プリンス:ニュー・パワー・ジェネレーションの誕生 その5

割引あり

11.去る美女来る美女

 ジル・ジョーンズのセカンド・アルバム、ザ・タイムの『Corporate World』の楽曲作りの最中の89年7月。エリック・リーズとプリンスは88年12月に作ったマッドハウスのアルバム『24』を捨て、新たなプロジェクトを開始することにした。ただし『24』での音楽素材の一部を再利用することも考慮された。プリンスはエリックにぺイズリー・パーク内の音源貯蔵庫ヴォルトに入るための鍵を与え、彼に自由にアルバムに使えそうな楽曲を探すよう求めた。またプリンスが予め選んでいた検討する価値のあるトラックが収録されたテープもエリックに授けている。そのテープにはザ・タイムの「My Summertime Thang」[『Corporate World』、『Pandemonium』収録。後述]、「Pickle」[88年6月9日ペイズリー・パーク録音。プリンスがボブ・ジョージ声とホーン・フレーズの指示のための鼻歌入りのリズミカルで軽快なインスト「Pickle」#1(3:33)がリークしている]、「You're All I Want」[『1999 Super Deluxe Edition』に収録]、「You Should Be Mine」[82年3月カイオワ・トレイルの自宅スタジオ録音。未リーク]、「Wet Dream Cousin」[82年後半カイオワ・トレイルの自宅スタジオ録音。83年のヴァニティ6のセカンド・アルバムに収録される予定だった未完成曲。チープなシンセ主体のインスト「Wet Dream Cousin」#1(5:06)が存在]、「Vibrator」[83年5月カイオワ・トレイルの自宅スタジオ録音。ヴァニティが抜けたことでリリース出来なかったセカンド・アルバム収録予定だった。ヴァニティらのヴォーカルが入った完成している楽曲「Vibrator」#1(7:09)とヴァニティ、プリンス、ジルの会話#2(1:06)が存在。既にマッドハウスの「7」、「The Dopamine Rush Suits」で、「Vibrator」で聴けるヴァニティの喘ぎ声をサンプリングで使用していた]、「The Max」[88年2月18日、19日ペイズリー・パーク、エリックとアトランタ・ブリスが参加して既に完成していたと思われる。『Love Symbol』収録の同名曲とは異なる未リーク曲だが後にカルメン・エレクトラの未発表曲「Carmen On Top」#1(3:42)にホーンのリフが使われた]、「XYZ」[88年11月4日と5日サンセット・サウンド録音。87年9月22日、そして10月の映画『Graffiti Bridge』の脚本草稿に登場、プリンスがマドンナにルーシー・ワシントンという役で歌ってもらおうとしていた曲。未リーク。]が入っていた。このプロジェクトは89年8月に開始され、89年9月にアルバム『26』としてそのコンフィグレーションが完成する[後述]。
 これは筆者の推測だが、『24』に収録されていた「The Dopamine Rush Suite」#1(18:36)の「22(Amsterdam)」がアンナ・ガルシア名義でクレジットされていることが『24』を捨てた理由ではないか。この組曲は編集され、アンナのオランダ語、アポロニアのスペイン語、ヴァニティの喘ぎ声を削除[実はヴァニティだけ少し入っているのだがクレジットはない。フランス語を担当したマチルダ・メイのみクレジットされている]して(7:40)のヴォーカルがないエディット・ヴァージョンとなって『26』の「23」として、そしてエリック・リーズのファースト・アルバム『Times Squared』では「The Dopamine Rush」となって収録された。ヴァニティ、アポロニアはプリンスの元ガールフレンド、そしてアンナもまたそうなるのだが、もしかすると89年8月から9月頃にアンナに対するプリンスの愛が失われた、そのサインではないだろうか。尚プリンスのヴォーカルにディレイがかかっているヴァージョン「The Dopamine Rush」#1(2:08)がある[組曲Suiteと呼ぶには短すぎるので「The Dopamine Rush」という別の曲扱いでのオルタネイト・ヴァージョンとした]。

 89年7月19日にミネアポリスに訪れたキャンディ・ダルファーによる、プリンスがリリースしている曲としての最初のレコーディングが「Partyman」のリミックスであったとは前述した。そして二人の女性シンガー、ヤナ・アンダーソンとエリサ・フィオリロにとっては、プリンスとのガチに公式、非公式を含めて最初のレコーディングとなっている。

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