プリンスのニューアルバム『Welcome 2 America』を聴いて その5

プリンスのニューアルバム『Welcome 2 America』が到着して聴いてからのレビューを連載する。今回は5回目。

到着前に憶測レビューしたのはこちら(一部加筆訂正済)。

https://note.com/tomohasegawa/n/n6cebb33dfea0

Born 2 Dieのレビューはこちら。

https://note.com/tomohasegawa/n/nfae311749749

プリンスのニューアルバム『Welcome 2 America』を聴いて その1

https://note.com/tomohasegawa/n/n96facb6a5dc0

プリンスのニューアルバム『Welcome 2 America』を聴いて その2

https://note.com/tomohasegawa/n/n57705e9eb9e2

プリンスのニューアルバム『Welcome 2 America』を聴いて その3

https://note.com/tomohasegawa/n/n392ca4b547e9

プリンスのニューアルバム『Welcome 2 America』を聴いて その4

https://note.com/tomohasegawa/n/n834f996abc72

Check The Record (3:28)

2010年3月10日ペイズリーパークで、クリス・コールマンがドラム、タル・ウィルケンフェルドがベース、そしてプリンスがギターとキーボード等でレコーディングし、『Welcome 2 America』セッション、その初期に行われたとprincevaultにある。またprincevaultではキーボード、パーカッション、ドラム・マシーンはモーリス・ヘイズとしているが、それは2010年の春のモーリスのコ・プロデュースの際に加えられたわけで、3月10日のセッションに彼はいない。そして同様3月から4月にバック・コーラスを加えているのも3月10日のトリオ・セッションの後となる。

跳ねるクリスのドラミングから、よしみんな行くぞ、とばかりにプリンスのカウントでいよいよ曲が始まる。プリンスの地響きにも似た轟くギターのリフも野太く存在感たっぷりだが、やはりここはフリーキー且つグルービーに唸るタルのベースだろう。アルバム『Welcome 2 America』にはダンサンブルな曲が少ないが、これならロック好き、ファンク好きの両方を満足させるトラックとなっている。3月10日のセッションは(プリンスは一切歌わなかったとあるため)完全なインストだったわけだが、「Check The Record」(タイトル記載は「The Record」となっていた)の二つのヴァ―ジョン「(Track 1 Take 2)」と「(Track 2 Take 1)」は恐らくトリオで繰り広げたカッコいいオルタネイト演奏が入っているのだろう。後入れとなるプリンスのヴォーカルは「Dreamer」のようにやや喋り口調で、同様後入れのシェルビーらのコーラスもソリッド、結果ロックなジミヘンを思わせもする。しかしここはどうしても何度も書かせてもらいたいのだが、タルのベースがとにかく自由に暴れ回りファンク度の方が高くなっててイイのだ。とにかくタルがイイ。大好きだ。このことを踏まえて歌詞を見てみよう。The Recordとは何だろう?元始からのすべての事象、想念、感情が記録されているという世界記憶の概念アカシック・レコードのことか?

“さて記録をチェックしてみようか、なんて言っているんだろ。君のガールフレンドはどうやら僕のベッドにいた様子。でも最初彼女から僕に電話してきたんだぜ、待ち合わせとかしてないし。ドラマみたいだろ?さあ君はどうするつもり?”

なんて強気なんだろう。他人の彼女と寝た様子なのに、その彼氏に、ドラマみたいだろ?だから何?とドヤ顔で言ってのけているのだから。でもある意味納得は出来る。僕をプリンスとして、君をリスナーとする。リスナーの彼女がプリンスのベッドに寝ていたと。彼女の方からプリンスへ連絡してきてペイズリーパークに潜入出来て、そしてプリンスの生活が記録されているThe Recordを調べてみたら、ほらその証拠があったよ、と。プリンスが凄いんだから仕方ないじゃないか、ということだ。リスナーからすれば、プリンスと寝たんだ、すげえな俺の彼女、と思っているのかもしれない。

“彼女は僕に伝えようとした、僕も君に話そうとしたよ、心配していた通り、君は彼女が去って寂しかったよね、それは彼女も分かっている、でも彼女、怖がっているんだよ”。

どうやら彼女は僕(プリンス)の所へ逃げ込んだ様子。そして僕(プリンス)は君(リスナー)を諭そうとしている。

“君は間違った方向に導いているのかもしれないよ。いくら彼女がまだ若いからって、彼女も自由が欲しいんだよ、走り回りたいんだ”。

君(リスナー)は彼女より歳が上のようだ。40、50歳もしかしたら60歳くらいの君(リスナー)が20代の彼女がいたんだけど逃げられた、そんな感じなのかもしれない。

“僕らは彼女を色々な場所へ連れて行ったよ、新顔に彼女は会えたんだ、クワイアの彼女がね。彼女はもう危ないこともしているよ、彼女は君のママにはならない。

僕(プリンス)が仲間と一緒に彼女を色々な場所(ツアー?スタジオ?)に連れて行ったりして、刺激的な人(ミュージシャン)達と出会えた。そして彼女はコーラスしていた様子。ママにならない、とあるから君(リスナー)は甘えん坊なのか?

“もし彼女が君と一緒にいるのなら、ドラマのようだよ、君はどうしたいの?それで彼女が幸せになる?それって間違ったことじゃないかな?シェリルだって言ってたよね、「私が今まで経験した最も好きなミステイクかもしれないわ」”。

“それで彼女が幸せになる?それって間違ったことじゃないかな?”の部分はIf it makes her happy, can it be that bad?の訳である。そしてなぜかここで突然登場したシェリルという女性、一体誰だろう?そしてそのシェリルが言っているのは“それが最も私が好きなミステイク”であると。シェリルはつまりシェリル・クロウである。「If It Make You Happy」、「My Favorite Mistake」というヒット曲があるが、「If It Make You Happy」のサビの歌詞はIf it makes you happy, it can't be that bad“それであなたが幸せになるのなら、間違いじゃないはずだわ”である。また「My Favorite Mistake」の歌詞の内容は、こんな感じだ。“朝6時に帰ってきた浮気している彼氏。そしてまた素知らぬ顔をしてどこかへ(会社?)出かける。その出かけた時こそが私達のお付き合いの完璧な終焉を意味する。でも私にはそれが始まりとなるの。あなたは私の大好きな過ちなの”。私が好きだった人が犯した過ち、というより、元カレがした過ちで自分は自由になれた、だから素敵な過ち、ありがとう、という意味になろう。つまり君(リスナー)と彼女は別れ、そして僕(プリンス)の所に来てハッピー、っていうことなのではないか。

長谷川が持つシェリル・クロウのイメージって、今井美樹や竹内まりやだったりする。自分もミュージシャンだけど名曲を作ったり、凄い演奏をする人が好きという。さて、この「Check The Record」の彼女は一体誰なのか?“シェリルも言っているけど”とあなた(リスナー)に向けてプリンスは言っているのだから、彼女はシェリル・クロウではない。長谷川は、凄いベース・プレイを魅せる超ヤングなタル・ウイルケンフェルドが彼女、なのかなと思った。そして元カレであるあなたは誰になる?まあジェフ・ベックかハービー・ハンコック辺りとなるのかも。そしてThe Recordとは、プリンスの今まで作ってきた音楽、ライブ、お付き合い、つまりプリンスの歴史その全て、ということではないかと。

「Check The Record」は13年1月18日、ミネアポリスのダコタ・ジャズ・クラブ/レストランで一度だけ披露されている。その時の面子はプリンスがギター、ハンナ・フォードがドラム、イーダ―・ニールセンがベース、そしてドナ・グランティスがギター、つまりサード・アイ・ガールズとプリンスによるものだ。トリオではないが、トリオをバックにしてはいる。さてそのライブ・ヴァ―ジョンはカウントでは始まらず、前の曲「Bambi」から継続して、プリンスのcheck it!の叫びと共に雪崩れ込む。尚歌詞がスタジオ・ヴァージョンとは大きく異なる。“僕の頭の中でどれだけのことが起こるか、上手く行くように翻訳するよ。君の方はどうかな?向き合ってよ、自分ともさ、誰か踊ってるな”とそこでベースが嘶くようにファンキーなフレーズで反応する。そしてプリンスは“雨よ降るなら降れ、もし君が僕のブラザーになるのなら”そしてイーダ!とプリンスが叫ぶと、超ファンキーなスラップ・ベースが花火のように飛び出す。続いてプリンスのギターがそれを宥めるかのように被さってくる。サード・アイ・ガールズとプリンスのバンド・アンサンブルが素晴らしい演奏となっているのだが、特にベースがフィーチャー、ここでもやはりカッコいいことになっている。

「Check The Record」はベーシスト、タルへの歌なのか。実は違うかもしれない。The Story Of Welcome 2 Americaのポッドキャストで、シェルビーが「Welcome 2 America」の次にかけるとしたらどの曲?と訊かれて、「Same Page, Different Book」が一番好きだけど、「1000 Light Years From Here」、もしくは「Check The Record」はどうかしら、と答えているのだ。まあ場の流れから「Check The Record」推ししている感じなのだが、もしかすると「Check The Record」は私のことを歌っている歌なのよ、と仄めかしているのかもしれない。歌詞にクワイヤ出身とあったから、シェルビーだと確かに考えられるでしょ。そして彼氏は、一緒にバックシンガーとしてツアーを回っていたディアンジェロとか。でも若いのだろうかシェルビーは、と思ったが、実は調べたのだけど、シェルビーは何歳なのか不明だった。誕生日は9月10日なのだけど。尚シェリル・クロウは、マイケル・ジャクソンの初来日時コーラスを担当し「I Just Can't Stop Loving You」をデュエットしていた。

彼女がタルでもシェルビーでも、もしくは全く違う別の女性で、最後にこれだけは言っておかなければならない。“君の彼女が僕のベッドに居たって?僕はそう思わない、チェックしてみなよ、さあさあ”。曲の最後の方で僕(プリンス)は彼女と寝てないよ、と否定している。

その6に続く

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