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臨床工学技士がSGLT2を勉強してみた

Introduction

 維持透析、循環器業務に従事する臨床工学技士にとって、糖尿病は相変わらず維持透析の導入疾患1位であり、低血糖では大急ぎでブドウ糖を回路から注入することもあり、2枝・3枝病変の動脈硬化性病変では、(1)糖尿病がない場合にはCABGとPCIの成績に大きな差はない、(2)糖尿病があると、いずれの手技も非糖尿病の場合に比べ成績が劣るが両者を比べた際にCABGが優れる、(3)LMT病変に関しては両者の成績に差はないが、多枝病変に関してはCABGが若干優れていたこと,など心カテ業務においても糖尿病を合併している対象に業務を行う事が多い。

SGLT2を学ぶ理由

 薬物療法は、なかなか当事者意識を持てないものですが、知らないより知っていた方が良いと思いますし、これからは処方で目にする機会が増えると思います。打倒!!糖尿病を考えるうえで、SGLT2が何の効果があるのか?をざっとOver viewしてみます。この薬剤、糖尿病治療薬+心不全治療薬なんです!!

 先日、公表された2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版では、SGLT2は、急性・慢性心不全診療最適な薬物治療(最大量あるいは最大忍容量のβ遮断薬,ACE 阻害薬 [ または ARB] および MRA)が導入されているにも関わらず症候性で,収縮能の低下した(LVEF ≦ 40%)慢性心不全患者に対し,心不全悪化および心血管死のリスク低減を考慮してダパグリフロジンを投与する.が、推奨クラスⅠ、エビデンスレべルAとされています。

SGLT (sodium glucose co-transporter 2 : Na共役型グルコース輸送体) -2阻害薬とは

(余談)ナトリウムは(sodium)ソジウム、ソーダ(曹達)ともいわれます。
ですので、ナトリウムとグルコースの輸送体のことで、この働きを阻害する薬剤です。

(シンプルな説明)

 高血糖の状態では、SGLT2を介して、再吸収が亢進され輸入細動脈中のナトリウム濃度の低下を感知し、傍糸球体装置により輸入細動脈を拡張させ糸球体高血圧の状態となります。SGLT2とは、腎臓の近位尿細管に存在するタンパク質の一種で、尿細管からグルコース(ブドウ糖)とナトリウムを血管へ輸送(運び屋)する役割を果たしています。
この機能を阻害する、SGLT2阻害薬は近位尿細管でのナトリウムとグルコースの再吸収を抑制することで、血糖値の低下(尿糖の増加)、ナトリウム利尿と浸透圧利尿(血液流量を減らすことなく組織間液の除水効果)が働き、体液量(体重)の減少、血圧が低下するという報告が出ています。
→糖尿病治療薬と心不全治療薬の2つの側面があることが分かっています。

(糖尿病治療薬としての側面-ちょっと予習-)

SGLTの種類はいろいろあり、体内のさまざまな場所に存在しています(図1)。SGLT2に限っては、腎臓の近位尿細管という場所に限定的に存在しているのが特徴です。近位尿細管は、血液中から取り出して必要なものを体内に取り込み(再吸収)、不要なものを尿として排泄する働きをします。この過程において、SGLT1とSGLT2は、Naと栄養分のグルコースを細胞内に取り込む役割を担っています。近位尿細管で再吸収されるグルコースのうち、90%はSGLT2の働きによるもので、残りの10%はSGLT1の働きによります (図2)。
腎尿細管からのグルコース再吸収を抑制し,過剰なグルコースを尿中に捨てることで血糖値を正常化して、糖毒性を軽減しようとします。

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図1. SLGTの種類と特徴(https://medical.nikkeibp.co.jp/all/special2/ttm/lsf.html)

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図2. 近位尿細管におけるグルコース再吸収
(金井好克. SGLT2発見の歴史・経緯と腎臓の糖再吸収機構. DIABETES UPDATE Vol.2 No.3, 48-55, 2013)

(心不全治療薬としての側面-ちょっと予習-)

SGLT2はグルコースと同時にナトリウム再吸収を担うことから、ナトリウム排泄を増加させナトリウム利尿効果と、糸球体高血圧を改善させることで、腎実質の負荷を軽減します(腎エリスロポエチン分泌亢進によるヘマトクリット増加、心臓保護作用)。こうした比較的軽度な利尿作用により体液量の減少効果と軽度の血圧低下作用があります。
また、慢性高血糖、血糖の変動が酸化ストレスの増加に寄与するとの報告(芳野 原. 高血糖と酸化ストレスマーカー. 月刊糖尿病 2010/8 Vol.2 No.9)、高血糖と内皮機能障害の進行能報告(村田 有子. 糖尿病患者の血管内皮機能について―RHI による評価―. 糖尿病 59 巻 3 号.2016)からも心血管イベントの発症危険因子と関連していることが報告されています。
これら多くの作用は、代謝の保護作用と、循環補助の効果に分けることができます(図3)。

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図3. SGLT2 阻害薬の心血管保護作用として推定される経時的なメカニズム
(Tanaka A. et al. J cardiol.2017:69:501-7より改変)

以下、SGLT2を理解するための図です。

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図4. SGLT2阻害薬の作用機序
(桑原 宏一郎. 心不全薬物治療の最前線. 信州医誌,68⑹:349~355,2020)

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図5. 加来浩平. SGLT2阻害薬の有用性と使用上の注意点─糖尿病の治療薬としての位置づけ. (週刊日本医事新報 4860号(2017年06月17日発行) P.28)

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図6. Thomas A.ZelnikerMD, MScEugeneBraunwaldMD.
Mechanisms of Cardiorenal Effects of Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitors.Journal of the American College of Cardiology. Volume 75, Issue 4, 4 February 2020, Pages 422-434を参考に作成

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図7. SGLT2 阻害薬の薬理学的作用と心不全における臨床的有効性エビデンス(2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療)

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図8. SGLT2と利尿
(増田貴博、腎臓専門医のための診療Q&A 改変)

今回、参考にさせて頂いた書籍

レシピプラス Vol.19 No.2 再発見!SGLT2阻害薬のチカラ: 事前の指導でトラブル回避!!

ザ・ベーシックメソッド 心不全 薬物治療

循環器診療コンプリート 心不全 (循環器診療コンプリートシリーズ)

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