雑感2 橋本多佳子の俳句
俳人・橋本多佳子(1899-1963)は、量と質を兼ね備えた信頼できる女性アーティストという点で、ジョニミッチェルや荒井由実と似ていると思う。
三作目の句集「紅絲」(こうし。1951年発表)を読んでいると、バキバキに凄い句が並んでいて驚く。ちょっと十句を書きぬいてみる。
②は「ダカレテイキノツマリシコト!」の「絶叫感」が異様であるが、別の読み方をすれば静かに記憶を辿っているようにも見える。
③は「壁凍る」という状況(そう感じ取った作者の感覚)の怖さが凄い。
⑦は「百姓」「桃」という言葉から与謝蕪村や炭太祇の雰囲気を感じた。ちょっと楽しい。
⑧は、色と時間がずーっと並んでいる。
⑨は、(どの句もそうであるが)音読するとまず気持ちがいい。カゴエヨコヒクヒトノイエ。
⑩は私が最も好きな俳句の一つである。「暗きひとところ」が目に見えるし、祭りの喧騒が聞こえてくる。そこをくぐる時の若干の不安。踊りの輪は延々と回り続ける。
祭りでの踊りを詠んだ橋本多佳子の句では、
「かの老婆まためぐりくる踊りくる」も凄く良い。老婆という状態になった人間が持つ「怖さ」という側面を、うまいこと伝えていると思う。