす時には、肘も適度に脱力することで肩→肘→手首の順で振り下ろすことができ、肩から手首までが1本の棒のようになっていた状態の振り下ろしに比べ竹刀の動く距離が短くなります。竹刀の動く距離が短くなるということは上記の握りのポイントと同様に冴えのある打突へと繋がります。
足さばきの場面では、膝を適度に脱力する(軽く膝を曲げるイメージ)ことで、前後左右の動作を行なった際に生じる上半身のブレ(バランスの崩れ)を少なくするクッションのような働きをすることができます。この、クッションのような働きをたくさんできる足の使い方を「スムーズな足さばき」と私は捉えています。
また、剣道を長年続けている経験者でも、”力み”が生じる場面は多々みられます。
経験を積んだ人が力んでしまう原因としては精神的なものが多いように感じます。例えば、思い入れのある相手(ライバルや格上など)と立ち合った時に攻められて全身に力が入り身体が固まってしまって打たれたという経験をしたことのある人は少なくないと思います。
これが、力むことにより生まれる”居つき”です。また、技を出す際に心のどこかに迷いがあれば最高の状態の技を出すことができません。
このように、経験の度合いや稽古の成果によって”力み”にも違いがありますが、意識的に力んでしまう場合も、無意識のうちになってしまう力みのどちらの場合にも共通して言えることは”力を抜く”ことで改善できる可能性があるということです。
動作の中でずっと力が入ってしまっているということは、筋肉が収縮した状態で動いているということなので動きも制限されてしまいますし、体力の消耗も早くなってしまいます。
ではどのように適度に脱力すれば良いのでしょうか。
剣道では、よく「へそに力を入れなさい」というような指導を耳にすることがあります。これは丹田に力を入れる事を意味します。
この、丹田に力を入れることで、腕や足などの力は適度に脱力されます。
それに加えて、自分の動作を動画などで客観的に観察し、どの動作に力みが生じているか、またどのよう場面で力みが生じているかをイメージすることができれば、形から改善に努めることができます。
その時に注意していただきたいのは、”適度に”脱力するということです。脱力をし過ぎてしまえば、これまで出来ていた動作の感覚が鈍ってしまう可能性があります。あくまで、適度に脱力するということは、力みによる動作へのブレーキを減少させることが目的です。
身体を動かす時、竹刀を振る時には身体の筋力が必要です。そしてその筋力は高い程、素早い動作や鋭い打ちに繋げることができます。しかし、素早い動作や鋭い打ちを目指すが余り”力が入り過ぎてしまう”ということが往々にして起きてしまいます。これが力みによるブレーキです。
適度な脱力を身につけるということは、本来の自分の持つ力に制限をかけていた”力み”というブレーキを取り除くことです。
身体に力が入ってしまってスムーズな動作ができないという人や、稽古の中で力みによる居つきなどが起こってしまうという人は、ぜひご自分の動作を客観視し、適度に脱力する事を意識していただきたいと思います。
剣道の場面だけでなく、日常の生活の中でも【力を抜いた方が良い場面】はたくさんあります。
私も、剣道だけでなく生活の中で時には自分を客観視し、適度に脱力していく事を忘れずに生活していきたいと思います。
それではまた次回!
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