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風の旅人 第48号(テーマ:死の力)で紹介する池谷友秀さんの写真。
人間が生きていく上で、呼吸は必要条件であるが、人間は、地上では、呼吸していることを忘れる。呼吸していることを忘れているように、生きていることの価値や意義も、忘れている。生と死の狭間に立った時、人間は、それまでほとんど忘却していた大切なことを思いだす。臨終の際まで行かないと思い出せず、思い出した瞬間、生を終えるということもある。死を知らずして、生を知ることもない。生きていながら死を知る術は、人間にとって奥義と言える。
近年、海外でも注目をあびはじめた写真家、池谷友秀さんは、BREATHというテーマで、水中という人間が地上にくらべて遥かに不自由になる生死の際で、自らも酸素ボンベも持たずに水の中に潜って、人間の極限的な姿を撮るということを続けている。モデルの人達は、だいたい30秒から一分くらいの潜水だが、池谷さんが水中にいる時間は2分にもなり、その間、モデルの人達と一緒に泳いだりしながら、自らも呼吸の苦しさと闘って撮影している。
身体に障害を持っている人達も、自ら進んで、この水中写真のモデルになってくれた。
生と死のはざまに立つことで、人間は、生の有り難みや、迫り来る死の力に抗って生きようとする生の力を、より強く実感できる。それは誰しも、人生において一度や二度の経験があることだが、単調に繰り返される退屈な日々や、世知辛い世間の常識に染まってしまい、忘却してしまう。
池谷さんは、生と死のはざまの境地を、水中という場を活用することで象徴的に取り出して、それを写真に定着させた。これらの写真を見ることによって、自分の記憶の中に眠らせている生の力を思い出すことができるかもしれない。
佐伯剛
風の旅人 第48号は、現在、ホームページでお申し込みを受け付けています。
http://www.kazetabi.jp/
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生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く
死に死に死に死んで死の終りに冥し (空海『秘蔵宝鑰』)
まもなく発行される風の旅人の第48号(2014年6月1日発行)のテーマ、「死の力〜来し方、行く末 Memento mori」の根底に流れているのは、空海のこの言葉である。
生まれ生きていくことは、辛く悲しいことが多い。そして、必ず死ぬことが定められている。
次々と生まれてきても、全て死んでいく命。それでもまた生まれる命。
死ぬことが定められていて、生きていることが苦痛であるならば、何故、生まれてくるのか?
いくら死んでも、どんなに辛く悲しくても、次々と生まれてくる。
無限に生まれ、全てが死ぬ。そしてまた生まれる。それが永久に繰り返される。
生は死を孕み、死は生を孕んでいる。その、ギリギリのせめぎ合いに、命の本質がある。
そういうことを誌面を通じて浮かび上がらせることができればと願って、この半年、取り組んできた。
この究極のテーマについて、うまくいっているかどうかわからない。しかし、一度は必ず取り組まなければならないテーマでもある。
誰しも、本棚には様々な本が並んでいるだろうけれど、一冊くらい、こういう本があってもいいんじゃないかと思う。
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