大学進学率は高い方がよいのか?:国際比較データと各国の教育制度からの考察
「日本の大学進学率はOECD諸国に比べて低い!上げなくては!」というトーンの主張をみかけることがあります。
でも、それは違うと私は思っています。
下図は、文部科学省が出しているOECD諸国の大学進学率のデータです。(2010年)
これを見ると、日本の大学進学率は50%程度で、諸外国に比べると低いように読めます。
もうひとつデータを示します。これも文部科学省が出している資料で、18歳人口の進学率推移です。
OECD統計の「大学」には含まれない専門学校等を含めると、8割超が高校卒業後に進学していることがわかります。
また、大学進学率も先ほどの51%(2010年)→54%(2020年)と上昇傾向にあります。
ここから示唆されるのは、日本の大学進学制度はもともと米国型ではなくドイツ型に近いということです。
米国(大学進学率74%)は、「高等教育は大学でのみ行い、希望者に広く門戸を開く」という考え方です。
入学審査はさほど厳しくない代わりに、大学入学後に徹底的に勉強させます。だから卒業は容易ではありません。
ドイツ(大学進学率42%)は、「大学は適性がある人間だけが行けばよい」という考え方です。生徒を早い段階で職業訓練コースと大学進学コースに分けて教育します。
日本の場合、「大学で学術的な勉強するより技能を磨いた方がよい」と考える人の受け皿が専門学校です。
かつて大学は一部の人だけが行くところでした。しかし、どんどん大学が増設され、少子化と相まって大学全入時代に突入した結果、「誰でも大学に行ける」状態になりました。
それなのに、日本の大学の卒業率は9割と諸外国より圧倒的に高いままです。
米国型かドイツ型かのどちらがよいかは、価値観の問題です。
米国型の「大学で学べる機会を多くの人に与える」というのも素晴らしいし、ドイツ型の「各人の適性に合わせて進学先を振り分けることで、社会全体のリソースを効率的に使う」というのも理に適っています。
ただ、日本の場合はそのどちらでもなく、中途半端な状態に陥っているようです。
そのせいで、大学卒業(学士号)の価値そのものを落としてしまっていると思うのです。
先ほどの退学率のデータを見てください。
日本の大学卒業率は9割で、OECDの平均値は7割です。
米国は広く受け入れる代わりに、半数が卒業できません。
適性がある学生を選んで入学させているドイツでも8割です。
これが「日本の学生は優秀だから」と言うことならよいかもしれませんが、ちょっとそうは思えません。
以下は、ベネッセが調査した大学生の学習時間です。
日本の大学生は、平均的に1日1時間も自習しません。
高校3年生と中学3年生に大きな山があり、受験が重視されている様子が伝わってきます。
大学生になった瞬間に受験戦争から解放されて、遊びに精を出すのは日本ではごく当たり前のことだと思います。(自分もそうでした。)
でも、「小学4年生よりも勉強時間が少ない」のはさすがに驚きました。
入ろうと思えば入れる、勉強しなくても卒業できるでは、大学卒業生の質が下がるのは当然です。
名目の「大学進学率」を上げたところで、「学位だけ持っている人」を量産するだけではないでしょうか?
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