Radiohead随想
友人と、レディオヘッドの話をしていたら、ベストアルバムの選曲および曲順を検討する事になった。
選曲については両名一致を得たので、お互いそれぞれ曲順を考えようという事になり、私は昨晩2時間ほど考えて、寝た。
目を覚まして、昨晩考えた曲順に並べられたプレイリストを聴いてみた時の感想が、以下の文章である。
なお、No Surprisesは入る場所が無く、入れなかった。
ベストアルバムの曲順は以下の通り。
1.ハウスオブカーズ
2.キッドA
3.イディオテック
4.デイドリーミング
5.フェイクプラスティックトゥリーズ
6.トゥルーラブウェイツ
7.スキャッターブレイン
8.ピラミッドソング
9.エアーバッグ
10.モーションピクチャサウンドトラック
11.エブリシングインイッツライトプレイス
以下、感想。
ハウスオブカーズは極楽の音楽である。もっと個人的な、具体的な言い方をするなら、よく知らない巨大な駅で浴びる夕方の日差しのような、快適な音楽である。
レディオヘッドは社会の現実を、その暗部を、歌っていると、いつの頃からか、音楽誌やAmazonレビューで評されているようだが、また、そういう曲もいくつもあるとは思うが、私の好きなレディオヘッドの姿は、こういう異様な心地良さをかもし出す音楽家という姿である。
ハウスオブカーズは上の方を、それこそ虹を、ぼーっと眺めるような音楽だが、次のキッドAで、聴き手の目線は急激に地表へ、足元へ下がってくる。
キッドAは寒さを感じる。ハウスオブカーズの日差しの感じとは真逆である。
昨日歌詞を見ながら聴いていたら、さいごのほうで、
私は子どもたちとねずみたちを町の外へ連れていく
と歌っている。ハーメルンの笛吹き男である。ゾッとする。
氷のような、灰色の、ドッドツしたリズムの曲であるが、メロディは後でスッと思い出せるほどハッキリしていて、ユニークである。
キッドAが終わると、重量のあるダンス音楽イディオテックが来る。
シンセリフも、高〜い声のサビも良いが、なんといっても打ち込みベースの重い音がすばらしい。リズムマシンの音で左右に気もちよく踊ろうとする人を強制的に中心位置に引き戻す「ドッドド。ンドッ、ド」というベース。
冷凍室の中で踊るようなイディオテックから、切れ目なしにデイドリーミングへ入る。
デイドリーミングは白い。聴いているほうまで白色になってしまうような音である。しかしふしぎと、寒くはない。あたたかくもない。
そしてこの曲はダンスではなく、歩行を強いる。ミュージックビデオの影響もあると思うが、逆に作った人ですら、この曲をバックに何かするなら、あてもなく歩くのが、もっともよいと思ったにちがいない。
歩くからといって、走ってよいわけではない。何かを忘れて、それが気がかりだから、走ってしまうと見過ごす恐れがある。だから歩いて探すほかない。そういう音である。
途方にくれた眠気の音で曲は終わり、フェイクプラスティックトゥリーズが始まる。
目を覚ました、という感じであるが、夢の中で目を覚ましたような気もして、よく分からぬ。
寒さがある。
若さを感じるギター、ドラム、歌。1995年のヒット曲であるが、夢の中できいただけの曲のようにも感じる。
トゥルーラブウェイツが始まる。「ああやはり夢だったか」という感じがする。デイドリーミングの白色に戻ってきて、しかし立ち止まっている。
色々な人々が何かしているのが見える。この曲は大変な強度の歌詞と、コード進行を持っていて、時に私は泣いてしまうが、自分ごとと思うから
感動するのではない。こういう言葉をこのメロディで歌っている人が目の前にいる気がして、感動しているのである。
スキャッターブレインが始まる。トゥルーラブウェイツで、途方に暮れた人に、常温かつ、ふつうのラジオヒットのような楽器編制の曲調が、日常感覚を与えてくれるが、メロディが異様に際立っている。
あ、ちょっと、と言う間もなく終わってしまい、ピラミッドソングが始まる。
混乱と不安の塊と感じるか、現代ジャズの古典と感じるかは、人によると思う。しかしベストアルバムのここまでの流れの中で、はっきりとここまでジャズっぽいドラムが出るのは初めてであり、ハッとさせられる。
途方にくれるしかないストリングス。視界が暗くなっていく。
ここに、バキバキにエアーバッグが始まる。やけに明るく感じ、「すばらしい!」と言ってしまいそうである。
この曲のギターメロディはレディオヘッド史の中でも最高のものかもしれない。
何か気が遠くなるような、しかし心地よい感じは、1曲目のハウスオブカーズに通ずるものがある。
ポ、ポ、ポ、ポと音が鳴って、パイプオルガンのような音。モーションピクチャサウンドトラック
に入る。一転して、室内。木の匂いがする。
不鮮明なオペラのような音がすばらしい。恐ろしい曲である。
これで終わってしまうと、動けないので、ラストに
エブリシングインイッツライトプレイスが
必要である。ここまでの流れのあとで聴くと、この曲は私たちの日常感覚にもっとも近い。やや寒い中で、小刻みに左右に動いている。
探せばわかるリズムがずっと底にあって、楽しい。