なぜ僕が、ふくしま駅伝に魅せられているのか。⑤
「いいじゃないですか。よろしくお願いします。」そう答えてくれた高久先生の顔は笑っていた。退部を伝えたバスケ部の顧問は言葉少なく許可をしてくれた。
高久先生に出会っていなかったら今の僕はない。陸上の大会に誘ってくれて以降、よく声をかけてくれて、いつも気にかけてくれていた。それが嬉しかった。
それからはとにかく走り、地味な筋トレとキツいサーキットトレーニング、全身が動かなくなるほどのインターバルを繰り返した。走ることは好きだから辛くても辞めたいとは思わなかった。その理由の一つとして、土井川くんという絶対的なエースがいたからだ。彼は頭脳明晰で強く、速かった。
はじめて臨んだ中学校駅伝大会は周囲の期待を裏切り、地区大会で敗れた。他の部活から借り出された選手の中にはバスケ部の先輩や、普段はサッカー部でボンタンと短ランを纏っているヤンチャな双子の先輩が選ばれていた。普段の練習では僕より速かったのに本番では大垂れした。緊張していたらしい。ヤンキーでも緊張するんだな、なんて口が裂けても言えなかったから、心の中でつぶやいた。
あっけなく地区大会で終わり、3年生は引退。県大会に駒を進めた女子チームについていき、県大会を経験した。
「土井ちゃん、来年は県に行こう。」
女子のタイム計測をしながらキャプテンになった土井川くんにそう伝えた。
彼は5教科のテストで498点を叩き出すくらい頭が良くて、先生も嫉妬していた。でもガリ勉ではなくて、どことなくおしゃれで話しも合った。そして何より陸上が好きだった。練習方法や世界大会の情報まで、分からないことはなんでも答えてくれた。それまで部内に彼の熱量に合う人間がいなかったのだと思う。僕はその思いに応えたかった。
次の年、3年生になって迎えた中学校駅伝大会地区大会は優勝。エースが走る1区は土井川くん、アンカーは僕だった。
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