自転車とお父さんと小さな男の子の話
母の日の出来事。
夫と一緒に自転車で近所のスーパーへ買い物に行った。
スーパーに行く途中、細い歩道を通らなくてはならない。
その歩道沿いには小さなお花屋さんがある。
いつもはあまりお客さんがいないお店。
その日は母の日ということもあってか、店の前に自転車が停まっていて、小さな男の子とお父さんらしき人がいるのが見えた。
細い歩道に無造作に停めた自転車と親子。
通れない。
「すみません」
声をかけると、お父さんは道を空けてくれた。
私はちょっとムッとしていた。
「なんでこんな細い歩道に、自転車を無造作に停めるんだ」と。
花屋の隣りにあるスーパーにちょっと手間取りながら自転車を停め、夫にこう言った。
「なんであんな自転車の停め方するんだろうか。ほんと邪魔だよね」
そう言ってからハッとした。
目の前にはお花屋さんにいたはずの親子がいたから。
めちゃめちゃ気まずかった。
きっと聞こえたはず。
あの距離だもの、聞こえたに違いない。
お父さん、絶対いい気はしていない。
ああ、やってしまった。
平静を装いつつ、心臓がドキドキしたまま買い物をした。
家に帰ってから夫に言った。
「あのお父さんに私の文句聞こえてたよね。あんな風に言わなくても良かったよね。反省だわ...」
「別に反省しなくてもいいんじゃない。邪魔なもんは邪魔だもん。」
そう言った後、夫は続けた。
「でもあのお父さん、自転車をちゃんと停める前に子どもが花屋の方に行ってしまったのかもしれないね。だから自転車をあんな風にしか停められなかったのかも。」
それを聞いて、すごくいたたまれない気持ちになった。
私はあの場だけを見てイラッとした。
そしてその勢いでスーパーの駐輪場でお父さんの文句を言った。
しかもお父さんが近くにいることに気づきもせず。
お父さんはイヤな気持ちにならなかっただろうか。
子どもに対して、お前のせいでとか思わなかっただろうか。
夫の言葉の後、むーんとして考えてしまった。
自分がやっちまったことに対して落ち込んだ。
心の中で「お父さん、ごめんね」とつぶやいた。
なんで私はあんなにイラッとしてしまったのか。
その日は疲れていたというのが大きいと思う。
身体が疲れていると心に余裕がもてない。
余裕がないと、いつもは普通に対処できることができなくなってしまう。
心の中で「ほんとにもう!」って思ったとしても、あんなにイヤな感じで文句を言うこともなかっただろう。
今回はお父さんから何も言われなかった。
けれど、お父さんがすごく腹を立てたとしたら言い返されていたかもしれない。
そこでケンカになったかもしれない。
そう思った時、ハッとした。
世の中の争い事って、実はこういう些細なことが始まりかもしれないって。
母の日の自転車とお父さんと小さな男の子のお話。
私の中にちょっぴり痛く刻まれた出来事。
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